安倍晋三政権は2016年、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長:安倍首相)において、新たな観光ビジョンを策定の上、具体的数値目標として2020年の訪日外国人旅行者を4,000万人にするとぶちあげた。かかる政策に後押しされて、古都京都や食い倒れの街大阪では、ホテル、レストラン、その他観光業者が一斉に訪問客受け入れ拡充のための投資に動いた。しかしながら、世界中を震撼に陥れた新型コロナウィルス(COVID-19)流行問題を受けて、訪日外国人旅行者は昨年同期比99%以上落ち込んでしまっており、関西の観光業界は青息吐息の状態に陥っていると欧米メディアが詳報している。
8月7日付
『ロイター通信』:「感染症世界流行で、安倍政権の観光振興政策が頓挫」
夏季休暇シーズン到来で、古都京都では毎年、神社仏閣、ホテル、レストラン、その他観光施設は訪れる観光客、特に外国人観光客で大混雑する。
しかし今夏に限っては、世界中を震撼に陥れたCOVID-19流行問題のため、諸外国はもとより日本においても往来がかなり制限されてしまっていることから、京都の多くの観光地は閑古鳥が鳴いている。
地元のタクシー運転手は、“2008年の世界金融危機(リーマンショック)より遥かに悪い”とし、“やがて、一日の売り上げが2千円(約19ドル)しかならない日が到来したら、昼食代と自身のガソリン代を払ったら何も残らなくなってしまう”と嘆いている。
京都やその他関西諸都市の窮状は、安倍晋三政権が掲げた“アベノミクス”政策一環の、外国人旅行者を大きく増やして観光先進国を目指すとの政策の脆弱性を映し出している。
安倍政権は、年4千万人の外国人旅行者受け入れを目標に掲げて、各都市に対して飛行場の拡充、国際線受け入れ増加、更にはホテル新設許可等の積極政策実施を求めた。
そこで、古都京都はもとより、製造業の国際競争力で中国に負けた大阪の諸都市も、観光業に集中して投資を進めた。
確かに、安倍政権発足後の2013年の外国人旅行者約1千万人に対して、3倍となる3千万人超受け入れを達成している。
しかし、今回のCOVID-19問題に伴い、今年1月に270万人だった外国人旅行者は、6月ではたった2,600人にまで落ち込んでいる。
特にホテル業界の窮状はすさまじく、外国人観光客の落ち込みのみならず、テレワークの促進によるオンライン会議等が主になることに伴い、国内出張者の激減にも見舞われている。
京都銀行(1941年設立の地銀)の土井伸宏頭取(64歳)は、“外国人観光客大幅増に期待して新増築したホテル、レストラン、土産物屋は、今や大変な状態になっている”とコメントした。
京都市のデータによると、市内のホテル数は5年前から25%増の664軒、個人等の小規模民泊施設なども5倍増の3,299軒となっているという。
土井頭取によると、“これから多くのホテルの倒産が起こることになる”という。
また、食道楽や著名な城を目当ての観光客の多い大阪も同様で、ホテルの部屋数が5年前より80%増の9万室となったこともあって、訪問客激減の影響をもろに受けている。
同市最大の高級ホテルのホテル日航大阪(1982年開業)は、7月の稼働率が20%以下と、COVID-19問題発生前より90%以上も落ち込んでいる。
同ホテルの呉服弘晶社長兼総支配人(64歳)は『ロイター通信』のインタビューに答えて、“大阪のホテル業界は、かつて経験したことがないほど悲惨な状況で、どうやって克服していったらよいか想像がつかない”と悲愴的コメントを寄せている。
同社長は更に、“これから更に多くの倒産、それに伴う失業事態が発生し、今後二、三年は回復しないだろう”と嘆いた。
東京商工リサーチ(1892年創業の国内第2位の信用調査会社)によると、COVID-19感染者が最も深刻な東京よりも、大阪の6月の倒産企業は147社にも及び、7月には更に100社前後が破産するという。
菅義偉官房長官は先月の記者会見で、“国内の観光業界の惨状は承知しており、今回政府が推進する160億ドル(約1兆7千億円)規模のGo To Travelキャンペーンで、国内旅行需要を喚起できると考えている”と語った。
ただ、東京商工リサーチ関西支社の新田調査員は、“政策で多くの企業が救われるかも知れない”としながらも、“今年の9月ごろに政府系金融会社からの事業救済短期貸付金の満期が到来することから、事情が一変するとみられ、もし感染症第2波が襲来すれば、大企業も含めた更に多くの企業の倒産が避けられない”とみている。
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