EV化・日本の前に立ちふさがる4つのリスク(4月1日)
バイデン政権が、EVの普及に向けて購入者が税制優遇を受けられる仕組みを盛り込んだ。ただし多くの日本車は対象外で、日本メーカーが、米国市場で現地生産に向けた投資を加速させているにも関わらず、税制優遇の対象外となるのは、日本にとっては納得ならない状況である。そもそもこうした状況は日本の自動車メーカーのEV産業への参入が遅れたことに起因している。今後、日本の前に立ち塞がるいくつかのリスクをリストアップしてみた。...
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バイデン政権が、EVの普及に向けて購入者が税制優遇を受けられる仕組みを盛り込んだ。ただし多くの日本車は対象外で、日本メーカーが、米国市場で現地生産に向けた投資を加速させているにも関わらず、税制優遇の対象外となるのは、日本にとっては納得ならない状況である。そもそもこうした状況は日本の自動車メーカーのEV産業への参入が遅れたことに起因している。今後、日本の前に立ち塞がるいくつかのリスクをリストアップしてみた。
リスクの1つ目は競争力の低下である。他国に比べ、EV技術の開発や導入が遅れたことによって、日本の自動車メーカーの競争力はガソリン車と比べ低下している。既に欧米や中国に主導権を握られていると言っても言い過ぎではない。
2つ目は世界的に環境規制が厳格化する中で、EVの需要が増えているという現実を見据えてこなかったため、日本は環境規制に対応する技術開発にも遅れをとっている。これを口実に市場から締め出されるリスクもゼロとはいえない。
3つ目は、そもそも日本に資源がなく、重要資源を海外から調達しなくてはならないというリスクがある。例えばEVに必要なリチウムイオン電池の主原料であるリチウムは、世界的に需要が増加しており、資源の確保が難しい。米中の覇権争いや地政学リスク、経済安全保障、パンデミックなど、複合的な要因でこうした資源を安定的に確保することが将来的にできなくなる可能性もあり、その場合、生産の遅れやコストの増加などが懸念されている。
4つ目はEVの普及による既存の産業の影響について十分な制度設計ができていない点である。EVの普及は巨大ピラミッド構造を構成している自動車産業や部品工場、雇用にも大きな影響を与えるだけでなく、エネルギー産業やその他の関連産業にも影響が及ぶ可能性がある。日本の対応は付け焼き刃的であり、今後想定される影響に対し日本の産業全体として適切に対応できるような準備が整っているとは言い難い。
しかし、日本に全く希望がないわけではない。例えば米国でマスキー法が施行された時、ホンダの技術者がこれをクリアできる画期的なエンジンの燃焼技術を打ち出してみせ世界を驚愕させたことからもわかるように、日本には高い技術力がある。リスクの芽を除去し、最終的にはEV業界においても主導権をとっていけるだけのポテンシャルは持っているはずである。
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日本の原発政策(8月29日)
三井物産・三菱商事はサハリン2への出資を継続する方針を示したが、ウクライナ戦争の長期化が確実視される中で、日本側が呑めない条件をロシア側から突き付けられ、サハリン2からのLNGが入って来なくなる可能性も依然として残っている。
そうしたエネルギー安全保障リスクや電力不足に対応する意味でも、日本は現在止まっている原子力発電所を動かしていく必要がある。
24日、政府は総理大臣官邸でGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を開き、これまでに再稼働した原発10基に加え、来年の夏以降、追加で7基の再稼働を目指す方針を確認した。...
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三井物産・三菱商事はサハリン2への出資を継続する方針を示したが、ウクライナ戦争の長期化が確実視される中で、日本側が呑めない条件をロシア側から突き付けられ、サハリン2からのLNGが入って来なくなる可能性も依然として残っている。
そうしたエネルギー安全保障リスクや電力不足に対応する意味でも、日本は現在止まっている原子力発電所を動かしていく必要がある。
24日、政府は総理大臣官邸でGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を開き、これまでに再稼働した原発10基に加え、来年の夏以降、追加で7基の再稼働を目指す方針を確認した。
にわかに追い風が吹き始めたかのように見える日本の原子力政策だが、ロシア側の動きによって今、窮地に追い込まれている。ロシア側がウクライナのザポリージャ原発に対しミサイル攻撃を行ったことによって「テロ対策の強化」「安全性第一」という原発に対する規制強化の機運が強まり、原発の再稼働を急ぎたい政府の方針を揺るがしている。
特重(特定重大事故等対処施設)はテロ攻撃などがあった場合、放射性物質の拡散を防ぐための施設で、その設置を義務付けた原子力規制委員会の規則は、福島第一原発事故の教訓を生かし、大変厳しいものとなっている。
例えば、福井県の関西電力「美浜原発3号機」は2021年6月に再稼働が認められたものの、定められた期限内にテロ対策施設が完成しなかったという理由で、たったの4か月で運転を停止するはめになった。
ベースロード電源のひとつである原発の稼働には時間がかかることは間違いなく、経済や社会からの需要と安全性の間で政府は板挟みになっているように見える。
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原発は電力危機克服の切り札となるか(8月13日)
老朽化原発を稼働させるという施策により、今夏の電力需給はなんとか乗り切れる見通しとなった日本だが、厳しいのはとどまるところを知らない電力価格高騰と今冬の電力需給である。
電力需給に関しては、電力インフラへの投資不足、火力発電の停廃止、厳しい審査による原発再稼働の遅れ、再生可能エネルギーの発電が天候に左右されることなどによる発電能力の不足、ロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガス価格の高騰などにより、今冬の電力需給の東京電力管内の予備率はマイナスに落ち込む可能性すら指摘されている。...
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老朽化原発を稼働させるという施策により、今夏の電力需給はなんとか乗り切れる見通しとなった日本だが、厳しいのはとどまるところを知らない電力価格高騰と今冬の電力需給である。
電力需給に関しては、電力インフラへの投資不足、火力発電の停廃止、厳しい審査による原発再稼働の遅れ、再生可能エネルギーの発電が天候に左右されることなどによる発電能力の不足、ロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガス価格の高騰などにより、今冬の電力需給の東京電力管内の予備率はマイナスに落ち込む可能性すら指摘されている。
ロシアからの日本へのLNG輸入は全体の1割弱を占めているが、今後の日本の電力需給に暗い影を投げかけているのが「サハリン2」について、ロシア側から1か月以内に新ロシア法人への参画に同意するかの判断を迫られていることである。
水面下でロシア側に非友好国と認定された日本は、呑めない要求を迫られている可能性があり、予断を許さない状況に置かれている。仮に「サハリン2」から撤退となった場合にはこれを代替できるLNG契約は他になく、今後の日本の電力需給に大きな影響を及ぼす可能性がある。
8月10日に行われた内閣改造で新たに経済産業担当大臣に就任した西村康稔大臣は来夏以降の電力安定供給のために原発の再稼働が必要との立場を打ち出している。加えて次世代原発SMRなどの研究開発も積極的に行っていきたいとするなど、原発推進姿勢を明確にしている。
今冬の電力需給をいかに乗り切るかについては原発の運転再開と休止中の火力発電所を着実に稼働させていくことによって乗り切っていきたい方針である。
欧州や韓国、中国、トルコなど、世界中がクリーンエネルギーとしての原発に回帰する動きがある中、日本は2011年の福島第一原発事故のトラウマを抱えており、原発への回帰に関しては他国に比べてひと際ハードルが高いと言わざるを得ない。
菅政権下で、コロナ担当大臣として地域や社会に対し説明を行い説得する役割を担った西村大臣に、今度は原発再稼働について白羽の矢が立った形である。
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人口減少の中での外国人労働者問題(6月28日)
日本の少子化問題の打ち手の1つは外国人労働者の受け入れである。日本人労働者が減少する中、今後、外国人労働者の割合が高くなってくることも予想されている。
歴史を振り返ると、第二次安倍政権の下で急速に進んだのが、外国人労働者の受け入れであった。在留資格に「特定技能」という項目を追加したことによって事実上の外国人労働者受け入れが進み、日本人がやりたがらない仕事も気軽に引き受けてくれる外国人労働者に助けられてきたのは事実である。...
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日本の少子化問題の打ち手の1つは外国人労働者の受け入れである。日本人労働者が減少する中、今後、外国人労働者の割合が高くなってくることも予想されている。
歴史を振り返ると、第二次安倍政権の下で急速に進んだのが、外国人労働者の受け入れであった。在留資格に「特定技能」という項目を追加したことによって事実上の外国人労働者受け入れが進み、日本人がやりたがらない仕事も気軽に引き受けてくれる外国人労働者に助けられてきたのは事実である。
厚労省のデータによれば現在、日本における外国人労働者の国籍はベトナム、中国、フィリピン、ブラジルの4か国だけで7割近くとなっており、国にやや偏りが見られるところが気がかりである。
外国人労働者が従事する中で最も多いのは建設業で、次がサービス業、卸売業・小売業となる。
こうした流れの中で、厚生労働省は来年度、外国人労働者の統計を新設することを決めた。新統計では国籍や在留資格、賃金や雇用形態、勤続年数、労働時間、前職や転職理由、母国での最終学歴や家族への仕送り額などが把握できるという。この統計は政策立案やマーケティング、外国人労働者の待遇改善や就労支援、企業とのマッチングに役立てることが期待されているという。
日本において外国人労働者はコンビニなどで既に顔なじみの存在となっているものの、国民不在のまま、政策によってどんどん水面下で外国人労働者の受け入れが進んでいるようにも感じられる。
受け入れることで既成事実化させてしまうのではなく、改めて国民的な議論も必要となる。
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日本列島周辺のきな臭い動き(6月26日)
尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で25日、中国海警局の船2隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは71日連続である。中国船の出没はもはや常態化しており、実効支配している証拠とエビデンスを無理やり作り出しているといえる様な行動様態である。
一方、ロシア海軍も日本を威嚇するかのような動きを見せている。20日にはロシア海軍の駆逐艦やフリゲート艦など5隻が沖縄本島と宮古島の海域を通過し、太平洋から東シナ海に入ったのを海上自衛隊の艦艇や哨戒機が確認した。...
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尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で25日、中国海警局の船2隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは71日連続である。中国船の出没はもはや常態化しており、実効支配している証拠とエビデンスを無理やり作り出しているといえる様な行動様態である。
一方、ロシア海軍も日本を威嚇するかのような動きを見せている。20日にはロシア海軍の駆逐艦やフリゲート艦など5隻が沖縄本島と宮古島の海域を通過し、太平洋から東シナ海に入ったのを海上自衛隊の艦艇や哨戒機が確認した。
5隻はいずれも15日に北海道・襟裳岬の南東沖で確認されその後、千葉県沖や伊豆諸島周辺を航行し、日本列島を威嚇するようにほぼ半周した。ロシア国防省は、太平洋で40隻以上の艦艇などが参加する大規模な演習を行うと発表しており、防衛省関係者によると、5隻はこの演習に参加していたとみられる。
ロシアの日本への威嚇は経済制裁以来、どんどんエスカレートしてきているようにも見える。プーチン政権は、日本を繰り返し非難し、「ビザなし交流」事業も停止、4月にはモスクワに駐在する日本大使館の外交官ら8人を追放し、5月にはロシアへの入国を禁止する岸田首相を含む日本人63人のリストを公開するなど、強硬な姿勢を続けている。
ロシアはサイバー空間でも日本に攻撃を仕掛け続けており、マイクロソフト社は「日本も(サイバー攻撃の)標的になっている」と報告書で警鐘を鳴らしている。さらに第2次世界大戦が終結したとする9月3日の記念日の名称について、ロシア議会議員グループは24日、「軍国主義日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」にする法案を下院に提出した。その理由として、ウクライナへの特別軍事作戦の開始以降、日本は、欧米とともにロシアに対して前例のない非友好的キャンペーンを展開していることを挙げている。北朝鮮も中国とロシアと連携した動きを見せている。国連安保理で中国とロシアが拒否権を発動し、事実上の野放し状態が続いている。近日中に北朝鮮はミサイル実験・核実験を行うとみられるが、場合によっては日本列島上空を通過させる可能性も否定できない。
ロシア・中国・北朝鮮に囲まれた日本は地政学的な脅威に囲まれ、日々威嚇されているにも関わらず、現下の参院選挙において安全保障の話があまり取り上げられない。
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