国連から独立した委員会が、中央アフリカ共和国で活動を行う軍隊が現地の子どもに対し性的虐待を行っていたことを明らかにした。さらに悪いことに、委員会の報告書は、多くの国連関係者らが数年前からこの事実を知りつつこれを放置してきており、「組織全体の怠慢」であるとしている。問題の概要、国連の怠慢、責任の所在について各メディアは以下のように報じている。
12月17日付
『CBSニュース』は、今回問題となっている報告書が17日に発表されたと報じている。報告書を発表した団体は国連から独立した委員会であり、カナダ人の裁判官であるデシャン氏により組織されたものだという。同報告書によれば、内戦状態にある中央アフリカ共和国で軍事活動を行うフランス人兵士らが現地の子ども達を性的に虐待し、国連はこれを見て見ぬふりをして放置していたという。中央アフリカ共和国は国内でイスラム教徒とキリスト教徒が反目し、内紛は収拾のつかない状態で、数千人の国民が首都バンギの空港内の荒れ果てたキャンプでの避難生活を余儀なくされているという。ここにフランスをはじめ、各国の軍隊が国民の安全を確保すべく入国しているのだという。
被害者として挙げられた9歳の少年は2014年に友人とともに、食料をもらう代わりにフランス人兵士に性的行為を要求され被害に遭ったという。そしてこの事実は各国連機関の間でたらい回しにされ、とりわけユニセフ(国連児童基金)の職員らが上の立場の人間に報告しないなど、適切な対応をしなかったことが指摘されている。その理由として、フランス軍との政治的関係の悪化への懸念があったという。報告書は「被害者の保護や加害者の責任は考慮されていないし、たとえ考慮されていたにしても後回しになっていた」とする。
この事につき国連事務総長である潘基文氏は「子ども達を救う立場にある人間が子ども達を裏切ったことは大変遺憾である」とのコメントを発表し、委員会による指摘を甘んじて受けると語ったという。
子どもへの性的虐待の報告を国連職員が受けてから1年半以上が経つが、現時点で逮捕者は1人もいないという。この件につきフランス当局によれば、先週4人の兵士が尋問を受けたものの、告発されることなく釈放されており、容疑者の氏名は明らかにされていないという。
被害を申し出ている子どもは少なくとも6人で、いずれも飢えのあまり食料欲しさに性的虐待を受けたという。ただ、被害者の正確な数は今のところ明らかになっていないという。
報告書によると、今年4月と5月に今回の被害がマスコミによって報道され、潘基文氏は独自の調査を指示したという。その時になって初めて国連側は、数か月も前に自分たちがすでに把握していた子ども達のケアを始めたのだという。報告書は、子ども達が事件の直後に治療をうけられなかったことに「ぞっとする」とし、事件の直後ユニセフの職員は子ども達を医療サービスを行う非政府組織に紹介したものの、そこでは2時間にわたり子ども達の話を聞いてユニセフに提出する書類を作成しただけだったという。
また、報告書は今回の犯罪被害は他の人物の耳にも入っていたはずだと指摘する。例えば中央アフリカ共和国の国連平和維持使節団長であるゲイ氏は少なくとも2014年の6月1日に報告を受けていたはずだが、何ら行動を起こしていないという。ゲイ氏は今年8月に辞任に追い込まれている。
フランス政府は2014年7月に国連からの報告を受けてから、「迅速かつ断固たる対応」をとったとしているが、同年5月にはすでに国連職員はフランス軍に事実の報告を行っており、フランスの7月と5月の対応の差が激しいと指摘されている。これに関してフランス政府は、対応の遅れは国連の煩雑な報告のためとし、マスコミによる報道がなされるまで事実関係の把握ができなかったと主張しているという。
同記事は、いずれにせよ報告の遅れにより責任追及の機会を逸し、社会の中で最も弱い立場にある子どもが、保護されず、見捨てられる結果となったと指摘する。また、同記事は国連側が、フランスは平和維持軍に他国より遅れて参加しており国連の平和維持軍の一部ではなかったと語ったことに対し、「たとえどんな事情があっても保護を必要とする人間の人権を守るのが国連の使命」とする報告書のコメントを載せている。
12月18日付
『ニューヨークタイムズ』によると、今回の報告書は111頁にわたっており、事件が国連の様々な地位の人間により隠ぺいされ、フランス政府に情報を漏らした職員の責任追及に終始していた点を痛烈に批判している。
同記事によれば、性的虐待の噂は数年前からささやかれていたという。今回のフランス軍兵士による事件が明るみに出た後も、中央アフリカ共和国では国連平和維持軍の兵士が市民に対する性的虐待を行ったとして告発されているという。
そして同記事によれば、これら全ての事件は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)と関わりがあると指摘する。また、同記事は今回の子どもへの事件が起きたのは2013年の12月から2014年の6月のことであり、9歳から15歳の6人の少年が首都バンギで被害を受けたとしている。そして前出のデシャン氏のコメントを引用し、この事件の国連の対応は「官僚主義かつ縦割り主義で、人権侵害の是正という国連の本来の目的を果たしていない」と指摘する。
さらに報告書は前出のゲイ氏のみならず、事件の報告があった当時ゲイ氏の側近であったオナナ氏も責任があると指摘している。オナナ氏は現在も国連平和維持使節内で他の職に就いているが、懲戒処分の可能性については現時点では不明だという。また、今回2014年7月に国連人権団体の職員であるコンパス氏がフランス政府に被害者の氏名を明かしたことが内部規定に違反するとして、報告から数か月以上経過しているにもかかわらず、上司であるフセイン氏により停職処分にされたという。報告書は批判の目をコンパス氏よりもむしろ、フランス政府への報告を処罰したフセイン氏に向けているという。その他にも報告書は、最近まで国連の内部監督機関で事務次長を務めていたラポワント氏や「子どもと武力紛争のための特別代表」の地位に就くゼローギ氏も職務怠慢と批判しているという。ただ、やはり最も重い責任を負うのはユニセフであり、ユニセフの職員の事件への対応は酷いとする。
同記事は、潘基文氏は10年の任期のうち残すところあと1年という今、国連はこの他に2つのスキャンダルに悩まされていると報じている。10月には2013年から2014年にかけて国連総会議長を務めたカリブ諸国のアンティグア島の外交官による数百万ドルにもおよぶ汚職疑惑(後に無罪となる)が起きたり、11月にはリビア紛争の仲裁者が政治紛争に巻き込まれたりしている。ただ、やはり今回の事件が国連の評判をもっとも著しく損なうものだろうとしている。
少年の被害と、その後の国連の対応については報告書の言葉「ぞっとする」以外に形容する言葉が見当たらない。今回の報告が氷山の一角でないことを祈るばかりである。
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