3月23日付
『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』:「中国の地政学的勢力拡大で米国の影響力は減退」
米独立機関の外交問題評議会(CFR、注1後記)が3月23日にリリースした報告書によると、米前政権及び現政権が対中強硬政策を取っているが、中国の地政学的勢力は拡大していて、米国による影響力は大きく制限されつつあるという。
何故なら、8年前に立ち上げたOBOR政策の下、中国資本による世界多数の国々での道路、鉄道、発電所、通信網設備等の建設が満遍なく進捗しているからである。
CFRの報告書は、“中国の積極姿勢のみならず米国の不作為によって、目下米国が自覚している経済的かつ戦略的苦境がもたらされた”とし、“米国が撤退した隙をついて中国が進出した”と言及している。
更に、同報告書は、“米国も長い間、アジア諸国のインフラ建設、貿易振興等を通じて同地域においてシルクロードを連想させるような開発促進を試みてきたが、同地域が本当に必要とするものにマッチしていなかった”とし、“米国による、今現在OBORに参画している国々への融資や投資は限定的であったばかりか、現在では大きく後退している”と評価している。
CFRの分析研究員のデビッド・サックス氏は『VOA』のインタビューに答えて、中国の数兆ドル(数百兆円)のOBOR投資は“際限なく、どこにも満遍なく”行き渡っていて、従来型のインフラ投資のレベルを越えてしまっている、とコメントした。
また、オバマ政権下で財務長官及び大統領首席補佐官を務めたジャック・ルー氏(65歳)は、“OBOR政策によって中国は、アジアのみならず世界に勢力を拡大しつつある”とし、“米議員は、OBORに代わる政策をOBOR加盟国に幅広く提案していく必要がある”と強調した。
更に、かつて米通商代表部(1962年設立)で法務責任者だったジェニファー・ヒルマン氏(64歳)は、中国がアジアやアフリカで進めるOBOR政策は、かつての米国より大きな影響力を持っている上に、陸上のシルクロード、海上のシルクロード、更には北極ルートのシルクロードまで拡大されつつある、と説明した。
その上で同氏は、トランプ政権下で蔑ろにされたこれら諸国との通商条約締結に向けて、“再び積極的に行動する必要がある”と主張している。
これに対して、バイデン政権の幹部は『VOA』のインタビューに答えて、“中国と競争していくため、これまでの外交方針を全面的に変更していく”とコメントした。
バイデン政権は今週、小規模・低人口島嶼国経済救済推進政策(SALPIE)を立ち上げ、カリブ海、北大西洋及び太平洋地域の島嶼国との経済連携を強化すると宣言している。
同幹部は、“中国からの圧力を受ける恐れのある小国との連携強化が重要だ”と言及した。
この流れで、ホワイトハウスのジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当、44歳)及びブライアン・ディース国家経済会議委員長(43歳)が3月22日、対象となる小国の全権公使らとのテレビ会議を共催し、米国の29の省庁が協力して推進するSALPIE政策への参加を促している。
一方、CFRのサックス氏は、“非公式ながら連携を強化しようとしている四ヵ国戦略対話(クワッド会議、注2後記)があるので、それを通じてアジアにおけるインフラ投資メカニズムを構築すればよい”とし、これに韓国と台湾を加えることも考えられる、と言及した。
なお、同氏は、“他に多くの懸案事項を抱える国務省や商務省がインフラ投資メカニズム構築の推進役となるのは無理があるので、例えば、国家安全保障会議(1947年設立)、あるいは国家経済会議(1993年設立)の中に推進部隊を設けて、大統領に報告する体制とすればよいと考える”とも付言した。
(注1)CFR:米国のシンクタンクを含む超党派組織。1921年に設立され、外交問題・世界情勢を分析・研究する非営利の会員制組織であり、米国の対外政策決定に対して著しい影響力を持つと言われている。超党派の組織であり、外交誌『フォーリン・アフェアーズ』の刊行などで知られる。本部所在地はニューヨーク。会員は米政府関係者、公的機関、議会、国際金融機関、大企業、大学、コンサルティング・ファーム等に多数存在する。
(注2)クワッド会議:非公式な戦略的同盟を組んでいる日・米・豪・印の四ヵ国における会談で、二ヵ国同盟によって維持。対話は2007年当時、安倍晋三首相(当時53歳)によって提唱され、その後ディック・チェイニー副大統領(同67歳)の支援を得て、ジョン・ハワード首相(同68歳)とマンモハン・シン首相(同75歳)が参加して開催。なお、今年3月初め、ジョー・バイデン大統領の主導で、2007年以来のクワッド会議サミットが開催されている。
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中国は、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題をいち早く収束に向かわせ、既に景気回復途上にあり、昨年半ばのマスク・医療用具品外交に続いて、今年にはワクチン外交で以て国際社会の支持を取り付けようとしている。しかし、国内では目下、習近平国家主席(67歳)に思わぬ逆風が吹きつけている。それは、発電用燃料のみならず各家庭での暖房用に主として使用している燃料用炭が、需給ひっ迫による価格高騰を引き起こしているため、反指導部派や一般市民からの反発・苦情が日に日に増しているからである。
2月19日付
『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』:「中国国内炭の供給ひっ迫で価格高騰及び停電危機が発生」
厳寒な冬季を迎えている中国では、発電用や暖房用の燃料炭価格が高騰し、一般市民の生活に深刻な打撃を与えている。
12月になって気温が下がっただけでなく、COVID-19感染問題がほぼ収束して経済が動き出したこともあって、中国の発電用燃料の約70%を占める燃料用炭の供給がひっ迫し始めたからである。
地元メディア報道によれば、富裕層でも暖房用石炭を容易に買えないという。
そして、12月初めから電力使用量の削減や停電の事態が起こり始め、一級都市である北京や上海も光源を失って薄暗くなっている。
また、南東部の湖南省(フーナン)、江西省(チアンシー)等の工業都市を抱える省では、強制的な“省電力措置”が講じられている。
今回の燃料用炭供給不足の背景には、中国政府による国内石炭産業保護のために輸入炭を削減したこと、また、国内炭産業での汚職取り締まり問題が地方自治体内でくすぶっていること等、複数の要因が挙げられる。
エネルギー政策を司る中国国家発展改革委員会(2003年設立)の趙辰昕(チャオ・チェンシン)秘書長が12月に、“電力供給に問題は発生していない”と市民に向けて訴えても、現実的に石炭在庫が払底し、節電や停電等の問題を目の当たりにして、疑念が強まるばかりである。
2019年に中国は、世界の総石炭生産量の半分近くとなる37億4,500万トンを生産していて、そのうち内モンゴル自治区では国内最大となる10億トンを生産した。
しかし、国際エネルギー機関(IEA、1974年設立)の資料によると、中国政府が目標値としている国内炭価格は1トン当たり77~88ドル(約8,100~9,200円)とされているが、『ロイター通信』報道では、COVID-19感染問題が深刻だった4月末~5月初めの価格が72ドル(約7,600円)だったにも拘らず、12月4日時点では99.23ドル(約10,400円)と38%も急上昇しているという。
国営メディアの『新華社通信』は、2ヵ月後の今年2月3日時点の価格が98.52ドル(約10,300円)と若干下がったと報じているが、依然高止まりの状況である。
2月12~18日の春節期間や若干暖かくなったことによる石炭需要減から、石炭価格は少々下がるとみられるが、専門家は、春節後の経済活動再開による需要増や在庫量不足に伴い、今後とも石炭価格は上昇していくとみている。
中国は、毎年40億トン程石炭を消費していて、中国税関総署(1949年設立)によれば、2億7千万トン余りを輸入しているが、そのうちオーストラリア炭が7,000~8,000万トンを占めるという。
しかし、中国政府は、オーストラリア政府がCOVID-19発生地問題で中国政府に難癖をつけたこと等を理由として、同国からの石炭輸入を制限し始めていたが、昨年12月14日、ついに輸入禁止とする措置を講じている。
『ウォールストリート・ジャーナル』紙は2月10日、“中国の石炭需要家は、オーストラリアよりも距離が遠い産炭国から高値で輸入せざるを得ず、昨年半ばより84%もコスト高となっている”と報じた。
ただ、台湾のアジア太平洋平和基金の董立文(トン・リーウェン)執行長(CEO)は『VOA』のインタビューに答えて、“オーストラリア炭は中国総輸入量の僅か2%弱であるので、中国の石炭価格上昇に影響を与えるのは限定的であり、むしろ国内の特殊事情が現下の石炭価格上昇をもたらした”と分析している。
同執行長によれば、主要産炭省である山西省(シャンシー)及び内モンゴル自治区の石炭産業に対する汚職取り締まりが深刻な石炭生産問題を引き起こしているという。
例えば、内モンゴル自治区では2020年1月に汚職取り締まりが始まり、当局は2000年まで遡って捜査しているという。
『新華社通信』は、昨年2月までで、地方政府高官及び産炭会社重役ら9人が既に拘束されて取り調べを受けていると報じている。
一方、中国アジア太平洋精鋭交換協会の王智晟(ワン・チーション)秘書長は、今回の電力供給制限問題で、習指導部が地方政府への影響力を失いつつあるのではないかと市民が疑い始めていると分析している。
そして同秘書長は、3月に開催される二つの大きな会議-全国人民代表大会(全人代、1954年設立、立法府に相当)及び中国人民政治協商会議(政協、1949年設立、中国共産党、各団体・各界の代表による全国会議)-において、反指導部派がこれらの問題で習主席の足を引っ張ろうと画策する可能性があるとする。
なお、同秘書長は、“両会議を通じて、習主席降ろしまで話は進まないとは思うが、エネルギーや電力危機がこれから更に深刻化すると、同主席にとっては大きな信用失墜につながる恐れがある”と分析している。
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