オーストラリア(豪州)が国内在住の中国スパイ摘発に動けば、中国側はその報復とばかりに鉄鉱石や牛肉等豪州産品の取引に難癖をつけ、更には、中国在住の豪州人ジャーナリストらをスパイ容疑で拘束したりしている。そうした中、昨年逮捕され、非公開裁判にかけられようとしている中国系豪州人が、2000年頃までの10年間、中国国家安全部(1983年設立の情報機関)の下で中国スパイとして活動していたと支援者に暴露していたことがこの程明らかになった。
10月21日付
『ロイター通信』:「中国当局に拘束されている豪州人作家、かつて中国スパイだったことを支援者に明かす」
中国系豪州人作家の楊恒均(ヤン・ヘンジュン、55歳)氏は、2019年1月に中国当局に逮捕され、目下スパイ容疑で裁判にかけられようとしている。
その楊氏が2011年、支援者の一人に対して、自身がかつて中国スパイとして活動していたことを暴露していたことが判明した。...
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10月21日付
『ロイター通信』:「中国当局に拘束されている豪州人作家、かつて中国スパイだったことを支援者に明かす」
中国系豪州人作家の楊恒均(ヤン・ヘンジュン、55歳)氏は、2019年1月に中国当局に逮捕され、目下スパイ容疑で裁判にかけられようとしている。
その楊氏が2011年、支援者の一人に対して、自身がかつて中国スパイとして活動していたことを暴露していたことが判明した。
楊氏は2011年3月、中国南部の広州(クワンチョウ)空港で拘束されたが、当時発生していた中国ジャスミン革命(注後記)に関わっていたとされていた。
このときは、豪州政府が介入し、また、容疑不確定だったことから3日間で解放された。
その際同氏は、豪州の恩師であり支援者の一人であるシドニー工科大学の馮崇義(フォン・チョンギ、中国研究専門)准教授に宛てた信書の中で、1989年に中国国家安全部(省に相当)に所属し、1992年から1997年間に香港で旅行代理店従業員として、また、1997年から1999年までは米国のシンクタンクで研究員として働きながらスパイ活動を行っていたと明かした。
今回、馮准教授は、中国当局が楊氏に対して、国籍不明のスパイ活動グループに加わっていた容疑で、最長10年以上の有罪判決を下す恐れがあることから、
2011年当時に明かされた秘密を公開することにしたという。
楊氏が中国スパイであったとの噂は、同氏が中国当局によって誤情報によって裁かれないようにする対抗策として、中国反体制派の中で事前に流されていたが、今回馮准教授によって初めて確認されたことになる。
中国外交部は10月12日、『ロイター通信』の取材に対して、楊軍(ヤン・チュン、楊氏の中国戸籍名)容疑者は10月7日にスパイ容疑で起訴され、これから審理が始まると回答した。
同部の趙立堅(チャオ・リーチャン、47歳)報道官は、“楊軍被告の容疑については関係当局が法に基づいて対応しており、また、同被告の人権は完全に擁護されている”と強調した。
一方、豪州政府のマリーズ・ペイン外相(56歳)は先週、『ロイター通信』に対して、楊氏のスパイ容疑を示す証拠は一切見つかっていないと回答している。
また、楊氏の中国人代理人弁護士は、中国当局から審理について一切メディアに公開しないよう強要されているという。
楊氏の支援者によれば、習近平(シー・チンピン、67歳)指導部が2016年以来民主活動の取り締まりを厳格化していること、また、それにも関わって豪州・中国間の外交関係が悪化しつつあることから、今回の楊氏逮捕・起訴に繋がっているという。
なお、楊氏は1999年に豪州に移住し、2002年に市民権を取得している。
そして、それ以降楊氏はスパイ小説の執筆に着手し、これまで3冊台湾で発刊(英語及び中国語)しているが、いずれも米国・中国の二重スパイを題材にしている。
ただ、今回の2019年1月の楊氏再拘束は、中国国営メディアが同月に盛んに報道した国家安全部主導の“海外干渉の取り締まり”強化に基づくものとみられる。
何故なら、馮准教授によれば、“楊氏は小説以外に、エッセー等で中国の人権侵害や中国共産党の間違いを指摘し、中国の民主化促進を訴えていたから”だという。
(注)中国ジャスミン革命:2011年2月から3月にかけて、数十の中国主要都市で一斉に発生した反体制派による民主化運動。結果は失敗に終わり、人権活動家や弁護士等総勢70人程(うち25人はジャーナリスト)が逮捕された。なお、2010年12月から2011年1月にかけてアフリカ北部で発生したチュニジア革命(別名ジャスミン革命)に引っ掛けて中国ジャスミン革命と命名された。
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