インドでは、1日当たりの新型コロナウィルス(COVID-19)感染者が30万人超となる日が13日連続しており、病床や医療用酸素吸入器の不足で犠牲者も1日当たり3千人超と深刻化している。都市封鎖やワクチン接種開始で、感染が抑え込めていたとみられるのに、再び急激に増えた原因は、感染力の強い変異株ウィルス蔓延もあるかも知れないが、3密の最たる例となった世界最大規模のヒンドゥー教の祭り(クンブ・メーラ、注1後記)開催に因るところが大きいとの声が上がっている。
5月3日付
『リリジョン・ニュース・サービス』(1934年創刊の宗教関連専門紙):「インドでCOVID-19感染激増し、クンブ・メーラ開催許可の当局に非難の声」
インドにおけるCOVID-19感染拡大が深刻化しており、その原因と考えられる、クンブ・メーラ開催を許可した中央及び州政府に対して、非難の声が上がっている。
ただ、クンブ・メーラはヒンドゥー教の聖なる儀式でもあり、ナレンドラ・モディ首相(70歳)の支持基盤であるインド人民党(注2後記)にとって、重要な祭りでもある。
今回、インド北部のハリドワール(ウッタラーカンド州)で開催されたクンブ・メーラは、2010年以来開催された宗教行事である。
本来、2022年開催となるはずだが、カーセッジ大(1847年設立、ウィスコンシン州の文系私立大学)のジェームス・ロクテフェルド宗教学教授(63歳)によると、“クンブ・メーラは、木星の周期に則って開催されるが、実際の公転周期は11.86年なので、約100年に一度ずれることになり、それが今回2021年に開催されることになった”という。
また、ハリドワールの聖職者母体ガンジス院のプラディープ・ジャー代表は、“今年開催されることは、COVID-19事態発生のはるか以前に決まっていた”とした上で、“公転に合わせた開催時期を勝手に動かせるものではなく、むしろ、COVID-19が解消するまで、この宗教行事を全うする必要がある”と強調している。
ただ通常、同行事は年初から4ヵ月続くが、COVID-19感染流行より、当局が当該行事開始を4月1日からの1ヵ月間と短縮を決めている。
それでも、1月以降のべ900万人余りが集まってきているとみられ、正規に開催された4月以降600万人が参加したと言われている。
そこで、エマーソン大(1880年設立、マサチューセッツ州私立大学)人類学・宗教・多国間研究専門のテュラシ・スリニバス教授は、“クンブ・メーラが、沐浴、食物の共有、長期間の共同生活を伴うものなので、感染拡大を引き起こすことが必至であり、当局は同行事への参加を禁ずるべきであった”と批判している。
ウッタラーカンド州のトリベンドラ・シン・ラワット首相は、クンブ・メーラの規模縮小を要望していたが、同行事運営母体のナレンドラ・ギリ代表が、州政府の支援などなくとも、クンブ・メーラは本格的に開催すると宣言したことから、同首相は3月9日に辞任に追い込まれている。
そして、後任のディーパック・ラワット首相が、“クンブ・メーラは、オリンピックなどと違い、占星術に基づいて開催される重要な行事”だとした上で、3月14日に“クンブ・メーラを厳粛に行う”との声明を発表した。
すなわち、期間短縮するものの、4月1日から30日の同宗教行事催行の間、参加の信者に“不都合となること”はさせないし、ガンジス川での沐浴も“禁じない”と約束した。
ただ、政府は同時に、COVID-19感染防止対策として、事前の検疫、体温測定の実施とともに医療サービスの提供も準備した。
しかし、4月1日以降、クンブ・メーラが実施された同州のCOVID-19新規感染者は急増を続けた。
同行事開催の可否について問題視されたラワット新首相は、防疫基準に則って行事が行われ、かつ、COVID-19陰性者のみしか参加できないようにしたとして問題はなかったと強調した。
ところが、同行事の風景写真を見る限り、数千人がマスク不着用でガンジス川に入っており、しかも、ソーシャルディスタンシングも全く確保されていない。
なお、スリニバス教授によると、“クンブ・メーラの歴史を紐解くと、過去1783年、1895年、1906年に開催された際にコレラ等の深刻な疫病が爆発的に流行している”とし、“インドを統治(1858~1947年)していた英国は、疫病蔓延とクンブ・メーラの関りをよく理解していて、ハリドワールのガンジス川流域では、沐浴の場所を広げ、混雑を緩和した上で同行事の日程を細かく把握して実施させていた”という。
(注1)クンブ・メーラ:ヒンドゥー教徒が集まり聖なる川で沐浴を行う大規模なヒンドゥー教の宗教行事、巡礼。これは世界最大の平和的な集会と考えられており、2013年にイラーハーバードで開催されたマハー・クンブ・メーラでは期間中に一億人の人出。クンブ・メーラは3年ごとにハリドワール、イラーハーバード、ナシク、ウッジャイン の4か所を持ち回る形で開催される。従って、それぞれの場所では12年ごとの開催。
(注2)インド人民党:1980年設立のヒンドゥー至上主義政党。党員数が1億1千万人超で、中国共産党を上回り世界最大。
閉じる