国連人口基金(UNFPA、1967年設立)の2022年版世界人口白書によると、最多の中国が14億4,850万人、2位のインドは14億660万人であった。同組織の2023年予測によると、2ヵ月以内にインドが中国を抜いて世界最多となると見込まれているが、肝心のインドの国勢調査は向こう1年余り実施できない見込みのため、正確な数値は把握できない状況である。
2月15日付
『ロイター通信』は、「インド、間もなく人口世界最多となる見込みも正確な数値は不詳」と題して、インド国内法で国勢調査を担うとされる教員が当分多忙のため、正確な総人口は向こう1年余り分からないままとなるとみられると報じている。
インドの総人口は14億人を上回っていて、今後2ヵ月ほどで中国を抜いて世界最多となると推計されている。
UNFPA推計によると、4月14日時点のインドの総人口は14億2,577万5,850人に達し、中国を上回ることになるという。
インドで国勢調査が行われたのは2011年で、そのときが12億1千万人であったから、僅か12年で2億1千万人と、ブラジル一国分の人口が増えた計算となる。
しかし、国勢調査が少なくとも向こう1年実施できないことから、正確な数値は把握できないと見込まれている。
インドの国勢調査は10年に一度実施されているが、本来2021年に予定されていた調査はコロナ禍のために延期され、現在は技術的かつ人海戦術上の問題からいつ実施できるか見通せない状況に陥っている。
専門家は、国勢調査によって雇用状況・住宅事情・識字レベル・移住状況・乳児死亡率等が把握されることになるが、このデータが速やかに収集できないと今後の社会福祉・経済政策等の立案に支障を来すことになると批判している。
インド財務省傘下の財政政策研究所ラクナ・シャーマ研究員は、国勢調査データは“不可欠”で、これなかりせば消費支出状況や労働事情等が全く予測できなくなってしまうと述べている。
同研究員は、“直近のデータがなければ、様々な施策に必要な数値が十数年前のデータに依拠せざるを得ず、これに基づく推計は現状と大きな乖離がある”と言及した。
インド統計・事業実施省の高官は、2011年に実施された国勢調査データを用いて政府支出額を推計しているとコメントしている。
また、内務省及び戸籍・国勢調査局の高官は各々、政府として国勢調査プロセスを微調整し、かつ、IT技術を用いて完璧なものとすると決定したため、調査実施が遅延していると弁明した。
内務省の高官は更に、国民識別番号制度「アーダール(12桁の数値、指紋・虹彩・顔写真等入力のID)」カードや携帯電話アプリ等を駆使してデータ把握に努めているとするが、作業に時間がかかると漏らしている。
これに対して、最大野党やナレンドラ・モディ首相(72歳、2014年就任)批判派は、2024年予定の総選挙を前に、失業率等都合の悪い数値を隠すために政府が国勢調査実施を遅らせていると非難している。
野党議会広報担当のパワン・ケーラ下院議員(54歳)は、“今の政府は、雇用状況やコロナ死者数等重要なデータを積極的に覆い隠してきている”と批判した。
しかし、与党・インド人民党(1980年設立)議会広報担当のゴーパル・クリシュナ・アガルワル下院議員(60歳)は、“現野党が65年も政権を牛耳っていた時代に比べて、現与党の9年間の施政がどの点で劣っているというのか、主張の根拠が全く不明だ”として当該批判を一蹴している。
インドの国勢調査は、約33万人の国公立学校の教員による戸別訪問で行われており、当初の2021年実施計画では、16種の異なる言語の質問票を作成し、2段階にわたり11ヵ月以上をかけてデータ収集を行うことになっていた。
2019年に立案された実施予算案では、総額875億ルピー(10億500万ドル、約1,407億円)が計上されていた。
しかし、実施要員である教員は、コロナ禍後の学校再開に加えて、全国及び地方選挙にも駆り出されることになっていて、2023年に9州での地方選、2024年には総選挙が予定されていることから、国勢調査に関わる余裕が全くない状況である。
更に、同調査に関し、十分な報酬が補償されていないことも問題となっている。
全インド教員連盟(1954年設立、会員約230万人)のアービンド・ミシュラ上級職員は、国内法によって選挙及び国勢調査を実施する義務があることは承知しているが、“世界最多の総人口を抱えるインド全土での国勢調査を実施する上で、報酬補償システムの確立は必須である”と強調している。
一方、インド固有識別番号庁(UIDAI、2009年設立)の元高官は、国勢調査データを軽視していて、同庁が管掌している「アーダール」IDカードのデータが“事実上即時の”国勢調査として運用できると主張している。
同元高官は、UIDAIデータによれば、2022年12月31日時点で当該IDカード登録しているのは13億人で、当時の総人口推定値は13億7千万人であり、その差はIDカード未登録の子供やデータが反映されていない死者数であるとする。
これに対して、インド統計庁の元トップで、現在は米ノースカロライナ州立大学のプロナブ・セン統計学教授(85歳)は、出生率や死亡率を駆使するサンプル登録システム(SRS)によって、人口増加率がかなり正確に推定できると主張している。
同教授は、“インド全土にSRSを適用すれば、当該IDカードに基づくデータより正確な人口推計が可能となる”と付言した。
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