現職のジャイール・ボルソナーロ大統領(67歳、2019年就任)は2018年当時、政策・主張・振る舞いがドナルド・トランプ大統領(76歳、2017~2021年在任)に近似していることから、ブラジルのトランプと呼ばれ、その余勢を駆って大統領選に勝利した。しかし任期4年を迎え、本家と同様、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題を軽んじたこと等から支持率を大幅に下げ、10月2日に迫った大統領選での再選が危うくなっている。
9月29日付
『ロイター通信』は、「ブラジルの異端児大統領、4年の任期を経てオーラ霞む」と題して、4年前に民衆を味方につけて左派政権を破って当選したジャイール・ボルソナーロ大統領が、COVID-19を“ただの風邪”と軽んじたことで米国に次ぐ多数の犠牲者を出した付けもあって、再選が危うくなっていると報じている。
ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は9月29日、自身を大統領職から降ろせるのは神のみだと嘯いた。
ブラジルでは10月2日に大統領選投票日を迎える。
しかし、現下の世論調査の結果によると、何か奇跡が起こらない限り、現職大統領が再選される可能性はない。
同大統領は、COVID-19問題で味噌をつけ、また、公約とした市民生活基準の向上が達成できず、競争相手の左派候補ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ=シルバ元大統領(76歳、2003~2010年在任)に支持率で大きく差を付けられている。
同大統領は支持率回復のため、あらゆる手段を講じようとした。
例えば、ブラジルの投票システムの信頼性はないと根拠もなく何度も訴え、憲法を改定して貧民層に現金を配る権限を持つようにし、また、かつて中傷していた中道派政治家とも連携を組んでいる。
しかし、それでもなお再選は厳しい。
何故なら、ほとんどの世論調査の結果では、ルーラ氏が軒並み10~15%リードしており、10月30日の決選投票に向かうことなく、10月2日の初回投票で決着をつけてしまう勢いとなっているからである。
リオデジャネイロ国立大学(1979年設立)政治学専攻のモーリシオ・サントロ助教は、彼が最も重要として掲げた、反政府勢力を政権下に取り込むとする公約を4年間で果たせなかったことが大きいと分析している。
同助教は、“2018年(前回大統領選時)にボルソナーロは偉大な新改革勢力だった”が、“今や彼は単なる権力者に過ぎない”と酷評した。
ボルソナーロ氏は2018年時、農業関連産業、自由市場支持者、キリスト教福音派(プロテスタント)、更には治安部隊から広く支持を集め、新たな保守系連立政権を構築することで当選を果たした。
しかし、やがて大きな失敗をすることで支持を失った。
それは、彼が敬っていたドナルド・トランプ大統領に倣って、COVID-19を“単なる風邪”と決めつけ、全く治験がないのにヒドロキシクロキン(抗マラリア剤)がワクチンより有効だと主張し、結果として70万人近くの犠牲者を出してしまっている(編注;米国の105万人に次ぐ世界2位の死者数)。
多くのブラジル国民はこの事態を許しておらず、特に女性有権者は、2018年に女性蔑視発言を繰り返していた同大統領を今回も非難している。
また、若年層も、ルーラ元大統領時代のブラジル経済最盛期の再来を待ち望んでいて、ルーラ氏及び後継者のジルマ・ルセフ大統領(74歳、2011~2016年在任、任期途中に弾劾罷免)が関わった大規模汚職事件を余り問題視していない。
9月30日付『AFP通信』は、「ルーラ氏、投票日3日前でも高い支持率を維持」として、最新の世論調査の結果でも、ルーラ元大統領の当選の確率が高いと報じている。
9月29日に行われた最新の世論調査の結果、ルーラ元大統領が回答者の50%から支持を得ていて、現職のボルソナーロ氏に14%の差をつけている。
また、9月26日に実施された別の世論調査では、ルーラ氏が52%の支持を得ていて、ボルソナーロ氏の34%を引き離していた。
10月2日の投票時、当選を確実にするには50%超の得票が必要で、これを下回る場合、上位2候補者による決選投票が10月30日に実施されることになる。
ただ、ボルソナーロ氏は、如何なる世論調査の結果に対しても、その信ぴょう性に疑義があるとし、更に、自身が敗退することはありえないとして、敗北という投票結果となった場合には、それは不正投票の結果であると主張し、敗北宣言をする意向はないとする強硬発言を繰り返している。
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