カナダでは、ここ数年、新型コロナウィルス対策でのロックダウンやワクチン強制への不満などから、政府に向けられる怒りや不満が高まっていると見られている。遊説先や街頭で、議員が脅迫やハラスメントを受けることも増えており、政府は議員に「非常ボタン」を持たせることを発表している。
6月21日付カナダ
『CBCニュース』:「脅迫、身の危険を感じる議員に非常ボタン」:
政府は国会議員に緊急通報ボタンを携帯させると発表。ボタンは、「携帯型脅迫警報」とも呼ばれ、議会保護サービス(PPS)や地域警察に緊急通報が入る仕組みとなる。
今週メンディーノ公安大臣は、今年に入り議員への脅迫件数が多くなっているのを受け、PPSと警察が国会議員のセキュリティ調査を行うと発表。同大臣もSNS上で殺害脅迫を複数回受けたという。
自由党のクリス・ビトル議員も20回ほど脅迫を受け、うち何件かは有罪判決に至っているというが、この非常ボタンを自身が持つかは公表していない。新民主党 (NDP) ジャグミート・シン議員は、先月、遊説先でデモ参加者からハラスメントを受けた。証拠によると暴徒は「裏切り者」とさけび脅迫してきたという。議員の中には、家族やペットへの懸念を持つ議員もいるという。
ここ数年で状況が様変わりし、ワクチン制度やロックダウン制限に不満や怒りを抱えた人々が多くいるため、議員の間でも不安が増しているという。
今月、最高裁司法長官は、裁判所が占拠された「フリーダム・コンボイ」を念頭に、治安強化の必要性を示している。カナダでは2月、コロナワクチン接種義務化に抗議するトラック運転手らが「自由の車列(フリーダム・コンボイ)」という抗議デモを行った。
保守派ベン・ロブ議員は、「ここ数年政治レトリックがより過激になった。ソーシャルメディアのせいか、人々のメンタルヘルスなのか、人々は落ち着きを取り戻さねばならない」と警告する。
国会の治安を統括するマクドナル警備局長は22日の議員委員会の場で、デモにおけるオタワ市警の警備怠慢を指摘した。同日、トルドー首相も、政府は暴力的脅威の高まりへの対策を強化すると発表、「残念ながら、政府に向けられる怒りや不満が高まっている」としている。
同付英『BBC』:「脅迫増加でカナダの議員に非常ボタン」:
カナダの国会議員に、緊急の際、警察に通報される非常ボタンが与 えられる。これはハラスメントや脅迫行為がエスカレートしているためだという。
自身も脅迫をうけたメンディーノ公安大臣は、「ネット上の非常にネガティブで狂信的なレトリックを大変懸念している」としている。カナダでは、昨年国会議員が街頭で脅迫を受けたり、トルドー首相は石を投げつけられる事件が起きている。メンディーノ氏も、国会で銃規制法案を提出した後、先月脅迫を受けたという。
この携帯型通報ボタンにより、セキュリティを強化し、更に、議員の自宅用にもカメラや警報装置などの安全対策が行われる。また、議員が暴力行為にあった際にも暴徒の激昂を抑えるための訓練も施されるという。
議員の警備を担当するカナダ王立騎馬警察 (RCMP)が事態を深刻に捉えていないとの批判も議員の間から出ていた。ワクチン強制への反対デモのあと、辛辣な批判が増えたという声も多く聞かれる。今年2月、「フリーダム・コンボイ」と呼ばれるデモにより、数百台のトラックが道路を塞いだ。カナダのメディアは、デモの数日間、トルドー首相と家族は、安全確保のため避難していたと報道した。
自由党のジュディ・スグロ議員は、デモを機に、多くの議員が「非常に不安を感じている」とし、女性は特に不安を感じており、セキュリティの強化が残念ながら重要で、今は難しい社会情勢にあるとする。
2020年、複数の銃器を持った男が、トルドー首相の官邸にトラックで侵入。男はQアノンに関する投稿をしており、首相と話がしたかったというが、逮捕され有罪となった。先月にも同首相は、自由党資金調達集会への参加予定だったが、デモ激化への懸念から、参加を中止を余儀なくされた。
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日本のNHKのような存在であるカナダ放送協会(CBC)は、ワクチン義務化の撤回を求めて抗議活動を行っていた「フリーダムコンボイ」に関して誤情報を広めたことを認め、報道内容を訂正した。一方、カナダ政府は、こうした誤情報を根拠に緊急事態法を決断していたことが判明した。
カナダ日刊紙
『トロント・サン』によると、CBCは当初、ワクチン義務化に反対する大規模な抗議活動は、カナダ政府を不安定にするために、ロシア人が裏で関与しているものだと主張した。1月28日のCBCのテレビ番組で、司会者は、「この抗議行動が大きくなるにつれ、ロシアの陰の立役者が事態を悪化させ続け、外から扇動している可能性も懸念される」と主張していた。しかしその後、ロシア人がフリーダムコンボイの背後にいるという主張は根拠のないものであったことが確認され、CBCはテレビでの報道内容を訂正した。また、トルドー政権とCBCが指摘していた白人至上主義者による陰謀も、特別調査委員によって関与はなかったことが確認された。
そして今回新たにCBCは、抗議活動がクラウドファンディングで1000万ドル(約9億円)近くを短期間で集められたのは、国外からの強力な資金提供者がいるからだという記事の内容も間違っていたことを認めた。
カナダのニュースサイト『ウエスタン・スタンダード・オンライン』によると、CBCニュースは当時、フリーダムコンボイへの寄付を独自に分析し、外国人からの疑わしい寄付を見つけたと主張していた。ニュースはさらに、特定した寄付は、「カナダ国外から寄せられた寄付のほんの一部に過ぎないようだ」と2月10日付のウェブサイトの記事で報じていた。
さらに別の記事では、「CBCニュースによるクラウドファンディングの寄付の分析で、少なくとも3分の1は、匿名を選んだ寄付者、または明らかに架空の名前や政治的なコメントを記載した寄付者によって行われたことが明らかになった。」と報じていた。
しかし、クラウドファンディングの幹部は3月3日、下院の公共安全委員会で証言し、外国からの寄付はごく一部であり、ほとんどの寄付は少額で、クレジットカードの記録を調べたところ、テロリスト集団やネオナチ、その他の既知の犯罪者が関与した形跡はないことを報告した。カナダの対テロ資金規制当局の副局長も2月24日下院の財務委員会で、フリーダムコンボイの募金は無害なものだと証言した。「コロナにうんざりし、困っていた世界中の人たちが、デモを見た。彼らはただ大義を支持したかっただけだと思う。」と証言した。
一方、『トロント・サン』は2月17日付の記事で、トルドー首相が緊急事態法を発動し、抗議活動に参加した人々と活動に寄付をした人々の銀行口座を凍結した決断の根拠となるものは、カナダ警察による正式な調査ではなく、公共放送局の報道内容だったと伝えている。カナダ政府が下院に提出した14ページの報告書は、緊急事態法を発動し、銀行口座の凍結に踏み切った根拠として、「カナダ放送協会が最近報じたクラウドファンディングサイトに関する報道で、抗議活動への寄付の大半がカナダ国外の寄付者によって行われたことが明らかになった。」ためだったと報告している。しかし、この報道内容は誤情報であったとしてその後撤回された。
『トロント・サン』は、ここ数十年のカナダ政治で最も重大な決断を下したトルドー首相の判断材料は、後に誤情報であったことが発覚した自由党寄りのメディアであったと批判している。これらの記事は、抗議するトラック運転手に否定的な発言をしていたCBCの記者たちによるものであった。
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