日本では、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題も漸く下火となって経済活動再開が期待される。しかし、1年半余りの感染問題で大きく影響を受けたレストランや宿泊業界では、営業制限や廃業等のために失職した労働者が、新たな職を求めて求人需要のある介護やIT業界に流れている。ただ、元々賃金レベルが先進国中最低レベルにある日本では、転職しても給与上昇は望み薄だと欧米メディアが報じている。
10月22日付
『ロイター通信』:「感染流行によって日本における労働移動が起こっているものの給与上昇は期待薄」
日本においては、COVID-19感染問題に伴い、長い間労働力不足に喘いでいた介護やIT業界への労働移動が起こっている。
何故なら、深刻な影響を受けたレストランや宿泊業界で休業・失職を余儀なくされた労働者が新たな働き口を求めたからである。
日本では、長い間労働流動性が低いため生産性が下落する傾向となっていたが、今回それが変革しようとしている。
しかし、それで以て、数十年もデフレーションに喘ぐ日本経済を再活性化するのに必須である賃金上昇に結び付くかどうかは、時期尚早である。
目下転職を試みている日本の労働者は、賃金よりもまず雇用機会及び安定を求めている。
例えば、12年間マッサージ師の職に就いていた人は、感染流行で客が激減したことから介護サービス補助に転職し、目下介護資格を取るための勉強もしている。
彼は、マッサージ師時代の年収が280万円(2万5千ドル)だったが、介護資格を取得して正規の主務業務を司れることになれば、330万円と年収が+18%も上がると期待している。
しかし、彼にとって年収上昇より、安定的な職に就けたことの方が重要だとする。
ただ、専門家のみるところによると、今回の転職が介護・IT業界以外にも広まっていくのか、また、感染症が完全に終息して後も、レストラン業界から介護・IT業界への転職が続くのか、未だ確たることは分からないという。
高齢化が非常に早く進んでいる日本では、介護従事者が2040年までで69万人も不足するとみられており、今後の労働移動の行方が注目される。
しかし、日本の低賃金問題は深刻で、経済開発協力機構(OECD、1961年発足、本部パリ)の2019年データによると、時間当たり労働生産性は47.9ドル(約5,460円)と米国の約60%と低く、主要7ヵ国(G-7)の中で最低で、OECD加盟37ヵ国の中でも21番目の低さである。
日本総合研究所(三井住友フィナンシャルグループ傘下のシンクタンク、2002年設立、前身は1969年設立)の山田久副理事長(50代)は、“COVID-19感染問題の影響で、低賃金労働者は、賃金上昇どころか更に悲惨な状況に追い込まれている”とコメントしている。
特にサービス産業では、従業員解雇の事態に陥っているため、厚生労働省のデータによると、2020年の従事者が390万人と前年比▼30万人もの減少となっている。
一方、医療・介護業界の従事者は860万人と2019年比+20万人、また、IT業界でも240万人と+10万人それぞれ増加している。
IT業務の教育を行っているSAMURAIでは、2021年4月時の生徒数が1年前に比べて1.7倍となっている。
未経験の生徒が最も受講するのはプログラミングで、IT業界では最低のランクの仕事であるものの、サービス産業における平均賃金より高い。
すなわち、レストランや介護サービスの従業員の平均年収は約300万円で、日本のサラリーマンの平均年収より30%も低く、一方ITプログラマーは全国平均並みの収入がある。
SAMURAIに通う22歳の生徒は、料理人として働いていたが失職したためにプログラミング習得を目指していて、“IT業界が如何に人気があるか分かったし、また、雇用が安定していることも魅力だ”と語っている。
また、福祉・医療専門の人材会社クリエでは、介護職訓練クラスがCOVID-19前は3分の2しか埋まらなかったが、現在は満杯の状態となっている。
同社の中山孝之代表は、今後とも介護業界からの求人は固いとみている。
同代表は、“確かに介護業界の賃金は概して低いが、深刻なダメージを受けたレストラン等のサービス産業に従事するより、安定的な仕事に就きたいと思う人が多い”とコメントした。
一方、COVID-19終息後の経済活動再開が見込まれることから、小売業やレストラン業界では労働力不足が起こると懸念している。
日本有数の居酒屋チェーンを展開しているワタミ(1986年創業)は、過去3年間はゼロだったが今年は100人中途採用するとし、そのために給与レベルも上げるという。
同社の渡邉美樹会長(62歳)は、“時給1千円では不十分で、従業員に将来への期待を抱いてもらうためには1,500円は出す必要があると考えている”と述べている。
(参考)厚生労働省データによると、2021年10月から適用される時間当たり最低賃金は、①東京1,041円、②神奈川1,040円、③大阪992円、・・・、㊻高知・沖縄820円、全国加重平均額920円。
OECD 2020年データによると、①豪州12.9ドル、②ルクセンブルク12.6ドル、③フランス12.2ドル、④ドイツ12.0ドル、・・・、⑫韓国8.9ドル、・・、⑭日本8.2ドル、・・、⑰米国7.3ドル。
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