米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)の参加11ヵ国による、首席交渉官会合が5月2~3日、トロント(カナダ)で開催された。日本と豪州が中心になって、米国抜きでもまずTPPを発効させ、米国が将来復帰できる道を残しておく戦略で会合をリードしようとしたが、米国との北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を迫られているカナダ・メキシコの他、米国抜きのTPPに慎重な構えを見せているベトナム・マレーシアや、米国の代わりに中国を呼び込むべきと主張するチリ・ペルーもいて、結局具体的進展はみられなかった。これをみた中国は、米国抜きのTPPに将来はなく、やはり中国中心の地域包括的経済連携(RCEP、東南アジア諸国連合(ASEAN)+日中韓印豪NZの計16ヵ国)を積極的に取進めることが有益だとアピールしている。
5月4日付カナダ
『グローブ&メール』:「ポロズ総裁、カナダはトランプ大統領の貿易摩擦に当って先を見越した政策が必須と発言」
カナダ中央銀行のステファン・ポロズ総裁は5月4日、メキシコシティでの講演で、ドナルド・トランプ大統領が仕掛けてくる保護主義政策に対応するため、先を見越した政策を打ち出す必要があると語った。同総裁は、例えば、成立が困難となったTPPの条件を駆使して、米国抜きで北米協定を更に拡大した新自由貿易圏の創設も検討に値すると付言した。
トランプ大統領は、カナダ企業にも恩恵となる法人税の大幅削減を打ち出す一方、カナダの材木取引に最大24%の関税を課すと先月決定しただけでなく、乳製品やエネルギー資源取引にも何らかの負荷をかけると言われている。
なお、米国はカナダにとって総輸出額の4分の3を占める輸出先であり、トランプ大統領の保護主義政策の影響をもろに受けることになるが、メキシコはカナダ以上に米国依存度が大きい。
5月5日付シンガポール
『トゥデイ・オンライン』:「日本のTPP支援政策は頼もしいが、野心が強過ぎる」
第二次大戦以降、米国が世界自由貿易の中心的役割を果たしてきたが、ことTPPに関しては、トランプ大統領の離脱宣言によって、その中心国が変わろうとしている。
安倍晋三首相は当初、米国抜きのTPPは“意味がない”と言っていたが、今回のTPP首席交渉官会合において、不参加の米国に代わって、TPP内最大の経済大国として、米国抜きでもTPPを発効させる方針に舵を切ってきた。この方針に、豪州とニュージーランドも賛同して追随する考えを示している。
ただ、TPP11ヵ国の経済規模を合計しても届かない米国が抜けた自由貿易圏は、果たしてどれだけアジア太平洋圏にとって意義のあることなのか、また、TPPには参加していない、世界第2位の経済大国の中国が推し進めているRCEPとの関わりはどう進めるべきなのか等々、立ちはだかる問題は大きい。
なお、日本は、米国抜きのTPPを発効させておいて、将来米国が復帰できる道を残しておく考えのようであるが、その可能性はトランプ政権後の新政権になってからという、かなり先の話とならざるをえないだろう。
5月4日付ベトナム
『ナン・ダン・オンライン』:「ベトナムはTPPメンバーと将来に向けて連携」
外務省のレ・チ・ツ・ハン報道官は5月4日、TPP発効に向けてTPPメンバーと協議を継続していくと表明した。ベトナムはそもそも、自国のシステムを見直して国際自由貿易における役割を果たすべくTPPに参加を決めたが、(米国が加わらない形での)これからの貿易ルールや市場規模への対応について、微調整していくべきと考えているとも付言した。
一方、同日付中国
『チャイナ・デイリィ』:「米国抜きのTPPに将来はない」
米国を除いた11ヵ国のTPPメンバー国代表が、5月2~3日にトロントで会合を開き、TPPの今後について協議したが、米国抜きのTPPが果たして機能するか不詳である。
すなわち、世界銀行の昨年統計によると、米国の国内総生産(GDP)は世界合計の約24%を占めており、その米国が不参加のTPPが採算的に成り立つことにならないだろう。何故なら、残った11ヵ国のGDP合計は世界の13%でしかなく、また、対米国貿易がない状態で、11ヵ国間内での競争が激しくなるとみられるからである。
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3月17日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』(
『ロイター通信』配信):「中国、南シナ海の領有権争いのある岩礁で施設建設開始」
「●米上院議会のマルコ・ルビオ議員(フロリダ州選出、共和党)とベン・カーディン議員(メリーランド州選出、民主党)は今週、連名で“南シナ海及び東シナ海制裁法”法案を提出。これは、領有権争いのある海域で、一方的な海洋活動を行った場合に制裁を科す法案。
●これに対抗してか、三沙市(サンシャー、注後記)の肖捷(シャオ・チー)市長は、中国が年内完成を目処に、スカボロー礁に環境観察所建設の準備に取り掛かると公表。
●同施設には、埠頭やその他付帯設備を建設予定。
●上記ニュースは、中国の人工島建設等について、“違法”だとして強い懸念を表明しているレックス・ティラーソン国務長官の訪中直前の報道。」
同日付英
『ニューズウィーク欧州』誌:「南シナ海領有権争い:中国が最近新たに人工施設
建設」
「●今月初めに米民間企業のプラネット・ラボズが撮影した衛星写真の解析により、中国が新たにスカボロー礁でも、埠頭か軍事施設とみられる人工施設建設に取り掛かり始めたことが判明。
●同礁はかつて、フィリピン漁師が漁場にしていたが、中国が2012年に実効支配。
●昨年秋、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が訪中し、習近平(シー・チンピン)主席他との会談を通じて、両国間の争いを止めて対話による歩み寄りについて確認。
●しかし、ここへ来て中国は、南シナ海における中国主権を盤石にするため、スカボロー礁においても、その基盤造りに出たものと推測。」
3月18日付シンガポール
『トゥデイ・オンライン』ニュース:「中国、ハーグ(PCA)裁
定を無視してスカボロー礁に人工施設建設」
「●これまで中国は、昨年7月のPCA裁定は無効だと主張して来ているが、今回、同裁定で中国主張が明確に否定されたスカボロー礁において、人工施設建設に取り掛かることを公表。
●先月、フィリピン高官が、習主席がフィリピン主張を尊重し、同礁に人工物は建設しないと約束したと暴露したが、中国側はすぐさま、“不可解で遺憾な”コメントだと非難。
●一方、米上院に“南シナ海及び東シナ海制裁法”なる法案が提出された件について、中国外交部の華春瑩(ホァ・チュンイン)報道官は3月17日、“非常に不快”かつ“傲慢で無知”な法案であると酷評。」
一方、同日付中国
『環球時報』(
『新華社通信』配信):「中国・フィリピン両国、貿易・経
済協力強化で合意」
「●中国とフィリピンは3月17日、両国間で貿易・経済協力を更に強化していくことを目的とした、“6ヵ年開発プログラム(SYDP)”に調印。
●フィリピン訪問中の汪洋(ワン・ヤン)国務院副総理は、昨年10月に両国首脳が両国関係を元の友好関係に戻すことで合意したが、今回のSYDP合意についてもその方針に基づくものだと言明。
●また同副総理は、今回の合意に基づき、フィリピンには中国が推進する“一帯一路”政策に参画してもらい、それによって同国の開発推進が図られることになるとも付言。
●更に同副総理は、2017年の東南アジア諸国連合(ASEAN)会議議長国となったフィリピンを、中国は今後も全面的に支援していくともコメント。」
また、3月16日付ロシア
『RT(ロシア・トゥデイ)テレビニュース』:「中国、日本が南シ
ナ海に干渉したら“断固たる対抗措置”をとると宣言」
「●中国外交部の華報道官は3月16日、最近日本は南シナ海において、悪戯に緊張を高める行動をとろうとしているが、もし具体的に中国主権に影響が及ぶようなことになれば、中国は“断固たる対抗措置”をとると発表。
●同報道官コメントは、今週初めに
『ロイター通信』が、日本の自衛隊が今年5月に、ヘリコプター搭載護衛艦“いずも”を南シナ海に派遣することを計画していると報道したことに反応したもの。
●同報道によれば、“いずも”は、今年7月にインド洋で行われる、日米印合同軍事演習に参加するために派遣される予定。」
(注)三沙市:パラセル諸島内のウッディ島(中国名;永興島)にある海南省に属する市で、パラセル・スカボロー・スプラトリー諸島を管轄。
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