世界貿易機関(WTO)で10日、各国の貿易紛争を最終的に解決する上級委員会の委員2人がこの日に任期切れを迎えたが、その補充に米国が反対したことにより、委員が欠員状態となり、紛争処理手続きが機能不全に陥った。
『ロイター通信』や
『AP通信』などのメディアが報じた。国際貿易紛争の審理を行うWTOの最高裁に相当する上級委員会の定員は7人で、このうちの3人で事案を審議する。米国が過去2年間に委員の新たな選任を拒否していたことで欠員が生じ、委員数は審理のために必要な最低人数の3人にまで減っていた。
今回2人がさらに欠員となったことで委員数はわずか1人となり、新規事案の審理が行えない事態となる。また、米中間の貿易戦争や、トランプ米大統領による鉄鋼製品への関税など、現在懸案となっている主要な貿易紛争の解決を図ることもできなくなる。...
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『ロイター通信』や
『AP通信』などのメディアが報じた。国際貿易紛争の審理を行うWTOの最高裁に相当する上級委員会の定員は7人で、このうちの3人で事案を審議する。米国が過去2年間に委員の新たな選任を拒否していたことで欠員が生じ、委員数は審理のために必要な最低人数の3人にまで減っていた。
今回2人がさらに欠員となったことで委員数はわずか1人となり、新規事案の審理が行えない事態となる。また、米中間の貿易戦争や、トランプ米大統領による鉄鋼製品への関税など、現在懸案となっている主要な貿易紛争の解決を図ることもできなくなる。一審に相当する紛争処理委員会(パネル)は審理が可能だが、上訴先が事実上なくなってしまう。
トランプ米大統領とライトハイザー米通商代表部代表は、これまでWTOを強く批判してきた。2人はWTOが、中国ほか他国による不公正な貿易慣行に対抗する米国の措置を抑制していると主張する。
米国は、中国政府が国内企業に産業補助金を与え、輸出価格を不当に下げているとして、反ダンピング措置を課したが、WTOが米国の措置を不当と判断したことに強い不満を抱いている。米国のシアWTO大使は、上級委が規則を超えた判断をしたり、規則を無視したりしているとして、委員の新たな選任を支持しないと表明していた。
トランプ政権で通商代表部の法律顧問を務めたスティーブン・ボーン氏は、今後多くの紛争が各国間の交渉で解決するだろうと指摘したが、一貫しない解決が図られてきた戦後の時代に逆戻りするとの懸念が高まっている。WTOが1995年に創設された目的は、こうした問題を解決するためだったからだ。欧州連合(EU)のマシャードWTO大使は、上級委の機能不全で、規則ではなく力に基づく経済関係が構築されると警告した。
164カ国の加盟国から成るWTOは、開かれた市場を推進する役割においても行き詰まりを見せている。WTOは、2015年に多角的貿易交渉「ドーハラウンド」の交渉を断念して以来、国際的な合意を形成できておらず、その存在意義を問う声も出ている。
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