中国とインドが国境を接するヒマラヤ地域では、1962年の中印紛争勃発以来、長い間にらみ合いが続いている。そして2020年5月の軍事衝突で両軍に犠牲者が出たことから、以降も一触即発の事態で推移し、昨年12月にも“殴り合い”の衝突が起きたばかりである。そうした中、この程明らかになったインド側警察部隊の調査報告によると、中国軍が国境付近の軍事施設を増強し始めていることから、近いうちに軍事衝突に発展する恐れがあるという。
1月27日付
『ロイター通信』は、「インド、ヒマラヤ地域で中国軍との軍事衝突発生を懸念する報告書」と題して、ヒマラヤ地域のインド警察署が、中国人民解放軍(PLA)が同地域の軍事施設を増強しており、インドに対して実力行使に出てくる恐れが高まっているとの調査報告書をインド中央政府に提出していると報じた。
ヒマラヤ地域のインド・ラダック警察署はこの程、PLAが同地域における軍事施設を増強していることから、インド側に実力行使に出てくる恐れがあるとの調査報告書を発信した。
中印間では、2020年にヒマラヤ山脈西部で軍事衝突が発生し、双方に少なくとも24人の死者を出している。
昨年12月にも再び衝突が起こったが、このときは怪我人だけで死者はいなかった。
かかる状況下、当該地元警察署が極秘に調べた報告書が、1月20~22日に現地で開かれた警察幹部会議に提出され、『ロイター通信』が同報告書を入手した。
それによると、国境付近の地元警察が収集した情報を分析し、かつ、直近になって中印国境付近において緊張が高まっていることを鑑みると、具体的な軍事衝突に発展する恐れが見込まれるという。
これに関し、インド軍、国防省、外務省とも取材に応じていないが、当該調査報告書の重要性から、ナレンドラ・モディ首相(72歳、2014年就任)が出席した幹部会議に提出されている。
また、中国外交部(省に相当)も一切発表はない。
同報告書では“中国国内の強制に伴ってか、またヒマラヤ地域への経済的利益の拡大野心もあってか、PLAが同地域での軍事施設増強を続けており、その影響もあってインド側との小競り合いが頻繁に起こりつつある”とし、“従って、これまで発生した小競り合いのパターンを分析すると、2013・2014年以来、2、3年ごとに発生している軍事衝突発生の懸念がより高まっているとみる”と言及されている。
同報告書は更に、中印国境付近の緩衝地帯における中国側の押し込み圧力が増してきており、特にラダック地方(ヒマラヤ地域西部で中国が実効支配するアクサイチン南部)ではインド側領域が狭められつつある、と警告している。
なお、中印両国は3,500キロメートル(2,100マイル)も国境を接しているが、1950年代から対立が激化し、1960年の中印国境紛争(注後記)が発生している。
(注)中印国境紛争:1960年10~11月に発生した軍事衝突で、ヒマラヤ西部アクサイチン及び東北部(現在のインド・アルナーチャル=プラデーシュ州)が主戦場。両軍合わせて戦死者4千人弱、負傷者3千人弱が出たが、インド側損失が大半で、結果は中国軍の勝利となり、中国はアクサイチンを併合。
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1月26日は「オーストラリア・デイ」と呼ぶ独立記念日である。しかし、先住民や擁護団体は、1778年に英国艦隊がオーストラリア大陸を植民地とするために入境してきた“侵略の日”だとして、全国で抗議活動を展開している。
1月26日付
『ロイター通信』は、「数千人が、オーストラリア・デイは“侵略の日”だと叫んでデモ行進」と題して、先住民や彼らを擁護する団体が、英国からの独立記念日ではなく英国による“侵略の日”だと抗議して、全国でデモ行進を行ったと報じている。
1月26日は「オーストラリア・デイ」と呼ばれる、英国からの独立記念日である。
しかし、先住民のアボリジニや彼らの権利擁護の活動をしている団体が、英国艦隊が植民地化のためにシドニー湾に“侵略してきた日”だと抗議して、全国で数千人がデモ行進を行った。
ニューサウスウェールズ州都のあるシドニー市街では、デモ隊がアボリジニの旗を掲げて練り歩いたり、先住民の慣習である煙を焚く儀式を執り行った。
他の都市でも、同様の抗議活動が行われていて、豪州『ABCニュース』報道によると、南オーストラリア州アデレードでは約2千人が参加したという。
首都キャンベラでは、アンソニー・アルバニージー首相(59歳、2022年就任)が先住民の人たちを尊重している、と演説していたが、その先住民は遥か6万5千年も前から豪州の地に移り住んできていた。
同首相は、“世界で最古の文化を継承してきた先住民とともに、豪州の独特な特性として認識していこう”と訴えた。
ただ、同首相は、「オーストラリア・デイ」は先住民にとって“苦難の日”と理解するも、この祝日を変更する考えはないとしている。
豪州市場調査会社ロイ・モーガン(1941年設立、メルボルン本拠)の世論調査によると、約3分の2が“オーストラリア・デイ”のままで良いとしていて、“侵略の日”とすべきだと回答したのは3分の1で、この結果は1年前と同じ比率だという。
この日の扱いについて多くの議論がされる中、例えば豪州最大の半官半民の通信会社テルストラ(1975年設立、本社メルボルン)は今年、従業員に1月26日を祝日とせずに出勤し、代替休日を取得することを容認した。
同社のビッキー・ブレイディ最高経営責任者(CEO)はSNS上で、“(235年前の)オーストラリア・デイ以降、多くの先住民が生命・文化等を蔑ろにされてきており、祝日と捉えるかどうか含めて一考する時期に来ている”と語り、彼女自身も出社している。
総人口2,500万人の豪州には、88万人の先住民が暮らしているが、経済的にも社会指標上でも劣っており、政府は“格差が定着”してしまっていることを理解している。
ただ、昨年半ばに返り咲いた中道左派の労働党政権は、先住民のことをしっかり認識し、また、彼らの生活に影響を与えるような決定を行う場合に事前に相談する等について、憲法上でも明文化するかどうか国民投票を行う考えを持っている。
同政府は、年内に国民投票を実施できるよう、3月に必要な法整備を行う意向である。
同日付『ザ・ガーディアン』紙は、「植民地問題に関わる討論が沸騰する中、数千人が豪州の独立記念日に侵略の日と叫んでデモ行進」として詳報している。
豪州の祝日当日、植民地化された当国の歴史について政治的にも社会的にも考察すべきだとの声が上がる中、豪州全土で数万人が抗議のデモ行進を行った。
メルボルン大学(1853年設立の公立大)のマルシア・ラントン教授(71歳、人類学・地理学専問、アボリジニ出身)は1月26日、オーストラリア・デイは植民地化を祝う日であってはならず、“いい加減に嘘をつくのは止め、豪州の過去の悲惨な歴史を見直すべきだ”と訴えた。
1月26については19世紀以降認識されてきていたが、オーストラリア・デイと呼ぶ祝日となったのは1994年になってからである。
しかし、それ以降、豪州の先住民が過去から現在に至るまで如何に虐げられてきたか、との問題提起が日増しに強くなってきている。
そこで、かつては花火を上げ、祭りで賑わう日であったが、今年のオーストラリア・デイ当日には、先住民や彼らを擁護する団体が、“侵略の日”、“生存の日”、“統治された日”等と叫んでデモ行進を行っている。
近年では、“オーストラリア・デイの期日変更”運動が盛んになっていて、シドニーでは、アボリジニ出身のリンダ=ジュン・コウ氏が、数千人の群集を前にして、白人の豪州人のための日ではなく、“235年前(1788年)から、彼らは私たちの文化や慣習を消し去ろうとしてきたが、私たちは今もこの地に留まっていて、どこへも行っていない”と訴えた。
アルバニージー首相は1月26日、現政権としてオーストラリア・デイの期日変更を提案する考えはないと表明したが、「ガーディアン紙重要世論調査」によると、期日変更を支持する豪州人は、2019年に15%だったが、2022年には20%、そして今年は26%と漸増してきている。
そこで、活動家らは、期日変更の必要性が益々高まってきていると主張している。
しかし、オーストラリア・デイを尊重するグループ、例えば保守党のピーター・ダットン自由党党首(52歳、2022年就任)は、先住民と英国人の文化・歴史が融合した特異性を有する豪州を祝うオーストラリア・デイは必要不可欠であり、“我々の国民性を誇りに思うべきで、ひとつの歴史を壊して別の歴史を作りあげる必要はない”と強調している。
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