バイデン政権は、昨夏のアフガニスタン駐留の米軍撤収に当たって協力してくれたカタールを中東の友好国として評価し、今年1月には同国首長をホワイトハウスで歓待した。また、欧州諸国にとっても、対ロシア制裁の一環で供給難に陥った天然ガスの代替供給元として頼りにしている。しかしこの程、カタール内機関及び王族に関して、対米報復として米国人ジャーナリスト2人を斬首したイスラム過激派に対する資金援助を行っていたとの疑惑が持ち上がり、米国・カタール間関係に亀裂が生じる可能性がある。
5月14日付
『AP通信』は、「米国の中東の友好国のカタール、テロリスト集団への資金提供疑惑」と題して、イスラム過激派組織ISIL(イラク・レバントのイスラム国、2006年組成)によって斬首された米国人ジャーナリストの遺族が起こした裁判を通じて、カタール内機関や王族がISILに資金提供していた疑惑が明かされたと詳報している。
カタールは中東における米国の友好国であるが、かつてシリアにおいてISILに斬首された米国人ジャーナリストの遺族が起こした裁判を通じて、カタールが当該過激派集団に資金提供をしていた疑惑が明らかにされようとしている。...
全部読む
5月14日付
『AP通信』は、「米国の中東の友好国のカタール、テロリスト集団への資金提供疑惑」と題して、イスラム過激派組織ISIL(イラク・レバントのイスラム国、2006年組成)によって斬首された米国人ジャーナリストの遺族が起こした裁判を通じて、カタール内機関や王族がISILに資金提供していた疑惑が明かされたと詳報している。
カタールは中東における米国の友好国であるが、かつてシリアにおいてISILに斬首された米国人ジャーナリストの遺族が起こした裁判を通じて、カタールが当該過激派集団に資金提供をしていた疑惑が明らかにされようとしている。
2014年8月にISILによって殺害された故スティーブン・ソトロフ氏(享年31)の遺族が、5月13日に米連邦地裁に提訴した訴状によると、著名なカタール内機関が、対米報復措置としてソトロフ氏ともうひとりの米国人ジャーナリストの故ジェームズ・フォーリー氏(享年40)を斬首刑にするとの“イスラム法に則った判決”を下したISILの裁判官に対して、80万ドル(約1億400万円)の資金を提供したとされている。
訴状の中でソトロフ氏の遺族は、“今後二度と、私たちと同じように苦しむ人が出ないよう、できることは何でもしたい”と述べている。
また、『AP通信』が入手した書類及び匿名希望の関係者2人から聴取したところによると、上記裁判と並行して、連邦検察官が、カタールの現首長の異母弟のハリド・ビン・ハマド・アル=サーニー(35歳)とテロリストグループとの関係を捜査しているという。
すなわち、同王族が国際テロ組織アル・カイーダ系のシリア拠点のアル=ヌスラ戦線(2012年、シリア内戦ぼっ発の翌年に設立された反体制派勢力)に資金提供をしたかどうかに焦点を絞って調査しているとする。
カタールは、昨夏のアフガニスタン駐留米軍の撤退時の支援等もあって、バイデン政権からの信頼が厚く、また、ウクライナ軍事侵攻に伴う対ロシア制裁の一環でロシア産天然ガスの引き取り拒否を行っている欧州諸国にとっても、代替供給元として頼りになる国と評価されている。
更に、バイデン政権が取り組もうとしているイラン核合意復活交渉に際しても、カタールの役割は重要になってくる。
かかる背景もあって、ジョー・バイデン大統領(79歳)は今年1月、カタールを北大西洋条約機構(NATO、1949年設立)外の中の主要同盟国だと認めた上で、5億ドル(約650億円)相当のMQ-9リーパー無人攻撃機を数十機供給することを承認し、更に、タミーム・ビン・ハマド・アル=サーニー首長(41歳、2013年就任、世界の君主の中で最年少)をホワイトハウスで歓待している。
また、カタールには中東最大の米空軍基地がある。
しかし、カタールは、シリアのバッシャール・アル=アサド大統領(56歳、2000年就任)に歯向かう反乱軍を強く支援していて、米高官もこれまでしばしば、シリアの過激派グループへの資金提供をしていることや、ムスリム同胞団(MB、1928年にエジプトで立ち上げられたスンニ派武装組織)及びハマース(1987年設立のMBパレスチナ支部)を直接・間接的に支援しているとしてカタールを非難してきている。
なお、米国の裁判所は外国政府や高官を相手方とした訴訟を受け付けないため、ソトロフ氏の遺族は、反テロリズム法(2020年制定、テロ被害者・犠牲者に対して、他国政府に関係する企業・団体への損害賠償請求を認める法律)に則って、カタール慈善団体(1992年設立のNGO)及びカタール国立銀行(1964年設立)を相手取って損害賠償請求の裁判を起こしたものである。
訴状によると、両者とも、“対米報復措置としての斬首刑の判決”を下したイスラム法裁判官ファデル・アル=サリムに対して80万ドルの資金供与に関わった、とされている。
閉じる