日本は2019年、国際捕鯨委員会(IWC、1946年設立、加盟88ヵ国)を脱退し、これまでの科学的調査捕鯨を止めて商業捕鯨を再開すると宣言した。その際、①日本領海及び排他的経済水域(EEZ)内、②十分な資源量が確認できる3種の鯨に限定、③IWC採択の計算式に基づく捕獲量を維持、と表明していた。しかし、70年振りに新型捕鯨母船(注1後記)を竣工させたことから、前言を翻して南氷洋(南極海の別称)まで商業捕鯨を拡大していく恐れがあると英国メディアが批判的報道をしている。
5月2日付
『ザ・ガーディアン』紙は、日本が新たに捕鯨母船を建造したことから、商業捕鯨拡大の懸念があると報じた。
共同船舶(1987年設立、鯨類資源調査事業企業)は2024年3月、日本において70年振りとなる捕鯨母船「関鯨丸」(総トン数9,300トン)を竣工させた。
同船は、これまで日本近海で行ってきた商業捕鯨用母船「日新丸」(総トン数8,100トン、1987年竣工、2023年運航終了)の後継船となる。...
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5月2日付
『ザ・ガーディアン』紙は、日本が新たに捕鯨母船を建造したことから、商業捕鯨拡大の懸念があると報じた。
共同船舶(1987年設立、鯨類資源調査事業企業)は2024年3月、日本において70年振りとなる捕鯨母船「関鯨丸」(総トン数9,300トン)を竣工させた。
同船は、これまで日本近海で行ってきた商業捕鯨用母船「日新丸」(総トン数8,100トン、1987年竣工、2023年運航終了)の後継船となる。
同船建造には4,700万ドル(75億円)かかっているが、以前の捕鯨母船の3倍となる70トン級の鯨を艦内に引き上げて処理することができる。
同船は5月下旬、100人の船員を乗せて東北沖での沿岸商業捕鯨に出る予定である。
沿岸商業捕鯨としているのは、日本が2019年にIWCを脱退した上で、1987年より行ってきた南氷洋での科学的調査捕鯨を止め、今後日本近海(領海及びEEZ内)における商業捕鯨を再開すると宣言していたためである。
ただ、同船の航続距離が1万3千キロメートルと、南氷洋まで到達できる能力を保有していることから、巨額投資額の回収問題と相俟って、将来的に南氷洋での商業捕鯨も視野に入っていることが懸念される。
環境・動物保護団体「ライフ・インベスティゲーション・エイジェンシー(LIA、注2後記)」のヤブキ・レン代表(俳優・活動家、2008年矢吹蓮から改名)は、“今回、「関鯨丸」のような大型捕鯨母船を新造した以上、日本はまだ商業捕鯨拡大の道を諦めていない”とし、“間もなく、国際社会の考えとは裏腹に、南極海において大量の商業捕鯨が再開される可能性が高い”と批判している。
これに対して、共同船舶の広報担当久保好氏は、“日本がIWCを脱退して以降、我が社は科学的調査捕鯨に関わってきたが、遠洋での商業捕鯨の計画はない”とした上で、“日本政府からも、南氷洋での捕鯨計画について一切示唆はない”と反論した。
更に同氏は、“我が社の使命は、少なくとも今後30年間、沿岸商業捕鯨を続けるために本船を活用することだ”とも強調している。
なお、日本は昨年、沿岸商業捕鯨の結果、捕鯨対象としているミンククジラ83頭、ニタリクジラ187頭、イワシクジラ25頭を捕獲している。
しかし、年間消費量は1,000~2,000トンと、ピーク時だった1962年の消費量23万トンの僅か1%未満で推移している。
(注1)捕鯨母船:別の捕鯨船が捕獲した鯨を船内に引き上げ、解体から肉の冷凍・保存処理までを行う役割を担う船。
(注2)LIA:国内外の野生動植物種の保護、愛玩動物の保護、環境に対する犯罪、動物に対する犯罪の調査、及び刑事告発をおこなう日本のNGO団体。2010年設立。
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