ロシアの裁判所がこの程、ウクライナ侵攻を非難する反体制派活動家筆頭のジャーナリストに対して禁固25年の有罪判決を下した。西側諸国は一斉に、ロシア国内での政権批判派を恐怖に陥れて活動を止めさせるためのスケープゴートにされた不公正裁判だと非難している。一方、ロシア政府は、裁判所の判断にコメントはしないとして、三権分立を装う体裁を取っている。
4月17日付米
『AP通信』、
『ABCニュース』等は、ロシアの裁判所が、政権批判を展開する活動家の筆頭のジャーナリストに対して、昨年2月のウクライナ軍事侵攻後に新たに制定した法律に基づき、禁固25年の有罪判決を下したと一斉に報じている。
ロシアのモスクワ地裁は4月17日、政府に批判的な活動家でジャーナリストのウラジーミル・カラムルザ氏(41歳)に対して、国家反逆罪等の罪で禁固25年の有罪判決を言い渡した。
ロシアでは2022年2月のウクライナ軍事侵攻後、戦争反対の声を抑え込むべく、政権批判する活動家らを取り締まるため、新たな刑法改正(注後記)が次々に行われている。
今回のカラムルザ氏への判決は、これら改正刑法が適用されて以降最も重い量刑となっている。
同氏の弁護人のマリア・エイスモント弁護士(47歳、ロシアに踏み止まる数少ないリベラル派)は、同氏が法廷で判決を告げられた時、“自分が行ってきたこと全てが正しかったと理解した”とし、“自身の行動や、市民及び愛国者として信じてきたことが最高に評価された禁固25年だ”と落ち着いた様子でコメントしたとする。
裁判を傍聴していた駐ロシア米・英国大使は、“カラムルザ氏に対する有罪判決は、反対意見を封じ込めようとする試みだ”とした上で、“即座の解放を求める”と異口同音に訴えた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルも、“昨年のウクライナ軍事侵攻以来、ロシア政府が拡大解釈して取り締まりを強化している最悪のパターンだ”とし、“市民生活を脅かす冷酷な証拠だ”として非難している。
ロシア当局は、カラムルザ氏以外にも直近で、反政府活動をしたとして一般市民らを多く逮捕・拘留している。
昨年8月には、野党政治家のイルヤ・ヤシン氏(39歳)に対して、ロシア軍に関わる虚偽情報を流布した罪で8年半の有罪判決を下した。
先月には、SNS上に戦争批判の投稿をしたとして、一般市民の男性を2年の禁固刑に処している。
更に、その13歳の娘が、学校で戦争反対を表す絵を描いたとして、孤児院に送られてしまっている。
また、その数日後には、米『ウォールストリート・ジャーナル』紙のロシア特派員のエバン・ゲルシュコビッチ記者(32歳)が、スパイ活動容疑で逮捕されてしまった。
ロシアの独立系ニュースサイト『メディアゾナ』(2014年設立)は、ロシア最高裁の公表データによると、2022年に市民に対して、軍事活動の虚偽情報流布の罪で合計4,439件検挙していて、罰金額は総額180万ドル(約2億4,100万円)に上っていると報じている。
一方、4月17日付ロシア『タス通信』は、ロシア政府報道官が、カラムルザ被告に対する有罪判決について一切コメントする意向はないと表明したと報じている。
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官(55歳、2012年就任)は4月17日、モスクワ地裁がジャーナリストのカラムルザ被告に対して、25年の禁固刑に処したことに対して、一切のコメントを控えるとした。
同報道官は、“これまでも裁判所判断に決してコメントしてきていないのと同様、今回も何ら物申す意向はない”と表明した。
なお、同被告に対する起訴状によると、2022年3月、同被告が米アリゾナ州議会において、ロシア軍がウクライナにおいて使用禁止の兵器で軍事活動を行った等の根拠のない演説を行ったとしている。
更に同被告は2021年10月、(ロシア国内では好ましくない国際機関とされる)NGO自由ロシア財団(2016年設立)の援助を受けて、モスクワ在のサハロフ・センター(1996年設立の美術館・文化館で人権擁護活動を展開)において、政治犯を支援する会合を開いたとしている。
これらの行動全てが、ロシア国家反逆罪に相当する、として起訴されたとしている。
(注)ロシア刑法改正:まず2022年3月、前月のウクライナ軍事侵攻(ロシア政府は特別軍事作戦と標榜)等を非難する活動家らを取り締まるため、軍事行動に関わる虚偽報告流布罪を新たに追加。同国の軍事行動に関して虚偽の情報を広げた場合に刑事罰を科すというもの。情報の戦時統制を強化し、言論の自由を大きく損なう内容で、ロシア人だけでなく外国人も対象となり、最長で15年の懲役や禁錮など自由はく奪の重い刑罰を科される。
次に同年7月、ロシアが参加する外国での紛争や軍事行動における敵への寝返りを国家反逆罪とし、最長で懲役20年を科す刑法改正を実施。更に、外国の情報機関や国際組織との間に、ロシアの安全保障に脅威を与える目的で秘密の関係を築いた場合は、最長で懲役8年を科すことも盛り込まれている。
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ウクライナと国境を接し、戦争による影響を大きく受けている貧国モルドバでは、ウクライナがモルドバ東部への侵攻の準備をしているとするロシアの主張は、心理戦によるものだと警戒感を示している。
2月24日付
『ロイター通信』:「モルドバ、ウクライナがトランスニストリア侵攻を計画しているとするロシアの報道を否定」:
モルドバは23日、ウクライナが偽旗作戦によりモルドバ東部のトランスニストリアを侵攻しようと企てているとするロシア国防相の主張を否定し、国民に冷静になるよう求めた。
ロシア国防省は、モルドバと国境を接するウクライナの計画は、モルドバのロシア語圏のロシア部隊に「直接的脅威」を与えるものだとしていた。また、タス通信は、ロシアのミハイル・ガルージン外務副大臣(元駐日大使)の談話として、西側がモルドバ政府にトランスニストリアのロシア当局との通信を遮断するよう指示したと報じている。
モルドバ政府はテレグラムアプリでの声明で、ロシアの主張する内容は「確認がとれていない」とし、「国民はこれを冷静に受け止め、政府からの信頼できるソースによる情報を信じるように」と求め、非常事態の際には、海外とも協力し、国民へ早急な情報を届ける」としている。
モルドバは旧ソ連国で、NATO加盟国ルーマニアとも国境を接し、EUへの加盟を希望している。
サンドゥ大統領は今月、モルドバ政権へのクーデターを計画していたロシアを批判していた。トランスニストリア地域は主にロシア語圏となっており、1990年旧ソ連モルドバから分離独立し、1991年のソ連崩壊後は、ロシア分離派はモルドバ政府軍との対立関係にある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、ロシアは「ウクライナ侵攻に留まらず、モルドバの崩壊も視野に入れている」と述べていた。
2月23日付英『BBCニュース』:「緊張が高まる中、モルドバがロシアの心理戦に警戒感」:
ロシア国防省は、証拠もなく、ウクライナがロシア兵のいるトランスニストリアへの侵攻を企てていると主張。
モルドバは、ロシアが政権転覆を企てているとしてここ数週間警告していた。同国政府はこれを戦争の一貫の心理戦だとみており、ミジャ国務長官は、「国務省は、現実的プランというより心理戦の側面が大きい」としている。ルーマニア訪問中にサンドゥ大統領は、前例のない安全保障面での危機に関し、「我が国の転覆を望み、ロシアの利益となる傀儡政府を置こうとするものがいる」と述べている。
モルドバはNATOに非加盟だが、昨年6月、ウクライナと同日に、EU加盟候補国に認定されていた。今週には、バイデン米大統領がサンドゥ大統領と面会し、同国の支持を表明していた。
人口260万人のモルドバは、ヨーロッパで最も経済的に貧しい国の一つで、ウクライナ戦争による影響ににさらされている。電力インフラはソ連時代のもので、エネルギー危機による打撃も大きく、ロシアによるガス供給停止だけでなく、ウクライナの電力インフラへの攻撃の影響も受けている。
インフレやウクライナからの難民流入による問題も深刻で、ポピュリストやオリガルヒが党首の親ロ政党によるデモも増え、レシアン新首相がいう「ハイブリッド戦」も多発。今月の政権交代前日には、ロシアのミサイルがモルドバ領空を通過してウクライナに落とされた。
サンドゥ大統領は、ロシアはセルビア、ベラルーシ、モンテネグロといった外国の工作作戦を利用し、モルドバ政権の転覆を策略しており、政府庁舎を攻撃して人質をとり、「親ロシア」政権への交代を訴求するデモを起こそうとしているのだとしている。
大統領の演説直後、セルビアのフットボール支援者12名がモルドバへの入国を禁止され、ロシアは「モルドバ政府は反ロシアヒステリーをおこしている。発言には慎重になるべき」と批判している。
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