既報どおり、米議会は先週、「ウィグル族強制労働防止法案(UFLPA、注1後記)を採択した。そしてこの程、ジョー・バイデン大統領(79歳)が12月23日に署名したことで発効する運びとなった。これに対して、中国国内では早速官民挙げての米国攻撃が始まり、新疆ウィグル自治区で生産されるコンピューターチップ供給に頼っているインテル(注2後記)などがボイコットの狙い撃ちをされ始めている。
12月24日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』:「インテル、部品供給業者に対して新疆ウィグル自治区産部材不使用要請を謝罪」
世界最大のコンピューターチップ・メーカーのインテルは12月23日、米政府が採択したUFLPAに則って、新疆ウィグル自治区において生産された部材を使用しないよう部品供給業者に求めざるを得ないことを謝罪した。
これに対して、中国国営メディア『環球時報』は早速、インテルの声明は“高慢かつ悪質だ”として非難した。
同メディアはこれまでも、新疆ウィグル自治区産品の取引を止めるとしたアパレルメーカーH&M(1947年設立のスウェーデン法人)、スポーツ関連用品メーカー・ナイキ(1964年設立、米オレゴン州本社)等を攻撃し、市民に不買運動を呼び掛けてきている。
中国外交部(省に相当)の趙立堅報道官(チョウ・リーチアン、48歳)は、“新疆ウィグル自治区において強制労働等と騒ぎ立てられているが、中国敵対勢力による捏造だ”とした上で、インテルは“事実を直視し、誤った行動を改めるべきだ”と強調した。
中国政府は、このようにウィグル族への人権弾圧などは虚言だと主張するが、同地区産の商品を仕入れている外国企業には、同地区の生産工場の労働環境等について第三者による監査の術が与えられていない。
そうした中、著名ポップ歌手・王俊凱(ワン・チュンカイ、22歳)が12月22日、インテル主力製品コアライン・プロセッサーチップ販売の“ブランド・アンバサダー”の役を降りると表明した。
これについて『環球時報』も早速、“王氏の行動は、中国市場で巨大な利益を享受している一方で、中国にとって重要な核心的利益を損なわせようとしているインテルやその他外国企業に対する新たな警告だ”と報じている。
その他多くの歌手・俳優・著名人も、新疆ウィグル自治区問題を非難した外国企業との関係を絶つ行動に出ており、当該企業にとっては数千万ドル(数十億円)の収益を失うことになろう。
インテルにとって新疆ウィグル自治区は、コンピューターチップ製造に必要な原材料のシリカの重要な供給拠点である。
また、同社は中国北東部大連(ターリアン)にチップ生産工場を保有しているが、米国外に抱える4工場のひとつでアジア唯一のものである。
中国国営メディアによる執拗な非難報道により、中国国内消費者・取引先がインテル以外の供給元に変更を試みることになろうが、代替供給元は限られる。
中国政府はこれまで、数十億ドル(数千億円)を投じて国内コンピューターチップ・メーカー育成を図り、米国・台湾他供給元に頼らない市場構築を目論んだ。
しかし、世界先端技術を駆使して製造しているインテル他外国メーカーの技術水準まで全く到達できていない。
特に、現在は新型コロナウィルス感染流行問題に伴い、世界中で半導体部品不足に陥っており、スマートフォンから自動車に至るまで生産に支障を来していることから、中国需要家においてもすぐにはインテル以外の供給元に変更できる状況にない。
同日付中国『新華社通信』:「外交部報道官、インテルの新疆ウィグル自治区問題に関わる書簡を批判」
外交部の趙報道官は12月23日、インテルが部品供給元に対して出状した新疆ウィグル自治区産部材不使用要請の詫状について、そのようなことを実施すればインテルにとって大きな損失に繋がると批判した。
同報道官は、“インテルは事実を直視し、間違った行動を正すよう求める”と述べた。
更に同報道官は、米国内の反中国派が幾度も新疆ウィグル自治区における強制労働を問題視するとアピールしているが、それは全く事実無根で、中国のイメージを汚し、新疆ウィグル自治区の平和と安定を棄損し、かつ中国の発展を阻害しようとする策略に他ならない、と強調した。
その上で、“新疆ウィグル自治区の人々は勤勉かつ優秀で、同地で生産される商品は品質が高いものであるから、同地の産品を使用しないという決断は、自ら損失を招くだけの結果となる”とも言及した。
(注1)UFLPA:新疆ウィグル自治区において強制労働によって生産された原材料・製品の米国への輸入を禁止する法律。輸入する場合、強制労働によるものではなく正規の委託料・労賃で生産されたものであることの証明が求められる。12月13日の週に、下院で採択された後に上院でも全会一致で可決。
(注2)インテル:1968年設立の半導体素子メーカー。主にマイクロプロセッサー・チップセット・フラッシュメモリー等を設計開発・製造・販売。海外50ヵ国以上に研究・生産・販売拠点を保有。カリフォルニア州中西部サンタクララ(シリコンバレー)が本拠。
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米国が身を引いたアジアの国々で中国の存在感が増すにつれ、中国の利益がイスラム教徒のテロ組織に狙われるようになってきた。特に、不安定な情勢を抱えているアフガニスタンに対して、今、中国の対応力が問われている。
米
『クーリエ・インターナショナル』は、10月初旬にアフガニスタンのクンドゥズのモスクで、「イスラム国のホラサン支部(IS-K)」による自爆テロが発生し、約50人が死亡したことを伝えている。イスラム過激派組織IS-Kは犯行声明を出した際、自爆テロの犯人はウイグル人であり、新疆ウイグル自治区でのウイグル人に対する扱いを知りながらも、中国と密接に協力しているタリバンを罰するための攻撃であることを明らかにした。中国政府にとって憂慮すべき新たな展開となっている。
アルカイダやイスラム国などのテロ組織は長い間、米国や欧米全般、あるいは地元の敵対勢力に焦点を当てていたため、「発展途上国」として見ていた中国を敵対視してこなかった。1990年代の第1次タリバン政権時代には、中国の政府関係者は対話に意欲を見せ、水面下でタリバンと協力する方法を模索してきた。これは、アフガニスタンのウイグル人グループが中国を攻撃するのをタリバンが阻止することを期待して、限定的な投資と支援を行ったと言われている。しかし、今年10月に起こったクンドゥズでの自爆テロは、中国が新たな標的になったことを示している。
仏オンラインニュースサイト『ラントルプロノール』は、中国政府にとって、アフガニスタンは管理すべき問題であり、利用できる相手ではない、と伝えている。中国は、NATOの撤退を歓迎するどころか、隣国で情勢がひどくなることを懸念している。中国は以前から米軍が近くにいることに不満を持っていたものの、8月の米軍の撤退方法には明らかに不満を持っており、「性急な撤退」を繰り返し批判した。
『ラントルプロノール』は、中国は、混沌としたアフガニスタンから得るものは少なく、失うものも多いと主張している。戦争で荒廃した貧しい国では、最低限の設備しかなく、教育レベルも低く、政治的にも将来が不透明であるため、相当な資金を投入することはほとんど不可能である。中国の当面の課題は、治安状況を改善し、武装勢力の脅威を取り除くことだという。
なお、今年の中国政府とタリバンとの天津での会議では、中国はタリバンに対し、過激派テロ集団がもたらすリスクをコントロールするよう求めた。中国外務省の声明では、「アフガニスタンのタリバンが、東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)によって形成されたすべてのテロ組織ときれいに決別することを希望する」とし、中国からの「金融投資を可能にする環境を促進するために、タリバンが独自の努力をする 」ことを伝えていた。
中国はまた、パキスタンとタジキスタンの警備隊を支援し、中国とタジキスタン、アフガニスタンとの国境に小さな基地を整備し、アフガニスタンのバダフシャン州をパトロールしている。
こうした中でも、英誌『ザ・ウィーク』によると、中国国営の「環球時報」が、中国企業5社が現在アフガニスタンで「潜在的なリチウムの現地調査を行っている」と報じたという。「環球時報」はまた、「タリバン当局は会議や公式声明の中で、戦争で荒廃した国を再建しようとする中国企業を歓迎する姿勢を示した。中国政府はまた、人道的援助を提供したり、特定の貿易ルートを再開したりすることで、アフガニスタンの人々に援助の手を差し伸べている」と伝えている。
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