【日本の戦略】
設計思想を大事にしたい(1月22日)
脱炭素化とデジタル化の進展はまさに時代が変わろうとしているサインであり、新型コロナ感染症がこの流れを加速させている。一方日本の思考方法を変えざるを得ない局面に追い込まれている。
新たな時代の担い手の一つは、IT企業や半導体企業である。日本に巨大なIT企業が少ない大きな遠因は2008年、スマホとクラウドへの世界的大移行の波に乗り遅れたことでもある。すでに米国では、GAFAが登場していたが、それからも日本の企業はG
A F A規模にはなれなかった。...
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脱炭素化とデジタル化の進展はまさに時代が変わろうとしているサインであり、新型コロナ感染症がこの流れを加速させている。一方日本の思考方法を変えざるを得ない局面に追い込まれている。
新たな時代の担い手の一つは、IT企業や半導体企業である。日本に巨大なIT企業が少ない大きな遠因は2008年、スマホとクラウドへの世界的大移行の波に乗り遅れたことでもある。すでに米国では、GAFAが登場していたが、それからも日本の企業はG
A F A規模にはなれなかった。
携帯からスマホへの移行が遅れ、クラウドの受け入れを遅延させ、ガラパゴス化を生んでしまった。上層部にはお金やビジネスの専門家が多かったが発想やビジョンを持つ人が少なく、新しい時代に対する構想力が不足していた。
今でもこの構造はあまり変わっておらず、例えば半導体産業をトータルでイメージできている専門家は少ない。半導体産業というと日本では70から80年代に作っていたトランジスターや発光ダイオードのようなチップを製造する企業だと想像する人が多い。あるいはTSMCのような半導体製造会社(ファウンドリー)が製造している製品を半導体産業のコアだと思っている人もいる。しかし、半導体を作るためには数えきれないほどの段階があり、上流部分にあるアーキテクチャーに目を向ける人は少ない。
具体的にはアームなどの、基本回路の設計図、仕様を決めるアーキテクチャー企業群が上流には存在する。彼らが作った設計図をアップルやグーグル、クアルコム、エヌビディアといった、例えていうなら設計事務所が設計し、TSMCのようなファウンドリーに作らせているというのが実情である。
振り返れば70年代の日本、例えば富士通は新たなアーキテクチャーを開発する意欲を少なくとも持っていた。米国IBMからアムダール博士を独立させ、新型コンピュターの設計図を作らせていたことからもそれは明らかである。残念ながら2022年の日本ではもはやアーキテクチャーの概念そのものが重要視されていない。
この流れを理解しアーキテクチャーのジャンルに踏み込んでいかない限り、日本はアーキテクチャラーが構想したものを作るだけの立場で終わってしまうだろう。今、日本企業に、求められているのはアーキテクチャーの重要性を認識し、作り出してゆく創造ではないだろうか。
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外国人労働者の動向(1月3日)
コンビニエンスストアの店員から中国人や韓国人が減り、ネパール人やウズベキスタン人、カンボジア人、ミャンマー人の店員が増えている。
ネパール人やウズベキスタン人、カンボジア人、ミャンマー人が増えているのは2019年4月に人手不足を解消するために安倍政権下で成立した「改正出入国管理法」を施行したことが大きい。
「改正出入国管理法」で設けられた在留資格「特定技能」とは、日常会話程度の日本語ができ、業種ごとに定められた一定の技能を満たしていると認定されれば、最長5年間日本で働くことが認められるというもので、当時は移民を促す法律であるとして批判された。...
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コンビニエンスストアの店員から中国人や韓国人が減り、ネパール人やウズベキスタン人、カンボジア人、ミャンマー人の店員が増えている。
ネパール人やウズベキスタン人、カンボジア人、ミャンマー人が増えているのは2019年4月に人手不足を解消するために安倍政権下で成立した「改正出入国管理法」を施行したことが大きい。
「改正出入国管理法」で設けられた在留資格「特定技能」とは、日常会話程度の日本語ができ、業種ごとに定められた一定の技能を満たしていると認定されれば、最長5年間日本で働くことが認められるというもので、当時は移民を促す法律であるとして批判された。「改正出入国管理法」には対象国が指定されており、ベトナム、フィリピン、カンボジア、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、中国、モンゴルの9か国だった。
これまで安い労働力を提供してきた中国人や韓国人が少なくなった理由は彼らが裕福になったためであり、そうした労働をする必要がなくなったため日本に来なくなったという解釈が可能である。
ベトナム人については悪質ブローカーによる搾取問題という送り出しサイドの問題が大きくクローズアップされ、受け入れ側が敬遠したことも大きい。日本に行くために莫大な借金を背負い、日本で犯罪に手を染めてしまうベトナム人も少ないのはそのせいかも知れない。
「特定技能」をめぐっては、新型コロナの影響もあり希望者が思うように増えてきていない現状がある。日本で介護の仕事をしようと考えていたインドネシア人もコロナを機に来日を諦めてしまい、日本の介護業界の人手不足に拍車がかかる可能性も指摘されている。
インターネットの登場で外国人を安い賃金で使う日本を含む先進国のグローバリズム的な雇用形態が白日のもとにさらされるようになり、批判を浴びるようにもなってきている。
新しい資本主義を掲げる岸田政権下では安い外国人労働者を使う方向性から、賃上げして日本国内の人材を使う方向にシフトしていくかも知れない。
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EVをめぐる世界の駆け引き・その時トヨタは(12月18日)
脱炭素を錦の御旗に掲げ、EV化の波が世界を覆いつくそうとしている。米国の自動車産業の象徴であったデトロイトではEVやバッテリー関連の工場が次々と建設されている。日本では佐川急便が輸入を決めるなど、中国製の商用EVトラックがいつの間にか入り始めている。欧州や中国の企業はEV化に向けてまっしぐらに突き進んでおり、素材から生産設備まで全ての生産インフラに先手をつけ、「EV以外の動きに出ても無駄だ」と言わんばかりに外堀を埋める動きに出てきている。...
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脱炭素を錦の御旗に掲げ、EV化の波が世界を覆いつくそうとしている。米国の自動車産業の象徴であったデトロイトではEVやバッテリー関連の工場が次々と建設されている。日本では佐川急便が輸入を決めるなど、中国製の商用EVトラックがいつの間にか入り始めている。欧州や中国の企業はEV化に向けてまっしぐらに突き進んでおり、素材から生産設備まで全ての生産インフラに先手をつけ、「EV以外の動きに出ても無駄だ」と言わんばかりに外堀を埋める動きに出てきている。
例えば、後から追随しようにもEVやEVバッテリーに必要な素材であるリチウム、コバルト、ニッケルを買い占め、値段をつり上げ、入手できないようにしてしまう、最終的には彼らの用意した部品をただ組み立てるだけの仕事しか残っていないという状態を彼らは作りあげようとしている。
こうした動きを横目で見つつ、トヨタ自動車・豊田章男社長はEVとバッテリーに関する会見を開き「2035年までに350万台30車種のEVを投入する」と発表した。これまでEVに積極的でないと言われていたトヨタのイメージを一新する狙いがこの会見にはあった。
同じ日本の自動車産業でも日産とホンダはEV化の方向に舵を切った。こうした状況の中で、豊田社長は世界的潮流となっているEV一辺倒の流れには追随することなしに、「EVもやるが、(エンジンを内包した)HVも、PHVも同様にやっていく」という強気の姿勢を見せた。世界の自動車市場をけん引してきたトヨタならではの自信から来るものであり、トヨタは他の動力車と同じぐらいの力をEVにも注ぐつもりであるという意思表示であった。
他方、フォルクスワーゲンなどは2035年までにEVを5割まで引き上げていくとしているなど、EVへの力の入れ具合にはかなりの温度差が存在する。トヨタが力を分散させている間にも欧州・中国勢はなりふり構わずEVに全力を注ぎ、その差を広げようとトップスピードで走っている。
GMやダイムラー、フォルクスワーゲンなど世界を代表する自動車会社が2024年までに全米の自動車市場をEVで席捲しようという計画がある中で、従業員の雇用にまで目を配る日本型企業経営者の代表的存在、トヨタ自動車・豊田章男社長の戦略的成功に日本の将来がかかっていると言っても過言ではないかも知れない。
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日本独自の工夫でCO2削減へ(12月6日)
日本は日本独自のやり方でCO2の削減を考えている。発電方式では大まかに2つある。1つは高効率の石炭火力発電所である。
燃焼時にCO2を発生させないアンモニアを混ぜていく手法である。日本はCOP26で化石賞をもらったが、日本は老朽化した石炭火力発電所のフェードアウトを実現させている。
一方で、石炭とともに、バイオマスやアンモニアを混焼することによって発電効率の向上と低炭素化を図っている。...
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日本は日本独自のやり方でCO2の削減を考えている。発電方式では大まかに2つある。1つは高効率の石炭火力発電所である。
燃焼時にCO2を発生させないアンモニアを混ぜていく手法である。日本はCOP26で化石賞をもらったが、日本は老朽化した石炭火力発電所のフェードアウトを実現させている。
一方で、石炭とともに、バイオマスやアンモニアを混焼することによって発電効率の向上と低炭素化を図っている。例えば、広島の竹原火力発電所は熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱効率が48%で、石炭を微粒子に粉砕して燃やす方式では世界最高水準に位置している。日本の石炭火力発電には、世界最高水準のガス化技術や高効率の発電技術の蓄積があり、CO2排出減にも貢献している。
もうひとつは、SMRと呼ばれる次世代小型原発も発電時にCO2を出さないエネルギー源として期待されている。「脱炭素エネルギー」として世界的に原発を再評価する動きが広がっている中、SMRと呼ばれる次世代小型原発も発電時にCO2を出さないエネルギー源として期待されている。日立製作所とGEの合弁会社「GE日立ニュークリエナジー」などが製造するSMRは炉心が小さく、故障してもすぐに停止できるというメリットがある。重大事故の場合でも、冷却水を自動的に循環させる仕組みになっており、安全に停止させることができる。モジュール化されているため短期間で建設でき、建設コストも低く抑えられる。SMRは原子力関連技術のイノベーションと言っても良い程のレベルにある。
上記2つに太陽光発電や風力など再生可能エネルギーとCO2を地下に貯蔵するCCSやCCUSといった技術、排出権取引や省エネ、カーボンプライシングなどを組み合わせていくことが現実的手法となる。
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ゲームチェンジャーとなり得る技術・光電融合とは何か(11月23日)
日本の半導体業界はNTTの新たな技術に救われるかも知れない。
NTTが技術開発で「光電融合」技術の確立に成功したことが大きい。世界の先頭を走れる高い技術である「光電融合」とは具体的に言うと、電気信号を光信号に変換し、光信号を電気信号に変換し、入力した光信号を別の光に変換・増幅する「光トランジスタ」と光信号のオンとオフや光の行き先を切り替える「全光スイッチ」、超高速の演算処理を担う「光論理ゲート」の3つの要素から成り立つ「電子技術」の限界を突破し、従来の性能をはるかに上回る強力かつ汎用性に富んだ「光技術」である。...
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日本の半導体業界はNTTの新たな技術に救われるかも知れない。
NTTが技術開発で「光電融合」技術の確立に成功したことが大きい。世界の先頭を走れる高い技術である「光電融合」とは具体的に言うと、電気信号を光信号に変換し、光信号を電気信号に変換し、入力した光信号を別の光に変換・増幅する「光トランジスタ」と光信号のオンとオフや光の行き先を切り替える「全光スイッチ」、超高速の演算処理を担う「光論理ゲート」の3つの要素から成り立つ「電子技術」の限界を突破し、従来の性能をはるかに上回る強力かつ汎用性に富んだ「光技術」である。
単純化して言うと、電気を光信号に変え、力を小さくし、省エネ化を達成する一方で、高速でデータを流通させることができるICTの性能を革命的に向上させる可能性を秘めたインフラストラクチャーということである。
NTTは「光電融合」のデバイスを搭載した機器を配置した「オールフォトニクス・ネットワーク」を構築し、2030年をめどに次世代データセンターをけん引していこうとしている。
NTTは「光電融合」を中核に、ネットワークから端末、半導体など全てのデバイスに光ベースの技術を導入し、従来にないサービスを実現するという「アイオン」構想を提唱している。これは半導体技術などに大きな革命をもたらすものになるかも知れない。
注意すべきことは、米中の政治的な変数が入り込むことによって時期がずれたり、邪魔が入らないとも限らないことである。そうならないように状況をよく見極め、大胆に行動していくことが求められている。
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次世代型データセンター(11月20日)
成長産業をこれから作り出していかなくてはならない状況にある日本にとっては、総花的にいろいろやっていくという態度ではなく、「選択と集中」という姿勢が求められる。
現在のデータセンターの建設ラッシュは、2023年頃までに落ち着き、その後は次世代データセンターに切り替わる形で建設ラッシュが続くものと見られている。
次世代データセンターには従来型にはない要素が求められている。それは省エネである。...
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成長産業をこれから作り出していかなくてはならない状況にある日本にとっては、総花的にいろいろやっていくという態度ではなく、「選択と集中」という姿勢が求められる。
現在のデータセンターの建設ラッシュは、2023年頃までに落ち着き、その後は次世代データセンターに切り替わる形で建設ラッシュが続くものと見られている。
次世代データセンターには従来型にはない要素が求められている。それは省エネである。微細化の急速な進展で、最先端の半導体集積回路の線幅は、最小の微細な粒子である原子のレベルに限りなく近づいており、コンピューターの性能向上が頭打ちとなった結果、計算量当たりの電力消費量も下げ止まっている。
その一方で、5GやIoT、AI、暗号資産などの普及によりデータ量は莫大なものとなる。例えば世界のデータ量は2018年比で2025年には5.3倍に増えると見込まれている。次世代データセンターに課せられた至上命題は省エネということになる。
デジタル化の進展に伴い、今後爆発的に伸びていくことが予測される次世代データセンターだが、経済産業省は2030年までにデータセンター全体で40%以上の電力削減を目指している。必要とされる省電力タイプのパワー半導体は日本が得意とする半導体である。
特に省エネにつながる最先端の光通信技術(光電融合)において実証実験を積み重ねてきたNTTの技術は折り紙つきである。
NTTは電子によるデータの処理と「光」による通信伝送をそれぞれ担う機能を接合させることによって、消費電力を従来に比べ、桁違いに効率化させ、データ処理の超高速化への道を開く「光電融合」と呼ばれる技術を確立させた。
2030年には実用化されると言われている。日本は2030年を念頭に選択と集中で道を切り開いていくべきである。
日本の未来にやや光が見えてきたといえそうである。
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農業・畜産業における次世代技術(11月20日)
地球温暖化による悪影響を抑え、影響を受けずに進めようと農業・畜産業・外食産業に新しい技術が導入され、劇的な変化を見せつつある。
今やCO2に次ぐ温室効果ガスの代名詞となったメタンガスだが、牛のゲップ等に含まれるこうしたメタンガスを、いかに抑制していくかが地球温暖化防止のための大きな課題とされている。
解決策としてはメタンを減らす餌の開発、メタンを減らす胃の微生物開発、牛の品種改良などの技術などが考えられるが、カナダの研究所では米英豪、デンマーク、スイスの研究所と協力しながら、メタンガスを排出しない牛の遺伝子を活用し、メタンガスを排出しない「環境保護牛」の品種をつくり出そうとしている。...
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地球温暖化による悪影響を抑え、影響を受けずに進めようと農業・畜産業・外食産業に新しい技術が導入され、劇的な変化を見せつつある。
今やCO2に次ぐ温室効果ガスの代名詞となったメタンガスだが、牛のゲップ等に含まれるこうしたメタンガスを、いかに抑制していくかが地球温暖化防止のための大きな課題とされている。
解決策としてはメタンを減らす餌の開発、メタンを減らす胃の微生物開発、牛の品種改良などの技術などが考えられるが、カナダの研究所では米英豪、デンマーク、スイスの研究所と協力しながら、メタンガスを排出しない牛の遺伝子を活用し、メタンガスを排出しない「環境保護牛」の品種をつくり出そうとしている。
一方、牛ではなく高タンパク質で肉のような食感、ジューシーさを大豆など植物性原料で再現した代替肉の生産を増やすことによって、牛の消費量を抑えていこうという動きも出ている。マクドナルドなどでは代替肉バーガーが既に一部地域で実験的に販売され、好評を得ている。現時点では割高であるが、市場が拡大するにつれて価格は下がり2024年までに少なくとも肉と同等の値段、あるいはそれより安くなると予測されている。
さらに、農業分野ではそもそも農地の生産力を維持・増進させるために行われてきた有機物管理法が地球温暖化防止の切り札として注目されている。農地に投入する有機物の量を増やすと土壌中の炭素が増え、その分のCO2の排出量を減らすという効果の研究が進められている。
温暖化は天候不順を引き起こし、農業に壊滅的打撃を与える可能性があることも指摘されているが、JAXAは農業と宇宙というあまり関係のなさそうな分野を繋げ、環境監視衛星を利用しつつ、気象を広域かつタイムリーに把握し、国家レベルの広大なスケールで作況を判断できるようにしようという試みを行っている。
天候に依存せず農作物を安定的に供給できるようにしようという野菜工場にも注目が集まっている。ソフトバンクビジョンファンドはAIで制御された野菜工場を開発するスタートアップに巨額の支援を行っている。今後もこうした新しい技術に着目していきたい。
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戦い方が変わる・ロシアの衛星破壊実験が意味するもの(11月20日)
戦いのフィールドがこれまでの陸海空から、陸海空・サイバー・宇宙へと劇的に変わろうとしている。
今月15日、ロシアが、実施したミサイルを使用した衛星破壊実験は、高度485キロを周回していた旧ソ連の軍事偵察衛星「コスモス1408」を破壊するものであり、今後の「宇宙戦争時代」の幕開けを象徴するものであった。
地上において、探知や迎撃が困難とされている極超音速ミサイルをはじめミサイル技術が次々と進化していく中で、ミサイル探知や追尾を可能にするための手段として各国が開発に力を入れているのが複数の低軌道型小型衛星から成る衛星コンステレーションである。...
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戦いのフィールドがこれまでの陸海空から、陸海空・サイバー・宇宙へと劇的に変わろうとしている。
今月15日、ロシアが、実施したミサイルを使用した衛星破壊実験は、高度485キロを周回していた旧ソ連の軍事偵察衛星「コスモス1408」を破壊するものであり、今後の「宇宙戦争時代」の幕開けを象徴するものであった。
地上において、探知や迎撃が困難とされている極超音速ミサイルをはじめミサイル技術が次々と進化していく中で、ミサイル探知や追尾を可能にするための手段として各国が開発に力を入れているのが複数の低軌道型小型衛星から成る衛星コンステレーションである。
ロシアの衛星破壊実験は、こうした偵察衛星群を破壊することを目的とした実験であった。例えていうなら最先端ミサイルを監視する目(衛星)をミサイルが探知される前に潰してしまおうというわけである。
今回、ロシアが使用した秘密兵器は宇宙軌道にとどまり、相手の衛星を破壊するキラー衛星ではない。弾道弾迎撃ミサイルによく似た衛星破壊ミサイル「ヌードル弾道弾迎撃システム」である。
これまでもロシアはこの兵器による実験を行ってきたが、実際に軌道上にある衛星を撃ち落としたのは今回が初めてだという。こうしたミサイルは低軌道衛星に致命的な影響を与えるため、さらにこの裏をかくような迎撃システムの開発が各国で進んでいくものとみられる。
日本も宇宙の防衛分野に目を向けていないわけではない。岸防衛大臣が第二宇宙作戦隊を山口県の航空自衛隊・防府北基地に配備すると発表したことは日本にとってはプラスになるものである。
第二次大戦後の70年間は吉田ドクトリンのもとで経済に専念し、軍事防衛で出遅れてきた日本だったが、少なくとも宇宙の防衛分野においては他国にキャッチアップできる余地がある。JAXAをはじめとする優れた日本の宇宙開発技術を有効利用してこの分野にしっかりと食い込んでいくチャンスは今しかない。
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いつまで続くかLNG・石油価格高騰(11月6日)
コロナ禍から解放され、ようやくリベンジ消費になるのかと期待感が膨らんだ矢先、今度はエネルギー価格高騰とコンテナ不足や半導体不足など複合的な要因により、あらゆるものの価格が上がり始めた。各国の景気回復の足かせとなり、ハイパーインフレによる世界経済悪化も懸念されている。
物価高の犯人がわからない中、LNG・石油の増産をせず、価格をつり上げている産油国からなるグループ「OPECプラス」が物価高を招いている悪玉として、やり玉にあがっている。...
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コロナ禍から解放され、ようやくリベンジ消費になるのかと期待感が膨らんだ矢先、今度はエネルギー価格高騰とコンテナ不足や半導体不足など複合的な要因により、あらゆるものの価格が上がり始めた。各国の景気回復の足かせとなり、ハイパーインフレによる世界経済悪化も懸念されている。
物価高の犯人がわからない中、LNG・石油の増産をせず、価格をつり上げている産油国からなるグループ「OPECプラス」が物価高を招いている悪玉として、やり玉にあがっている。
彼らに対しLNG・石油増産をするようにバイデン大統領や岸田総理も圧力をかけたが、「OPECプラス」はこうした要請に一切応じず、追加増産見送りを決定した。
「OPECプラス」が追加増産見送った理由は、気候変動問題の存在が大きい。エネルギー移行期における現在をビジネスチャンスとして捉えている。自分達の商売道具である化石燃料の商品価値が下がらないうちに儲けられる間に儲けておこうという発想である。したがって彼らに対し「今のやり方を続けていると損をする」と思わせない限りは、増産はあり得ないということになる。
一方でLNG(液化天然ガス)価格の上昇には、同じ化石燃料でありながらもCO2排出量の多い石炭からCO2排出量の少ないLNGに乗り換えようと買い占めている中国の動きも絡んでいる。
福島原発事故以来、日本はLNGの恩恵を受けてきたが、中国の買い占めによって日本の電力事情が懸念されるようになってきており、来年2月にも電力がひっ迫する可能性も出てきている。
日本はマスクでもワクチンでも治療薬でも日本は世界の周回遅れになってきたが、今回地球温暖化問題、エネルギーでもそうなりつつある。そうならない為には国内を説得してベースロード電源としての原発に踏み込むしか方法はない。並行して、日本の得意な地熱発電等の開発を進めていく方策が妥当と思える。
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温暖化ガスの46%削減の実現性を考える(11月6日)
今世紀末までに世界の気温上昇を1.5度に抑えるという目標に向けて世界が一斉に動き始めている。日本は中期目標として2030年までに温暖化ガスの46%削減(2013年度比)を国際公約にした。
この目標達成は日本にとって容易なものではなく、現段階では目標数値で、明確な目標達成の裏付けの見えないまま、目標を示している状態である。
目標達成のために何をどうしようという具体的な説明が必要である。自然エネルギーに関してひとつひとつ見ていきたい。...
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今世紀末までに世界の気温上昇を1.5度に抑えるという目標に向けて世界が一斉に動き始めている。日本は中期目標として2030年までに温暖化ガスの46%削減(2013年度比)を国際公約にした。
この目標達成は日本にとって容易なものではなく、現段階では目標数値で、明確な目標達成の裏付けの見えないまま、目標を示している状態である。
目標達成のために何をどうしようという具体的な説明が必要である。自然エネルギーに関してひとつひとつ見ていきたい。まず風力発電。実はこの10年間、日本は浮体式風力発電を模索してきたが、本腰を入れてこなかったため、その間にノウハウを蓄え実績を積んできた英国やデンマークなど欧州の企業が、次々と日本市場に参入して来ようとしている事態となっている。このままいくと欧州製の風力発電によって自然エネルギー市場のシェアを奪い取られてしまう可能性がある。
太陽光発電に関しては中国の独壇場でポリシリコンの生産から太陽光セル、太陽光モジュールの製造に至るまで、すべての工程が中国の手中に握られており、自然エネルギー市場の太陽光発電のシェアに日本企業が入り込む隙間がない。加えて新疆ウイグル自治区で太陽光発電の機器の多くが作られていることをどう捉えるのかという問題もクリアしなくてはならない。
地熱発電はどうか。地熱発電のポテンシャルについて日本は世界第3位と言われており、自然エネルギーの中では一番期待が持てるが、開発する為に8年とか9年ぐらいの時間がかかる上、法的基盤整理にも時間がかかる。今からやっても2030年には間に合わない可能性もある。
結局、欧州製の風力発電と中国製の太陽光発電を援用してもなお、温暖化ガスの46%削減には届かないため、当分日本は、原発を使っていくしかない。しかし3.11を経験している日本の政治家は原発について踏み込んだ発言をすることができないという問題を抱えている。
2030年まであと9年しかない中で、耐用年数が過ぎた原発は廃炉にし、動かせる原発は動かし、それでも足りない部分は米国製の小型モジュール原発で補うとなどという明確な方針を示さなければ到底目標達成には間に合わない。
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日本版GPS「みちびき」打ち上げ(11月6日)
先月26日、高度3万6000キロの宇宙空間に向けて日本の準天頂星測位システム(QZSS)「みちびき」がH2Aロケットによって打ち上げられた。
測位衛星は国の安全保障や防災、サービス分野における基幹インフラであり、主に船舶や航空、自動車、鉄道のナビゲーションや地図アプリなどに利用されており、今や日常生活に欠かせないシステムとなっている。
今回の打ち上げは日本の測位衛星の4基のうちのひとつが老朽化したために打ち上げるというのが、打ち上げの表向きの理由となっている。...
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先月26日、高度3万6000キロの宇宙空間に向けて日本の準天頂星測位システム(QZSS)「みちびき」がH2Aロケットによって打ち上げられた。
測位衛星は国の安全保障や防災、サービス分野における基幹インフラであり、主に船舶や航空、自動車、鉄道のナビゲーションや地図アプリなどに利用されており、今や日常生活に欠かせないシステムとなっている。
今回の打ち上げは日本の測位衛星の4基のうちのひとつが老朽化したために打ち上げるというのが、打ち上げの表向きの理由となっている。
もうひとつの理由としては、米国製の測位衛星であるGPS(全地球測位システム)に依存しすぎない体制の構築が挙げられる。
1970年代後半から配備が始まった米国のGPSはクリントン大統領時代にGPS信号を無償提供する代わりにこれを世界標準として受け入れることを要求し、米国は影響力拡大のためのツールとして使っていった。
欧州はこの流れに疑問を呈し、GPSが途中で米国に止められてしまうことを恐れ、自前の衛星システム「ガリレオ」を打ち上げた。今や先進国では測位衛星について自前のものを使うのが当たり前になっている。
測位衛星は国の安全保障にも絡むため、例え同盟国と言っても、相手国の都合に左右されることも考えられ、頼り過ぎるのは危険であるという認識が一般的である。
今後、日本はさらに3基の衛星を打ち上げ、2023年をめどに7基体制としアジア太平洋地域において高精度の位置情報を提供していきたい考えである。
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ノーベル物理学賞に真鍋淑郎氏を讃える(10月9日)
ことしのノーベル物理学賞の受賞者に、プリンストン大学の上級研究員、真鍋淑郎氏が選ばれた。
真鍋氏のすごいところは地球温暖化問題を早くから提唱し、今のようにコンピュータが普及していない時代だったにも関わらず、数理モデルを作り、複雑な仕組みをコンピューターシミュレーションで、わかりやすく示したということに尽きる。
さらに大気と海流を2大変数として着目した点も特筆すべき点ではないだろうか。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書にも真鍋氏の予測モデルが引用されている。...
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ことしのノーベル物理学賞の受賞者に、プリンストン大学の上級研究員、真鍋淑郎氏が選ばれた。
真鍋氏のすごいところは地球温暖化問題を早くから提唱し、今のようにコンピュータが普及していない時代だったにも関わらず、数理モデルを作り、複雑な仕組みをコンピューターシミュレーションで、わかりやすく示したということに尽きる。
さらに大気と海流を2大変数として着目した点も特筆すべき点ではないだろうか。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書にも真鍋氏の予測モデルが引用されている。
真鍋氏の大きな功績は「地球温暖化問題」「数理モデル化」「シミュレーション」の3つである。
1958年に渡米した真鍋氏は米国での研究生活の中で、「コンピュータ」を使いこなし、気温や雨の分布といった地球の大気と海流の動き等をコンピュータ上で再現し、大気循環モデルを分かりやすくし、問題点を明確化した功績ではないだろうか。
40年間の気象研究で使った研究費は、驚くべきことに150億円で、このうち約75億円をスーパーコンピュータに費やした。まさに「コンピュータ」活用の達人と言える。
「コンピュータ」という道具を「地球温暖化問題」という人類が直面する大問題の解析に活用し、その理解を容易にしたということで、まさにノーベル物理学賞にふさわしい業績を残したと言える。
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半導体の新たなアーキテクチャーを切り開く(9月25日)
東京五輪が開催されるまで、日本が成長戦略に据えていたのは「観光」であった。ところが予期せぬコロナの到来と東京五輪の無観客開催によってこの戦略は宙に浮いてしまった。
そこで急遽浮上したのが半導体である。日本は米国や台湾などと連携しながら成長戦略の真ん中に半導体を据えていこうとしている。
日本で半導体と言う場合には主としてモノ作り分野での側面を指している場合が多いが、ひとことで半導体と言っても幅広い分野がある。...
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東京五輪が開催されるまで、日本が成長戦略に据えていたのは「観光」であった。ところが予期せぬコロナの到来と東京五輪の無観客開催によってこの戦略は宙に浮いてしまった。
そこで急遽浮上したのが半導体である。日本は米国や台湾などと連携しながら成長戦略の真ん中に半導体を据えていこうとしている。
日本で半導体と言う場合には主としてモノ作り分野での側面を指している場合が多いが、ひとことで半導体と言っても幅広い分野がある。
例えば、スマホに搭載されているプロセッサーの多くは英国・ARMによるものだが、ARMはモノ作りに携わっている会社ではなく、プロセッサーや周辺技術の基本設計や開発を行い、作り方・作ったものを売る権利(アーキテクチャ)を販売している会社である。言い換えれば知的財産権を販売している会社である。
一方、多くの日本人にとって半導体というのは半導体チップというモノそのものである。そのため、日本人の半導体認識から言えばARMという会社の存在自体、なかなか理解しづらいものである。
孫正義氏が鋭いビジネス嗅覚でARMを一旦は買収したが、その後、どう活用していいかわからずに手放したことに象徴されるように、日本の半導体戦略にはアーキテクチャという視点や知財権を販売するなどの視点が欠落している。
80年代に日本は半導体業界をけん引していたが、この時の規格化された汎用チップとしてのステレオタイプな半導体イメージを未だに引きずっていることがそうした状況を招いてきた大きな要因と考えられる。
こうした状態から脱却するには、人型ロボット用の頭脳となるCPUやその周辺の半導体を設計思想から解き起こして、生み出してゆく等、新たな試行が求められる。
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日本の活力をどう生むか(9月20日)
9月19日の読売新聞の「地球を読む」欄にシャレド・ダイアモンド氏の小論文が掲載されていた。
今、日本では自民党総裁選挙で、4人の候補者が持論を展開し、活発に議論しているが、この小論文では、「コロナ禍に対する日中韓と欧米の違い」は、食料生産の歴史的違いから生じてきていると論じていた。
即ち、同調性の高い農耕民族は、しっかりと「マスクを付け」、必要性が低い欧米人は「いわれてもマスクを付けない」傾向が強いと論じ、それが死者数にも表れているとしている。...
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9月19日の読売新聞の「地球を読む」欄にシャレド・ダイアモンド氏の小論文が掲載されていた。
今、日本では自民党総裁選挙で、4人の候補者が持論を展開し、活発に議論しているが、この小論文では、「コロナ禍に対する日中韓と欧米の違い」は、食料生産の歴史的違いから生じてきていると論じていた。
即ち、同調性の高い農耕民族は、しっかりと「マスクを付け」、必要性が低い欧米人は「いわれてもマスクを付けない」傾向が強いと論じ、それが死者数にも表れているとしている。
確かに、氏の分析はかなり的を得たものだと頷ける。
ところで、コロナ禍はいつまでも続くものではない。その先に来る平時の時代に、農耕民族である日本人は、どのように世界の中で生きて行ったら良いのだろうか。
一例を上げれば、次なるフロンティアである「宇宙開発」においては、イーロンマスク率いるスペースXに大きく水をあけられている。
中国は、国家主義によって宇宙開発にも力を注ぎ、一定の成果を上げている。
あらゆる産業の芽の中で、今日本の開発力と実現力は、新たな視点と努力が求められているのではないだろうか。
自民党総裁候補の口から、その構想が出てこないのは、どうしてなのかと訝しく感じられる。
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低軌道衛星の戦略的価値(9月18日)
1957年にソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」の打ち上げに成功し1960年代に米国が初めて静止軌道へ通信衛星を打ち上げたことがきっかけとなり、本格的な衛星利用時代が始まった。
打ち上げられた衛星には放送衛星、通信衛星、科学衛星、測位・ナビゲーション衛星、偵察衛星、農業衛星、気象衛星など、いろいろあり、利用価値も高くなっている。
2000年代からはイリジウム社などの企業が衛星の民間利用に参入するようになり、2019年末から宇宙観光ビジネスなどその利用は爆発的な増加に転じた。...
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1957年にソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」の打ち上げに成功し1960年代に米国が初めて静止軌道へ通信衛星を打ち上げたことがきっかけとなり、本格的な衛星利用時代が始まった。
打ち上げられた衛星には放送衛星、通信衛星、科学衛星、測位・ナビゲーション衛星、偵察衛星、農業衛星、気象衛星など、いろいろあり、利用価値も高くなっている。
2000年代からはイリジウム社などの企業が衛星の民間利用に参入するようになり、2019年末から宇宙観光ビジネスなどその利用は爆発的な増加に転じた。
特筆すべき企業はロシア系米国人のイーロンマスク率いるスペースXであり、彼らは既に1200基以上の衛星を打ち上げている。
懸念されるのは、各国や企業が競うように衛星を打ち上げているため、日本も多岐に様々な衛星を打ち上げていかないと、低軌道帯が混雑し、衛星を打ち上げられなくなる日がくる可能性もないとはいえないことである。
日本は自国だけで、日本の民間企業だけで衛星を打ち上げるという手法だけでなく、スペースXなどと提携し、安全保障分野で協力してもらうというやり方も考えられる。
例えば、某国の鉄道網や道路網から弾道ミサイルが発射されないよう、スペースXの衛星コンステレーション網でミサイル発射の兆候を察知し、敵基地先制攻撃でポイントを叩くなどの使い方もシナリオのひとつとして考えられるのではないか。
衛星を打ち上げる意味は本来の用途以外にもある。それは、中国に宇宙覇権を確立させないということである。そのためにも衛星を飛ばし、常に宇宙に意識を向けていく必要がある。
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