イスラエルのネタニヤフ首相が訪米中である。アメリカが今年イランとの核問題で合意したことに対し、イスラエルは不快の念を露わにしてきた。また、イスラエルのス
ポークスマンとなるバラツ氏の過去の失言により、両国の関係はお世辞にも良好とは
言い難いものになっていた。そんな状況下でのネタニヤフ首相の訪米で何が変わろう
としているのか、これからの両国関係はどのようにシフトしていくのか、各メディア
は以下のように報じている。
11月8日付
『walb.com』(アメリカ)は「AP通信」の記事を引用し、イスラエルの首相で
あるネタニヤフ氏が訪米することを伝え、バラツ氏のオバマ大統領らに対する失言に
もかかわらずネタニヤフ氏はバラツ氏を解任しようともせず物議を醸しているとして
いる。バラツ氏が以前フェイスブックでオバマ大統領を「反ユダヤ主義者」とののし
り、ケリー国務長官を「取るに足らない人物」と揶揄したというのである。
またイランがアメリカと核合意を結んだ事や、パレスチナからの攻撃を受けている現状からすれば今回の訪米はイスラエルにとって非常に重要な時期であるにもかかわらず、ネタニヤフ首相の問題に対する真剣さが窺えないと同氏を非難している。
元々アメリカとイスラエルの関係は良好ではなかったといわれているのに追い打ちをかけるように今回の失言問題が起きた。この問題に対して何ら動こうとしないネタニヤフ首相に対してアメリカのバイデン副大統領は不快の意を表し、ネタニヤフ首相の
訪米自体も危ぶまれていた。今回の同氏の訪米に渦中のバラツ氏は同行せず、バラツ
氏の進退はネタニヤフ首相の帰国後検討されることになるという。
今回の会談では主に2か月以上におよんでいるイスラエル・パレスチナ間の武力闘争
について話し合われる予定だという。ネタニヤフ氏は泥沼化している状況を「前進さ
せるか、少なくとも安定した状態にまでもっていきたい」としているが、「ハアレ
ツ」(イスラエルの新聞)の記事を引用し、具体策はまだ出ていないとしている。
アメリカ政府関係者らによれば、オバマ氏は自身の在任中にイスラエルとパレスチナ
の和平交渉について現実的な解決の道筋をつけるのは困難との見方を示しており、今
回の会談ではネタニヤフ首相から将来的に取りうる策について検討するための情報を
得たいとしているという。また、イスラエルの懸案事項である、パレスチナ対策とし
ての軍事支援についても話し合われる予定だという。
11月8日付
『CBSニュース』によれば、バラツ氏の失言問題はネタニヤフ首相からの指
名の後に明らかになったものであり、まだ就任の条件である閣議決定が得られておら
ず、バラツ氏は今回訪米には同行しないという。
今回の失言問題に対しネタニヤフ氏は「大変受け入れ難い内容のものであり、イスラ
エルの国としての見解とは全く別のものである。訪米後バラツ氏に会って詳細を確認
したい」と述べているという。また、バラツ氏はイスラエル国民に絶大な人気を誇る
リヴリン大統領を侮辱する発言もしており、バラツ氏に対する批判はイスラエル国内
のメディアでも高まっているという。同記事は「イディオト・アハロイト」(イスラ
エルの日刊紙)の記事を引用している。「バラツ氏は、首相が我々の代弁者として選
んだ人物であり、彼の話す内容がイスラエルの国の意見となって世界に発信される。
彼の口からは毒が吐かれ、彼の口が我々の口と同視されるのである」。
11月8日付
『ハフィントンポスト』は今回のネタニヤフ首相の訪米に関連付けて中東
の状況を分析している。「イランとの核合意により、同国の核問題は大変落ち着いた
状態になったが、皮肉にも中東でのイスラエルを取り巻く軍事問題は緊張の一途を
辿っている」。イランとの核合意の直後にアメリカはイスラエルに対する軍事支援を
行うことを約束し、イスラエルは周辺国の中でも最も軍事的に進んだ国としての地位
を維持することになる。この展開をイスラエルにとっては「たなぼた」だとする見方
もあるという。
今回のネタニヤフ首相の訪米に先駆けてアメリカのカーター国防長官とイスラエルの
ヤーロン国防相は先月「両国間の国防関係の発展のための」会談を行ったという。こ
れによればアメリカはイスラエルのアイアン・ドームやデービッド・スリング、ア
ローミサイル防衛システムといった対空防衛システムへの支援を継続するとともに各
種戦闘機の配備に協力することが約束されたという。これらの計画にはレイセオン社
(米の軍需品メーカー)やロッキード・マーティン社(米の航空機、宇宙船の開発会
社)、プラット・アンド・ホイットニー社(米の航空機用エンジンメーカー)が関
わっているという。
イスラエルとアメリカ間の軍事支援の契約は毎年30億ドル(約3700億円)にのぼり、
2017年に期限を迎える。今回のネタニヤフ首相の訪米直前にイスラエルからアメリカ
に契約終了後10年間契約を新たに結び、年額を50億ドル(約6173億円)に増額してほ
しい旨の申し入れがあったという。増額の理由はイスラエル側によればパレスチナに
対抗するためだという。
もっとも、同記事は増額の申し入れの理由はそれだけではないとする。イスラエルの
軍事的拡充は将来的には対イランに対する脅威となりうるというのである。また、そ
れよりも喫緊の問題として、このような軍事的援助によりイスラエルの立場にお墨付
きを与えることになり、無防備なパレスチナ人が犠牲になるだろうとしている。そし
てこれら一連の軍事的援助により莫大な利益を得るのはアメリカの軍需産業界であ
り、その費用はアメリカ国民の血税でまかなわれるのだと指摘する。
今回のバラツ氏の失言と、ネタニヤフ首相の一連の対応により、イスラエルのアメリ
カに対する真意は明らかになったのであるから、無益な軍事的援助はやめて国内の社
会政策に力を入れるべきだとも指摘する。
イランの核問題についてオバマ大統領は歴史的、飛躍的な進展をアメリカにもたらし
た。しかしそれだけでは中東の安定にはまだまだ不十分なのも事実で、次の一歩は次
期大統領に課された宿題となるであろう。
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