仏メディアが見る英国離脱:ハード・ブレグジット(2016/10/05)
英国の欧州連合(以下、EU)離脱が確実となった国民投票以来、EUの単一市場と完全に決別する「ハード・ブレグジット(完全強硬な離脱/hard Brexit)」か、「英国とEU相互の譲歩で何らかの繋がりを残す「ソフトブレグジット(穏健な離脱/soft Brexit)」か、様々な議論や憶測を呼んだ。欧州理事会トゥスク理事長のように「離脱協議開始を明確にした」と歓迎する声もあるが、ポンドも急落が示す通り、フランスメディアは、英国離脱が「ハード・ブレグジット」になると断定した。次の通り報じる。
『ルモンド紙』によると、メイ首相は「交渉は極めて複雑になる」が、「残り27か国のEU加盟国と円滑な共同準備作業」と「ソフトな移行」を望むが、2017年3月までにリスボン条約第50条(*1)発動に言及した。「メイ首相には交渉の余地が殆どないと欧州は知っている。移民制限の場合、英国は欧州市場へ参入できない」上に、「交渉に強いと知られる英国相手に、欧州は多くを失う」と、「ルモンド紙」はかなりの「ハード・ブレグジット」を予測する。...
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『ルモンド紙』によると、メイ首相は「交渉は極めて複雑になる」が、「残り27か国のEU加盟国と円滑な共同準備作業」と「ソフトな移行」を望むが、2017年3月までにリスボン条約第50条(*1)発動に言及した。「メイ首相には交渉の余地が殆どないと欧州は知っている。移民制限の場合、英国は欧州市場へ参入できない」上に、「交渉に強いと知られる英国相手に、欧州は多くを失う」と、「ルモンド紙」はかなりの「ハード・ブレグジット」を予測する。「英国に対してEUが譲歩しすぎたり50条の手続き開始前に協議開始がないように」と欧州理事会と欧州委員会の指示書に既に明記されている。現段階では今後の英国とEUの関係は「自由貿易協定のカナダ型」が最有力視されている。
またメイ英首相は「単一の国家として離脱する」、「いかなる例外も認めない」事を強調し、EU残留を望むスコットランド独立派をけん制した。今後の動きとしては「2017年春の議会でのエリザベス女王演説時に、1972年に制定された欧州共同体法を廃止するために新たな法律案を提示する」ようだ。
『レゼコー紙』は「“ハード・ブレグジット”の見通しがポンドを急落させた」と報じ、市場は強く懸念する事を伝える。市場が最も恐れるのは「欧州からの移民規制にメイ首相が断固とした姿勢を取っている」ためとの見方を示す。市場が恐れるのは、「EU基本原則の一つである移動の自由を英国が放棄する代償として、残り27加盟国から不利な貿易協定を提示される」事である。交渉に強い英国といえども、英国企業や市場は先行きの不透明感に強い懸念を示す様子が浮き彫りになる。英政府もその事を認識しており、ハモンド英財務大臣は「英国企業が不確実性や不透明感に少なくとも2年間は直面する」との見方をしめし、例外的に緊縮財政を緩和する事を発表した。「来年の英国の成長はかなり停滞する」と味方を示し、「来年の英国のGDP成長率は0.7%」との分析を採用する。
『フィガロ紙』も「EUとの決別を示唆したバーミンガムの保守党大会での演説の後、ポンドは急落して3年ぶりの最安値を付けた」と報じ、「“ハード・ブレグジット”の仮説が市場に乱気流を起こした」として、しばらく「ジェットコースターのような状態」が市場で続くとの見通しを示す。
(1*)リスボン条約第50条:いかなる加盟国もEU脱退を決定できる。欧州理事会に通知し、EUとの交渉を経てEUと離脱に関する協定を締結。2年で協定を締結できず、欧州理事会が交渉延長を認めなければ、EU法の適用が停止される。
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仏メディアがみるシリア停戦の狙い(2016/09/15)
米国とロシアが合意にこぎつけて2度目の暫定的停戦が月曜日に発効した。実質的な効力への疑問の声が多いが、停戦を主導したケリー米国務長官は「停戦の結論(成功か失敗か)の結論を出すには時期尚早」と発言した。フランスメディアは停戦の具体的な狙いを報じる。
『ルモンド紙』は停戦から数日たって、政府軍と反政府武装勢力による小規模の違反や小競り合いは頻発するものの、今のところ48時間ごとに更新される停戦継続は可能との見方を示す。またイスラミック・ステート(IS)とジャブハト・ファタハ・アルシャム(アルカイダ系の前ヌスラ戦線)が停戦対象から除外された事と、ケリー長官が待つ「停戦の結論」との関連をほのめかす。
この背景を「米ロ停戦での反アサド反乱軍のジレンマ」と題して
『フィガロ紙』は詳しく報じる。...
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『ルモンド紙』は停戦から数日たって、政府軍と反政府武装勢力による小規模の違反や小競り合いは頻発するものの、今のところ48時間ごとに更新される停戦継続は可能との見方を示す。またイスラミック・ステート(IS)とジャブハト・ファタハ・アルシャム(アルカイダ系の前ヌスラ戦線)が停戦対象から除外された事と、ケリー長官が待つ「停戦の結論」との関連をほのめかす。
この背景を「米ロ停戦での反アサド反乱軍のジレンマ」と題して
『フィガロ紙』は詳しく報じる。「フィガロ紙」によると、今回の合意には明確な狙いがあった。「合意から除外されたイスラミック・ステート(IS)とアルカイダ系の前ヌスラ戦線の二つ」と“その他反政府武装勢力”を明確に区分し、テロ組織と非テロ組織に二分化した。その上で「両者の徹底的な分断」を計る。米国シリア特使ラトニー氏が反政府勢力に送った書簡には「反政府勢力は停戦尊重を確約しなければツケを払う事になる」と書かれており、「停戦尊重を示すため、反政府勢力は停戦期間中に前ヌスラ戦線との同盟から離れる決断をする」可能性が高いとみる。ケリー長官が待つ「結果」の一つであり、1週間の停戦期限は反政府勢力の決心に与えられた1週間でもあると見られる。
また多くの反政府勢力が停戦に合意するも、多くの条件を付けた。「フィガロ紙」はこれを「反政府勢力は理不尽な選択に直面」するためと伝える。ある反政府勢力幹部によると「反政府武装勢力には選択肢がなく」、「“テロ組織”との同盟を手放すか、米露共同攻撃を被るか」を迫られた。「表向きは不信感を表明し、前ヌスラ戦線との分断を拒否しても、反政府勢力が米ロのお膳立てを尊重しない事はない」とレバノンの専門家の指摘を引用する。
さらに「カタールに近い反政府勢力アフラル・アル・シャムの戦闘員は“テロ組織”と協力するが、幹部は正式に停戦に反対しない」事を「典型的」と形容する。「カタール資金提供者の圧力下」にあり、「停戦を支持するカタールが資金力で脅せば重みがある」と報じる。
一方今回の停戦合意では、「反政府勢力側の政治的要求は保証されず、肝心のアサド退陣は、反政府勢力が“テロ組織”と離れた後で検討される」。「フィガロ紙」は、この点が「停戦への反政府勢力の曖昧な声明の原因」であり、「中・長期的な停戦の効力に懐疑的な理由」として挙げる。今後「停戦に合意した反政府勢力から「テロ組織」の共同戦線に再度合流する過激派が出る」との見通しを示す。
また、今回の合意は「ロ特に米国防相の一部が嫌がるのをロシアが無理やり引き出した合意」で、協力関係がいつまで続くか不明である事にも触れる。特に「テロ組織」に対する米露協力は「反政府勢力が戸惑う前代未聞の共同行為」で、「各武装勢力は失敗の責任を取らされる事を恐れている」と「フィガロ紙」は報じる。
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