新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行に関し、日本やアジア諸国では欧米諸国に比し、深刻度は遥かに軽微である。強制的な都市封鎖措置等を講じていないのに、何故なのかと欧米諸国から不思議がられているが、ひとつ利点を挙げれば、マスク着用が慣習化されていて、感染防止に役立っているとみられる。マスク着用を頑なに拒んできたドナルド・トランプ大統領も観念して、他人との距離が近ければマスクを着用すると表明した。しかし、日本人にマスク着用習慣が根付いたのは、約100年前のスペイン風邪(注後記)大流行時に米国が採用したのに倣ったものだと米大学歴史研究家が解説している。
7月1日付
『星条旗新聞』(1861年創刊、米軍中心のニュース)(
『フィラデルフィア・インクワイアラー』(1829年創刊のフィラデルフィア地域朝刊紙)配信):「日本はマスク着用でCOVID-19を撃退したが、米国に倣った慣習ゆえ米国人もできるはず」
COVID-19感染流行問題は、米国中を震撼させている。
そこで、ひとつ有効な対応策と思われることがある。それはマスク着用である。
ドナルド・トランプ大統領がマスク着用の民主党議員らをあざけったことから、不幸にも政治問題化されてしまった。
しかし、COVID-19感染を抑えられた民主主義の国・地域に、日本、韓国、台湾、香港、シンガポールが挙げられるが、そこに共通しているのがマスク着用習慣である。
日本の例を述べてみると、米国政府と同様、初期対応含めて、安倍晋三政権によって取られた対策の評価は芳しくないが(アベノマスク各戸配布というお粗末な政策や、窮状下の個人・企業の資金援助の大幅遅延等々)、現状COVID-19による死者は1億2,600万人の総人口に対して1千人未満となっている。
人口比率でみると、米国が100万人当たり385人(総数12万7,425人)に対して、日本は僅か7.68人(同976人)という少なさである。
そこで、米国と何が違っていたかと言えば、マスク着用が習慣化していて、街中至る所で市民のほとんどがマスクを着用している姿が認められていることである。
もちろん、他にも文化の違いがあり、握手やハグ、キスの習慣がないこと、また、比較的穏やかに会話するという習慣が挙げられるが、ペンシルベニア大(1740年設立の私立大学)日本研究専門のリンダ・チャンス准教授は、“日本人には他人を思いやる強い行動指針がある”とした上で、“(感染防止のために)政府がマスク着用を推奨すれば、誰もが従う”とコメントしている。
更に、同准教授は、その最たる例が、天皇皇后両陛下も公式の場でマスクを着用しているとする。
また、テンプル大学日本キャンパス(1982年設立)アジア研究学科のジェフリー・キングストン教授は、“日本人には以前から、スギ等の花粉症やインフルエンザの対応策としてマスク着用の習慣が根付いている”とする。
ただ、マスク着用の習慣について歴史を紐解くと、それは粉塵防止の欧米の習慣に端を発するという。
ハーバード大(1636年設立のマサチューセッツ州私立大学)歴史学部のアンドルー・ゴードン教授によれば、“マスク着用は、1800年代に米国や欧州の石炭鉱山で炭鉱夫による防塵対策から始まっている”とし、“20世紀になってから、感染症対策でアジアにも広まった”という。
特に、第一次世界大戦後に大流行した“スペイン風邪”を契機に、後述する米国の事例に倣い、日本においてマスク着用が広められ、当時同国植民地だった韓国、台湾でも習慣化したという。
ただ、ゴードン教授によれば、“米国においても、スペイン風邪によって兵隊が多く犠牲になったため、これを阻止するための戦略としてマスク着用が強く求められた”という。
キングストン教授によれば、“第一次大戦での戦死者より、スペイン風邪で犠牲になった兵員数の方が多かったというショッキングな事態より、米国でもマスク着用が強く推奨された”という。
しかし、ゴードン教授は、“その後数十年の間に習慣が変化し、東アジアでは予防のためのマスク着用の習慣が続いたが、米国ではやがてその習慣がなくなってしまった”とし、“特に、トランプ政権になってからマスク不着用が顕著となって表れた”と言及している。
何故なら、COVID-19対策チーム責任者のマイク・ペンス副大統領は滅多にマスクを着用していなかったし(今週になって漸く、他人との距離が保てない場合、マスク着用を推奨すると言い始めているが)、トランプ大統領に至っては、大統領選の宿敵であるジョー・バイデン元副大統領のマスク着用の姿勢を揶揄する程であった。
そこで、ホワイトハウスとしても、全米にマスク着用を訴えるのは放棄して、地方自治体高官などに投げてしまっているが、当然彼らには強い強制力はなく、大きな変化がなく現在に至っている。
しかし、ここへ来て潮目が変わったのか、共和党の州知事までも、市民にマスク着用を推奨するようになり、更に、ピュー研究センター(2004年設立の世論調査に特化したシンクタンク)の6月半ばの世論調査の結果、回答者の70%が、他者との距離が保てない公共の場所ではマスクを着用するとしている。
また、『Foxニュース』の6月半ばの調査でも、回答者の80%がマスク着用を肯定的に捉えている。
従って、1世紀ちょっと経ってしまったが、米国にマスク着用の習慣が再開するものとみられる。
(注)スペイン風邪:1918年~1920年に世界各国で極めて多くの死者を出したインフルエンザによるパンデミック(世界流行)の俗称。第一次世界大戦時に中立国であったため情報統制がされていなかったスペインでの流行が大きく報じられたことに由来(スペインが発生源という訳ではない)。世界中で5億人が感染したとされ、これは当時の世界人口の4分の1程度に相当する。死者数は1,700万人から5000万人との推計が多く、1億人に達した可能性も指摘されるなど人類史上最悪の感染症の1つである。
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