新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行の第4波に襲われて、止む無く大都市圏に3度目となる緊急事態宣言が再発令されている。これに対して、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(67歳、ドイツ人弁護士、元フェンシング代表選手)が、東京大会開催とは無関係と発言したことで物議を醸した。ただ、4年に1度のオリンピック・パラリンピック参加を心待ちにしているアスリートの中には、万が一の大会中止、あるいは更なる延期は受け入れられず、IOC及び大会組織委員会が何とか開催に漕ぎ着けてくれることに淡い期待を抱いている。
5月1日付
『ワシントン・ポスト』紙:「IOC、COVID-19蔓延で危惧する声が高まる中、東京大会開催を顕示」
IOCは今週(4月26日の週)、細部まで行き届いた“プレイブック(脚本、手順書)”に基づき、参加するアスリートのみならず市民の安全を確保することを念頭において、東京大会を予定どおり開催する意向を表明した。
IOCスポーツ担当のクリストフ・デユビ理事が記者会見で、東京大会組織委員会は“大変な努力”を重ねた上で、大会を安全かつ首尾よく開催するとの“偉大な決断”をしたと称賛した。
同理事は、同委員会が、COVID-19蔓延下で行われた様々なスポーツ・イベントの開催手順等を踏まえ、専門家の科学的考察に基づく判断を行ったとも付言した。
また、トーマス・バッハ会長も、大会が開催できるというのは、日本の関係者の“不屈の回復力及び精神力”に基づくところが大きいとコメントした。
同会長は、“日本人は長い歴史を通じて根気強さを示しており、今回の大会についても、数々の困難な状況にありながら、開催を可能とする不屈の精神を示している”と言及した。
ただ、同会長のコメントに対して、日本のソーシャルメディア上では、ほとんどの日本人は大会開催を望んでいないという事実が無視されていることや、何故IOCの開催要請に従って無理やり大会を開催しなければならないのかとの不満の声が渦巻いている。
更に、関係者が準備した、細部に行き届いた手順書には致命的な欠陥とみられる点がある。
それは、日本の医師・看護師らから、現在は日本の医療体制がひっ迫していて、無理に大会を開催して感染が拡大した場合、COVID-19の犠牲者が増えるリスクがあると指摘する声が上がっていることである。
すなわち、1万1千人余りの選手団に加えて、数万人のチーム関係者・コーチ、メディア、大会支援スタッフ等が挙って来日するが、これらの人々の間で万一感染が拡大した場合、現在の医療体制では対応できないという。
神戸大学医学部付属病院の感染症専門医の岩田健太郎教授(49歳)は、“多くの医療関係者が、現段階でオリンピックについて考える余裕など全くない”と非難している。
同病院においても、病床不足のため、1,700人の患者が入院待ちを強いられている状況にあるという。
同教授は、“かかる状況下で、いったい誰がオリンピックを楽しめるというのか”と糾弾した。
皮肉にも、大会開会式まで3ヵ月となった4月23日、日本政府はCOVID-19蔓延のために東京都及び数県に対して緊急事態宣言適用を再発出している。
菅義偉首相(72歳)は、記者団からの緊急事態宣言下での大会開催を危ぶむ声に対して、“大会開催の有無はIOCに決定権があり、そしてIOCは開催を決定している”として、大会開催そのものの決断について距離を置こうとしている。
一方、田村憲久厚生労働相(56歳)は4月27日、オリンピック参加者がCOVID-19に感染した場合は大会組織委員会が“独自に病床を確保”する必要があるとして、政府としては、COVID-19患者用の病床を大会参加者のために割く考えはないと明言した。
また、尾見茂COVID-19感染症対策分科会長(71歳)は、これまで政府方針から滅多に逸脱することはなかったが、“今こそ、大会を開催した場合のリスクと医療ひっ迫状況について、真剣に検討する時期だ”と、政府に対応を迫る発言をしている。
これに関わり、大会組織委員会は日本看護協会(1946年設立、会員数約76万人)に対して、オリンピック期間中の17日間、500人の看護師を大会用に派遣するよう要請した。
しかし、この事態を聞き及んだ看護師たちが次々にソーシャルメディアに投稿し、今ケアしている患者を優先する必要があるので、“看護師をオリンピックに派遣することに反対する”としたツイートが数日間で20万件近くに上っている。
大会開催へのかかる逆風下、昨年予定の大会が今夏に延期され、更に1年の忍耐を強いられることになった多くのアスリートは、ワクチン接種、感染検査徹底、及びその他の安全確保の手段を講じることによって、今夏の大会が予定どおり開催されることを切望している。
例えば、米ビーチバレー代表のケリー・ウォルシュ・ジェニングス選手(42歳)は、2004・2008・2012オリンピック3連覇の後一旦引退したが、東京大会に6度目の参加を目指していて、“(COVID-19感染対策で)多くの観戦者が望めなくとも、オリンピックは世界をひとつにする特別な場所であるので、是非とも開催して欲しい”とコメントしている。
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