米高裁は12月1日、米議会襲撃事件で負傷した警察官らによる損害賠償請求事件に関し、大統領の免責特権が適用されるとのドナルド・トランプ前大統領(77歳、2017~2021年在任)の主張を否定した。このようにトランプは益々窮地に追い込まれているが、裁判勝訴のためには形振り構わない同前大統領は、今度は民事裁判を審理するNY州地裁判事の妻を標的にして攻撃を始めている。
11月30日付
『CBSニュース』、
『フォーブス』誌、
『CNNニュース』、12月1日付
『Nexstar Media』、英国
『ザ・ガーディアン』紙等は、ドナルド・トランプ前大統領が今度はNY州地裁判事の妻を標的にして形振り構わぬ反撃に出ていると報じた。
ドナルド・トランプ前大統領、その家族及び所有企業は、NY州税等をごまかすために同企業の資産価値を不正に過小評価したとして詐欺罪に伴う損害賠償請求(2億5千万ドル、約370億円)で提訴されている。
この訴訟に対して、同前大統領は、NY州判事や書記官らを標的にして、“偏った裁判”を進めようとしているとしてSNSを使って誹謗中傷していた。
そこで同州地裁審理担当のアーサー・エンゴロン裁判官(74歳、2003年就任)は、同前大統領に対して、自身を含めたNY州地裁関係者についてSNSで一切言及しないよう箝口令を出した。
これに対抗して、同前大統領は、今度は、エンゴロン裁判官の妻のドーン・エンゴロン氏を標的とした攻撃を始めた。
すなわち、同前大統領は11月29日午後から複数回にわたって、エンゴロン夫人が自身を誹謗中傷する投稿を『X(旧ツイッター)』に上げていたとして、同前大統領が立ち上げた『トゥルース・ソーシャル』上で非難する投稿を行った。
同前大統領は、“エンゴロン判事夫人は、NY州地裁の書記官らと一緒になって、NY州地裁による魔女狩り裁判を行い、自身・自身の家族及び共和党を不当に裁こうとしている”と訴えた。
同前大統領が根拠としている『X』の投稿は、保守系政治活動家ローラ・ルーマー氏(30歳)が捜し出したとされたもので、“ドーン・マリー”とのハンドルネームで2つ投稿されていたとする。
ひとつは、“トランプに囚人服を着せたイラストを付して、「刑務所に一直線」”としていて、もうひとつでは、“トランプを「オズの魔法使い」の西の邪悪な魔女として描いた”投稿をしていたという。
かかるアピールに対して、エンゴロン夫人は即座に、政治専門紙『ザ・ヒル』に宛てたメールで、“指摘されたハンドルネームの『X』上のアカウントは自分のものではない”としたうえで、“自分は反トランプを訴えるような投稿を全くしたことはない”と全否定した。
同紙は、当該投稿がエンゴロン夫人のアカウントではないと証明することはできなかったが、本件が報道された段階で当該投稿は削除されている。
なお、NY州地裁事務管理部のアル・ベーカー報道官も『CNNニュース』の取材に対して、“エンゴロン判事夫人は反トランプを標榜するような投稿を行っていないし、また、言及されている『X』のアカウントは同夫人のものではない”との公式コメントをしている。
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中国と英国の関係は、2020年に中国が「国家安全維持法」を制定して“一国二制度”を否定する政策に転じて以降、中国による傍若無人な台湾問題や南シナ海領有権問題等を契機に益々ギクシャクしている。そうした中、中国が上演を禁止していた“モンゴル帝国劇”が海外で初めての公演となるロンドンにおいて大盛況を博したことから、中・英国関係悪化の新たな火種になるのではとみられる。
11月24日付
『CNNニュース』は、中国で上演禁止となったモンゴル制作“モンゴル・ハーン”の演劇が、初の海外公演となったロンドンにおいて大成功を収めていると報じた。
モンゴルで制作、上演されている「モンゴル・ハーン」という演劇は、約2千年前に栄えたフン帝国(4~6世紀、中央アジア・コーカサス・東欧まで支配)時代を描いた架空の皇帝物語である。
総勢70人余りの演者・踊り手・BGM奏者が繰り広げる、2時間半に及ぶ壮大な作品で、同国首都ウランバートルの550席の劇場で170公演も催されている人気演劇である。...
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11月24日付
『CNNニュース』は、中国で上演禁止となったモンゴル制作“モンゴル・ハーン”の演劇が、初の海外公演となったロンドンにおいて大成功を収めていると報じた。
モンゴルで制作、上演されている「モンゴル・ハーン」という演劇は、約2千年前に栄えたフン帝国(4~6世紀、中央アジア・コーカサス・東欧まで支配)時代を描いた架空の皇帝物語である。
総勢70人余りの演者・踊り手・BGM奏者が繰り広げる、2時間半に及ぶ壮大な作品で、同国首都ウランバートルの550席の劇場で170公演も催されている人気演劇である。
そこで人口僅か350万人のモンゴルとしては、外貨獲得のみならず同国文化芸術を広める一環で、国外での公演を画策し、まず隣国である中国の内モンゴル自治区での開催を画策した。
制作チームは、中国側への事前打診や必要な手続きを経た上で、衣装・セット・照明器具等を満載したトラックをゴビ砂漠経由開催地である内モンゴル自治区省都のフフホト(呼和浩特)まで走らせ、また、演者らは空路で現地入りさせた。
ところが蓋を開けると、次々に妨害行為とみられる不可思議な事態が発生し、結局公演は中止に追い込まれた。
同演劇のヘロ・バートル監督は『CNN』のインタビューに答えて、“内モンゴル自治区の関係者が我々を招き入れてくれたが、中国中央政府が我々を追い出した”とコメントした。
同監督は更に、“演者らは公共の場でモンゴルの衣装を身に着けることを禁じられ、かつ、フフホト滞在中は常に監視の目に曝されていた”とも言及している。
内モンゴル自治区の人口は2,400万人であるが、モンゴル系は僅か400万人であり、ほとんどが漢族で占められている。
中国中央政府は、漢族支配を徹底するためか、新疆ウィグル自治区やチベット自治区の少数民族による分離独立運動を徹底的に抑え込もうとしてきていて、その一環でウィグル族等の文化・言語を否定し漢族に同化させようとしている。
更に、かつてフン帝国やモンゴル帝国(1206~1294年)によって中国の領土が支配されていた歴史を否定したいためか、モンゴル系文化や言語の拡大を嫌気しているとみられる。
演劇“モンゴル・ハーン”の英語訳に携わったジョン・マン氏は『CNN』に、“彼らは我々の演劇を嫌ったのではなく、モンゴルの文化や言語を恐れたのに違いない”とし、“何故なら、1990年代に新疆ウィグル自治区でウィグル族の分離独立運動の激化が起こったように、我々の演劇を通じて内モンゴル自治区のモンゴル系住民に不穏な動きに発展しかねないと懸念したからだ”と強調した。
また、キングス・カレッジ・ロンドン(1829年設立の国立大学)中国研究専門のケリー・ブラウン教授は、“中国は、同演劇をモンゴルのプロパガンダと感じているとみられる”とし、“何故なら、モンゴル帝国の再編(元王朝、1279~1368年、史上最大の陸王国)という壮大な支配の歴史から、モンゴル族の演劇による影響が拡大して、ウィグル族やチベット族にもかかるプロパガンダ演劇が芽吹き、分離独立運動の再燃に発展していくことを恐れているとみられる”とコメントしている。
一方、中国における上演禁止措置とは全く反対に、当該“モンゴル・ハーン”演劇は、11月20日にロンドンの英国国立歌劇場(1904年開場)で初の海外公演が始まったが、英国の著名人らも挙って観劇に訪れる程大盛況であった。
同公演の共同プロデューサーのウヌルマー・ジャンチフ氏は『CNN』に、“先週(11月20日の週)の段階で前売り券が約60%売れていたので、英国人にとって未知の作品にも拘らずとても良い滑り出しだ”と語った。
同氏は更に、“プロパガンダであろうとなかろうと、とにかく11月20日の初公演はスタンディングオベーションで終演したことは事実であり、かつ、米国・カナダ・台湾の演劇プロモーターの人たちも観劇しており、我々としては次の海外公演の期待が高まっている”とも言及した。
本公演について、英国における大盛況の結果を中国がどういう受け止め方をするか注目される。
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