欧米諸国による、ウクライナ軍事侵攻に伴う対ロシア制裁は徐々に奏功しつつある。しかし、ロシア反体制派グループが訪米し、もっとプーチンに強烈な打撃を与えるため、下級官僚まで含めた6千人を対象とした広範囲の制裁を科すべきだと、米議会議員に直訴した。
5月20日付
『AP通信』は、「ナワルニー氏率いるグループ、ウクライナ支援のため対ロシア制裁拡大を直訴」と題して、野党勢力代表のアレクセイ・ナワルニー氏(45歳)率いるグループ代表が訪米して、対ロシア制裁を拡大するよう米議会議員に直訴したと報じている。
ロシアの野党勢力代表のアレクセイ・ナワルニー氏率いるグループ代表は5月19日、ワシントンを訪問した上で、ロシア政府への制裁の一環で、現在発動しているオリガルヒ(新興財閥)への制裁に留まらず、もっと強烈な打撃を与えるため、新たに制裁対象とすべき6千人のリストを以て米議会議員に直訴した。
今回新たに対象とされたのは、国防・治安部門高官、行政職員、知事、議会議員、政府系メディア編集者・管理職らである。
ナワルニー氏が率いるロシアNPO腐敗防止財団(FBK、2011年設立)のウラジーミル・アシュルコフ事務局長(50歳)は5月19日、記者団のインタビューに答えて、西側諸国による“雪崩式の制裁”はそこそこロシアに効いているが、ウラジーミル・プーチン大統領(69歳)支持の富豪らに止まらず、下級官僚含めてもっと多くを制裁対象に加えることによって、ロシアの財政を更に効果的に圧迫することになると訴えた。
同事務局長は、制裁は戦争を止める“銀の弾丸(注後記)”ではないが、“西側諸国がロシアを痛めつける有効な手段のひとつである”と語った。
FBK一行がワシントン入りする直前、議会はウクライナへの武器及び人道支援のため400億ドル(約5兆1,200億円)に上る拠出決議を採択したばかりであった。
FBKの別の幹部によると、今回の追加制裁リストはナワルニー氏自身の案として提示されたものだという。
ナワルニー氏は、2020年夏に毒殺未遂に遭って、ドイツでの治療の後に2021年にロシアに戻ったところで逮捕・拘束され、目下刑務所に投獄されているが、依然、プーチン批判グループの中で最も力がある人間だと目されている。
FBKのアンナ・ベドューダ副事務局長は、ナワルニー氏は投獄されたままだが、“我々の運動を牽引してくれる”頼もしいリーダーだとコメントした。
なお、今回米議会議員を訪問するに当たって、特に上院の共和党議員に狙いを絞って攻勢をかけたのは、対戦車ミサイル・ジャベリンや戦車をウクライナ軍に供与することで大規模出費となるのと違って、制裁発動そのものでは、米財務省や米国民に金銭的負担を強いることはないと強調している。
FBKグループが今回面談したのは、上院外交委員会上級委員のジム・リッシュ議員(アイダホ州選出、2009年初当選)、マルコ・ルビオ議員(50歳、フロリダ州選出、2011年初当選)らである。
ベドューダ氏は、ナワルニー氏には毎日、代理人弁護士が面会していて、FBKグループの直近の活動等を承知してもらっていると言及した。
しかし、近々ナワルニー氏がもっと警備が厳しい刑務所に移送される模様で、そうなると活動の打ち合わせが難しくなると語ったが、“それでも彼は、今後とも強いリーダーとして、欧米諸国を巻き込んで、ロシア政府への抗議活動を牽引していく”と強調した。
同日付『ABCニュース』も、「ロシア反体制派グループ、プーチン一派を懲らしめるために制裁対象を“次の階層”まで広げるよう米国側に要請」と題して詳報している。
ナワルニー氏が率いるFBKグループのメンバー一行は5月19日、上院外交委員会や情報委員会のメンバー議員の他、司法省や財務省の高官らとも次々に面談し、プーチン一派を更に懲らしめるため、“次の階層”への制裁発動を要請して回った。
アシュルコフ事務局長は『ABCニュース』のインタビューに答えて、目下のロシア富豪への制裁に加えて、プーチン支持の中堅の官僚やその他大勢の役職員を対象に制裁を科すよう要請したと語った。
同氏は、“彼らは大体40代半ばであるので、プーチンが退いた後でも日々の暮らしをしていく必要があり、制裁を科されることによって、ウクライナ戦争やプーチン政権のことをもっと深刻に考えざるを得なくなるからだ”という。
同氏によれば、今回米国側に提示した追加制裁対象6千人のリストは既に公開しているため、“徐々にではあるが、プーチン政権から距離を置こうとする動きが出ている”とし、“正に実効性ある制裁発動と評価できる”と強調している。
(注)銀の弾丸:銀で作られた弾丸で、西洋の信仰において狼男や吸血鬼などを撃退できるとされ、装飾を施された護身用拳銃と共に製作される。銀には高い殺菌作用があるほか、ヒ素化合物のひとつである硫化ヒ素と反応して黒変する性質があるため、古くから病をもたらす未知の存在へ対抗する手段として経験則的に知られている。こうした背景から、通常の弾丸では通用しない吸血鬼や狼男、魔女なども銀の弾丸なら射殺できるとされ、伝説やフィクションの世界で多用される存在となったもの。
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