欧州連合(EU)は、ウクライナ軍事侵攻を続けるロシアに対して厳しい制裁措置を講じている。そうした中、目下開催中のEU国防相・外相会議において、対ロシア制裁強化の一環で、ロシア人旅行者へのビザ発給停止政策が協議されているが、ロシアと国境を接するバルト三国等が全面停止を求める一方、反プーチン派のロシア人救済に必要とするフランス・ドイツや、ロシア人が落とす外貨収入に期待する国々が慎重な対応を主張しており、今のところ意見は分かれている。
8月30日付米
『AP通信』は、「EU、ロシア人ビザ発給停止政策で賛否両論」と題して、EU国防相・外相会議において、ロシア人旅行者へのビザ発給全面停止を求める国と、一部制限強化する案に止めるべきだとする国で意見が分かれていると報じている。
EU加盟国による8月30日開催の国防相・外相会議で、ウラジーミル・プーチン大統領(69歳)への圧力強化のためにロシア人ビザ発給停止を全面的に行うべきだとする意見と、ウクライナ軍事侵攻を支持していないロシア人まで罰することになるので慎重な対応が求められるとする意見に分かれている。
EUは今年5月、ロシア高官や新興財閥(オリガルヒ)へのビザ発給制限政策を打ち出しているが、ポーランド及びバルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)は、ロシア市民への観光ビザ発給停止を求めている。
ラトビアのアーティス・パブリクス国防相(56歳、2019年就任)はプラハ(チェコ)で開催されている会議の席上、“プーチンを支持しているような人たちに(観光ビザという)ボーナスを与えるべきではない”として、“ロシア人旅行者へのビザ発給停止が必要だ”と訴えた。
これに対して、EUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(75歳、外相に相当、2019年就任、スペイン元外相)は、ドイツやフランスが全面停止より発給条件強化案を主張していることから、全面発給停止策は恐らく合意に至らないだろうと述べている。
ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相(41歳、2021年就任)は、8月31日の会議出席のためにベルリンを立つ直前、2007年締結のEU・ロシア間協定内の停止要件を増やすことや、複数回や複数年入境許容ビザの発給を取り止める案を支持すると表明した。
しかし、同外相は、“ロシア国内で迫害に遭っている人たちが急遽脱出しようとした場合に、その機会を奪うべきではない”とし、“ロシア政権に勇気を持って反旗を翻した人たちまで罰してはならない”と強調した。
これに対して、EU加盟国の中でロシアと最も長い国境を接しているフィンランドは、9月1日以降、ロシア人に対するビザ発給機会を週に1日とし、ロシアの4都市での発給に止めるとの方針を発表している(編注;EUデータによると、軍事侵攻以来の半年間で約100万人のロシア人がEU域内に入境しており、うち約60万人がフィンランド・エストニア経由)。
同国のペッカ・ハービスト外相(64歳、2019年就任)は、ヘルシンキ空港がEUへの“玄関口”となってロシア人が殺到していることを懸念しており、9月1日以降のビザ発給数を従来の10%に制限することを決定した、と表明した。
一方、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官(54歳、2012年就任)は8月30日、EUの対ロシアビザ発給政策討議を注意深く見ており、もしロシアに対する“不合理かつ狂気に近い”政策と認められれば、相応の報復措置を講じることになると警告している。
8月31日付欧米『ユーロニュース』(1993年開局のEUニュース専門放送局)は、「ドイツとフランス、ロシア人へのビザ発給停止政策に反対する国々を支持」として、EUの2大国が、性急な制裁強化に反対する意向を示したと報じている。
EUにおいて最も影響力を有するドイツとフランスが、EUによるロシア人旅行者へのビザ発給停止政策推進に反対する国々を支持すると表明した。
両国は、性急な対ロシア制裁強化によって、ロシア国内で依然西側諸国への愛着を持った人々まで疎外されてしまうことを懸念している。
『ロイター通信』が入手した両国の共同声明によると、“EU内の一部の国々の懸念は理解できるものの、特にロシアの若い世代の間で、民主主義の考えが広がりつつあるという点を過小評価すべきではない”とし、“EUのビザ発給政策は、ロシア政府と全く繋がりのないロシア市民に対して、EU内の人的交流を促進するための措置とすべきである”としている。
ロシア人旅行者へのビザ発給停止政策は、バルト三国・ポーランドの他、フィンランド・デンマークも強く主張しており、ウクライナ軍事侵攻を止めないロシアに対する相応の制裁措置だと主張している。
オランダ政府も8月30日、地元メディアのインタビューに答えて、同政策を支持する旨表明した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(44歳、2019年就任)はもっと厳しく、西側諸国全体で無条件のビザ発給全面停止政策を採用するよう求めている。
一方、ポルトガル政府は、EUによる制裁は“ロシア人ではなくロシア政府や戦争支持者らに科するべき”だとし、スペインもこれに同調した。
また、ロシア人観光客の収入に頼るギリシャ等は、依然ビザ発給全面停止政策に反対している。
なお、EU全体でビザ発給制限政策を推進するためには、加盟全27ヵ国の全会一致が必要となる。
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