12月1日からニューヨーク市内では、外食チェーンのレストランで一定量以上の塩分
を含むメニューに、塩ふりマークの表示が義務付けられている。ニューヨーカーの健
康に配慮してのことだろうが、これにはもちろん反対の意見も根強い。各メディアは
以下のように報じている。
11月30日付
『ヴォイス・オブ・アメリカ』はニューヨーク市が、アメリカ国内で初め
て外食チェーンレストランでのメニューで、一定量以上の塩分を含むものには塩ふり
(塩入れ)のデザインを模しマたークを付けることを義務付けていると報じている。
そしてこれによりニューヨーク市民の心臓病や心臓発作の減少が見込まれると報じて
いる。今回の表示義務は今年9月にニューヨークの衛生局で全会一致で可決されたも
のであり、アメリカ国内で15店以上のチェーン店を展開するレストランが対象となっ
ている。ただ、これには移動式映画館やスポーツ観戦施設内のスタンドなど一部の施
設には例外措置が設けられているという。この措置はニューヨーク市長であるデブラ
シオ氏の強い後押しにより実現したものであるが、この動きは前任者のブルームバー
グ元市長から引き継がれたものであるという。ブルームバーグ氏は公的スペースでの
喫煙禁止やファストフード会社に対してカロリー表示を義務付けるなど、数々の施策
を行ってきた。
同記事によれば、一日に推奨される塩分の摂取量は2300ミリグラムで、およそティー
スプーン1杯分だという。今回のような表示を義務付けることにより、チポトレ(ア
メリカのメキシカン料理のチェーン店)やサブウェイといったような、一見健康的に
見える店の常連客もメニューに含まれる塩分量に注意を払うようになるだろうとして
いる。両社のメニューは豆や野菜類がたくさん使われている点を売りにしているが、
同記事は両社のブリトーやサンドイッチ、さらにはTGIフライデー社などの特定のメ
ニューを例に挙げてそれらに含まれる塩分が一日の摂取限度量を超えていることを指
摘している。
さらに同記事は循環器系の疾患による死亡者数が2013年には1万7000人と、最近
ニューヨーク市民の死因として目立ってきていることに言及している。そして塩分の
摂取過多は高血圧症や心臓病、心臓発作の大きな要因となりうることにも触れてい
る。
2010年の保険局の調査によると、ニューヨーク市民は平均3200ミリグラム以上の塩分
を摂取しているとのデータがあるという。塩分摂取過多の傾向は特に黒人とヒスパ
ニック系に強くみられるという。ニューヨーク市民が塩分の摂取量を意識することに
より、他の面でも健康を意識する変化が期待されているという。ニューヨーク大学ラ
ンゴーン医療センターで共同理事を務めるワインストラウブ氏は「塩分摂取量を控え
るだけでは健康的にはなれない。今回の表示の義務付けにより、ひょっとしたら
ニューヨーク市民は食事量にも気を遣うようになり、地下鉄を目的地の一駅手前で降
りて歩いたり、エレベーターを使う代わりに階段を一段とびで上がるようになるかも
しれない。そうすれば減量にもつながるだろう」とコメントしたという。
12月1日付
『NYSEポスト』は今回の表示義務を報じた上で、ニューヨーク市の衛生局
長であるバセット氏が今回の表示義務付けが発表された9月の記者会見で発表したコ
メントを掲載している。「より多くの人々に塩分摂取過多が健康に及ぼす影響を知っ
てほしいし、他の州でも同様の措置が講じられることを願っている」。
他方、レストラン協会会長であるフレイシュット氏は今回の措置がレストラン業界に
悪影響を及ぼすだろうとする。「一連のカロリーや塩分の表示を義務付ける法律は、
外食産業のニューヨークでの活動をどんどん難しいものにしている」。また、レスト
ラン関係者らは国レベルでの塩分摂取のガイドラインが存在する以上、さらなる表示
の義務付けは不要であるとの主張もなされているという。
同記事は、アメリカ人は平均的に一日当たりティースプーン一杯半の塩分を摂取して
おり、その多くはレストランや工場ですでに食品に添加されており、消費者が自主的
に摂取しているものではないという。また、一般的にレストランの料理人は家庭料理
より多くの塩分を料理に使う傾向がみられるという。また、前述のアメリカ人の一日
当たりの塩分摂取量が3200ミリグラムという調査でも、対象者の80%以上が摂取過多
であることが明らかになったとしている。
12月1日付
『CSPネット』(コンビニエンスストアや燃料関連の商業紙)によれば、今
回の表示義務には、単体のメニューのみならず、セットメニューが一日の推奨される
食塩摂取限度量を超える場合も含まれ、レストランはその旨を客に告知する必要があ
るという。例えばハンバーガーだけでは摂取限度を超えていなくても、ポテトを加え
ると限度量を超える場合などが挙げられる。
これには、レストラン業界はもとより、食塩製造業者からも「やりすぎ」との声が上
がっているという。前出のレストラン協会からも「このような義務付けは、我々に大
変な負担を課すものである。また、チェーン店といっても、小規模のフランチャイズ
チェーンも存在し、それらの店舗の経済的負担は大きい。法的手段に訴えることも検
討している」とのコメントが寄せられたという。ただ、ニューヨーク州保険局は「今
回のような措置をとらざるを得ない十分な論拠もあり、外食産業への負担よりも市民
の健康を優先すべきと考えている」と述べたという。
ただ、今回の措置に対して全ての外食産業関係者が反対の意を表明しているわけでは
なく、一部のレストランでは早くもホームページなどで表示の改訂を告知する動きも
あるという。また、ニューヨーク州のみならず、全米のチェーン店で塩分量を表示す
る会社もあるという。ニューヨーク市内の外食産業の売り上げのうち、3分の1が今回
の規制が当てはまるチェーン店によるものだという。規制に違反した場合罰金が科さ
れるが、施行から表示まで90日の猶予期間が設けられているという。
アメリカよりも塩分に敏感な日本でも今回のような措置がとられれば、昔から塩分を
取りすぎていると指摘されてきた日本人の健康増進にも一役買うのではないだろう
か。
閉じる