カルロス・ゴーン前会長が、密出国してレバノンに逃避してから早5ヵ月が経過する。日本、フランス、トルコ等での関連捜査・訴訟手続きは余り急速に進んでいないようだが、日産・ルノー連合にとって、焦眉の急な重要事項は、ゴーン被告が進めようとしていた両社合併の話などでは当然なく、傷ついた両社間関係を如何に修復し、その上で新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題で疲弊した自動車業界を覆う暗雲を如何にして取り払うかであるとする。
5月26日付米
『ロイター通信』:「日産・ルノー、合併話より両社関係修復を優先」
日産、ルノー関係者によると、両社トップの現在の意向は、カルロス・ゴーン前会長が推進していた合併話を棚上げし、両者間関係修復が最優先課題だという。
ルノーはこれまで、日産保有株式(43.4%)に比較し、日本における技術・販売貢献のリターンを十分得ていないとして、両社合併の提案を行ってきたが、日産側はこれに抵抗してきていた。
しかし、COVID-19世界流行に伴って世界の自動車業界が大不振に陥る中、両社にとって、世界における両社提携によるスケールメリットを活かしきれなかった両社連合について、見直し改善することが重要だと痛感している。
両社の5人の事情通が『ロイター通信』のインタビューに答えたところによると、今週中には平和条約的な両社連合に関わる中期提携計画が発表されるという。
ある関係者は、“雨降って地固まる”という日本の有名な諺を引用して、今後の関係改善に期待するとした。
日産・ルノー・三菱連合は5月27日、今後の連合運営に当たって、“指導者と追随者の密接な関係”による新しい連合の仕組みについて発表する予定である。
ただ、5月28日には、日産が、数万人の雇用に影響をもたらす組織改編及び経費削減政策を発表し、その翌日にはルノーも追随することになるという。
当該関係者によると、今回のCOVID-19に伴う経営危機に直面したことから、これまで障害となってきた技術上の協力関係や生産体制上の経費共有策について、今まで以上のスピード感を以て徹底的に見直していくとする。
日産・ルノー連合が始まって以来、世界における市場シェア増という目標に突き進み、特に三菱が2017年に連合に参画した際は、年産1,000万台突破を達成している。
しかし、そこにおいても、新規開発費用の分担等で意見はかみ合わず、連合強化への阻害要因となっていた。
この点に関し複数の関係者は、日産の幹部がルノーの技術力・生産性は日産より劣っていると思っており、そのためルノー側からの提携提案において、日産の貢献度が正しく評価されないと考えていたとする。
ある関係者は、“日産技術陣の生産性は、ルノーのそれより40%も高い”と証言している。
2018年に会計上の不正行為でゴーン前会長が逮捕された際、彼が進めようとしていた合併話を阻止するために日産役員に嵌められたと叫んでいたことから、以来日産・ルノー間の関係はギクシャクしており、特に今年初めには、21年間の連合が空中分解する危機に陥るほど、両社関係の緊張は高まっていた。
しかし、日産のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(49歳、インド出身)とルノーのジャン=ドミニク・スナール会長(67歳、フランス人実業家)が中心となって、“指導者と追随者の密接な関係”方針に基づいて、両社間の役割分担等明確化するという新しいアプローチを推進しようとしている。
例えば、1社があるタイプの車の生産や技術開発に指導的立場で取り組めば、別の1社は追随者として、その発展・成功に寄与していくという立場をとり、これによってルノーの商用車部門の再発展のみならず日産の再活性化にもつなげようとするものである。
このアプローチは、欧州及び南米でのルノー・日産連合の具体的戦略をどうするか、また、東南アジア及び日本における日産・三菱の協同を如何に進めるか等にも適用される。
具体的には、欧州において、スポーツ用多目的車(SUV)では日産が指導的立場をとり、商用バン(ステーションワゴン・タイプ)・小型車では日産が従属的活動を行う。
また、フィリピンでは、既に十分な生産工場を有する三菱が日産車の生産も引き受けることとし、日本においては、日産・三菱両社がミニカーで協力体制を強化し、乗用車部門ではそれぞれの販売に注力するという形をとるというものである。
一方、5月25日付フランス『パリ・ガーディアン』紙:「日産・ルノー、生産大幅削減の新戦略を発表」
日産・ルノーは今週、COVID-19に伴う自動車産業不況を睨み、数十億ドル(数千億円)台の経費削減並びに100万台レベルの大幅減産を含む再構築計画を発表する。
まず、生産規模については、ゴーン前会長が推し進めていた、2022年までに年間1,400万台体制とする拡大戦略を反故にすることとみられる。
当該計画に精通している関係者によれば、生産規模を年産1,000万台以下とする計画だとする。
日産・ルノー連合は5月27日、28日、29日に、各々の経費節減並びに提携計画について発表する予定である。
当該計画について、先の関係者は、日産の場合、2019年7月に発表した30億ドル(約3,210億円)の固定費削減計画に加えて、更に追加30億ドルの経費節減計画を考えているとした。
日産は、2019年7月のリストラ計画発表以降、約1万5千人分の職種をなくしており、今回の新計画では、技術部門から営業・イベント事業に至るあらゆる部門での更なる削減があると考えられる。
また、生産規模については、2019年計画で年産550万台まで落とすとしていたが、今回の計画では、COVID-19による大不況下、更なる減産が必要となるとみられる。
一方、ルノーについては、今後3年間で少なくとも20億ユーロ(22億ドル、約2,350億円)の固定費削減を目指すとしている。
大株主であるフランス政府はルノーに対して、フランス国内では先端技術開発を継続的に推し進める一方、欧州においては電気自動車の開発に注力するよう求めている。
ブリュノ・ル・メール経済・金融相は5月22日、“ルノーの経営難は深刻”だとした上で、“早急なる改善行動が必須”だとコメントしている。
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7月7日付米
『AP通信』:「米就業者数+22万2千人増も、失業率は4.4%と若干上昇」
米労働省が7月7日に発表した6月の雇用統計によると、(景気動向を反映しやすいとされる)非農業部門の就業者数は前月より+22万2千人増となった。この結果、今年1~6月期の月平均就業者数は+18万人となり、好調だった昨年のペースを若干下回るレベルまで持ち直している。
失業率が、16年振りの最低値となった前月より4.4%へと若干上昇したが、これは、より多くの労働者が好条件の仕事への転職に動いたためと分析される。
ただ、時間当り平均賃金は、昨年同月比+2.5%に止まり、景気最盛期の指標である+3.5%を下回っている。
一方、5月の求人広告は600万人と過去最高となり、企業における求人難の状況が覗えるが、まだ目立った雇用賃金上昇に結びついていないとみられる。
同日付カナダ
『ザ・グローブ&メール』紙(
『ロイター通信』配信):「6月の米就業者数大幅増も賃金は横ばい」
賃金上昇率は低調であるものの、6月の米就業者数増が専門家予想の+17万9千を遥かに上回り、今後の雇用情勢は堅調とみられることから、米連邦準備制度理事会(FRB)が年3度を目処とした利上げについて、次の3度目の決定が年内に行われる公算が大とみられる。
共和党のドナルド・トランプ政権は、民主党のオバマ前政権より雇用情勢も経済成長もダイナミックに達成していくと標榜しているが、共和党としては、オバマケア(医療保険制度改革法)を廃止して代替案の立法化に手間取っていることと、トランプ陣営をめぐる様々なスキャンダルの影響で、同政権が推す経済政策が立ち行かなくなることを恐れている。
7月8日付フランス
『パリ・ガーディアン』紙:「6月の米就業者数が+22万2千人増となるも、失業率は若干上昇」
約700万の米市民が、6月の失業率4.4%算出の対象となっているが、直近4週間で求職活動を止めてしまった160万人は除かれている。また、フル・タイムへの仕事を求めているものの、就業が叶わずパート・タイムに甘んじている人が500万人もいる。
一方、6月の時間当り平均賃金は、前年同月比+2.5%だったが、これは物価上昇率を若干上回るレベルに過ぎない。
一方、7月7日付英
『デイリィ・メール・オンライン』(
『ロイター通信』配信):「技術系・金融関係の雇用情勢大幅改善でニューヨーク市場好調」
6月の就業者数が経済専門家予想を大幅に上回ったことを受けて、7月7日のニューヨーク市場は軒並み上昇した。
・ニューヨークダウ平均株価:+94.3(+0.44%)上昇の21,414.34
・S&P 500銘柄株価指数:+15.43(+0.64%)上昇の2,425.18
・ナスダック新興株価指数:+63.62(+1.04%)上昇の6,158.08
ただ、平均賃金上昇率が停滞気味であることから、専門家の間では、FRBの次の利上げ決定は慎重にならざるを得ないだろうとの見方がある。
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