既報どおり、ジョー・バイデン大統領(78歳)は、アジア政策においてはもっぱら、中国の軍事力及び経済力の台頭を阻止することに注力すると明言している。一方、欧州においても、傍若無人のロシアに対しても睨みを効かせるべく、北大西洋条約機構(NATO、注1後記)加盟国のノルウェーに大型爆撃機を派遣して、軍事訓練の任に当たらせている。
2月22日付米
『Foxニュース』:「米空軍B-1爆撃機、ロシアに睨みを効かせるためノルウェーに派遣」
米空軍は2月22日、“長期訓練”を目的として派遣されたB-1爆撃機(注2後記)が同日にノルウェーに到着したと発表した。
在欧米空軍(1944年創設)司令官のジェフ・ハリジアン大将(58歳)は、“ノルウェーなどの同盟国と共同訓練を実施することで、抑止力や防衛力を強化し、かつ地域の安定を高めることが可能となる”との声明を発表した。
同機は所属するダイエス空軍基地(テキサス州)を飛び立ち、ノルウェー中部のオーランド空軍基地に到着した。
軍事専門家のジェリー・ヘンドリックス氏(54歳、元海軍大佐)によれば、同爆撃機の派遣はロシアに対する明確なメッセージとなるとする。
同氏は『フォーブス』誌(1917年創刊)のインタビューに答えて、“今回のミッションによって、同盟関係が強化されるだけでなく、ロシア側も明確に理解できる圧力となろう”と言及した。
また、同誌の航空宇宙・国防関係レポーターのデビッド・アックス氏は、“爆撃機は単に爆弾を落とすだけでなく、配備されただけで明確なメッセージとなる”と語っている。
ジョー・バイデン大統領は先月、ウラジーミル・プーチン大統領(68歳)と初めて電話会談した際、米ロ核軍縮条約、アフガニスタン駐留米兵に対する報奨金問題、2020年大統領選に関わるロシア介入疑惑等、幅広い分野について協議した。
ホワイトハウスは、“ロシアが米国及びその同盟国に損害を与えるような場合、米国は米国及び同盟国の安全保障のため、毅然たる対応をすることをはっきりさせた”との声明を発表している。
同日付ロシア『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュース:「米空軍爆撃機、ノルウェーに初めて派遣」
今回ノルウェーに派遣されたのは、ダイエス空軍基地第7爆撃航空団所属のB-1B戦略爆撃機である。
米空軍がリリースした声明では、同機はノルウェーのオーランド空軍基地に派遣され、同地において、テレビ映像を使っての模擬訓練から、欧州上空を実飛行しての操縦訓練まで利用されるという。
同機のノルウェー派遣は初めての試みである。
なお、ロシア外務省のマリア・ザハロア報道官(45歳)は今月初め、ノルウェーが米空軍爆撃機を受け入れるならば、ロシアは、同国が欧州における軍事的活動を強化する目的と捉えると警告を発している。
(注1)NATO:北大西洋同盟とも呼ばれ、欧州と北米の30カ国による政府間軍事同盟で、1949年4月に調印された北大西洋条約の執行機関。NATOは、独立した加盟国が外部からの攻撃に対応して相互防衛に合意することで、集団防衛のシステムを構成している。加盟国は、域内いずれかの国が攻撃された場合、集団的自衛権を行使し共同で対処することができる。本部はブリュッセル(ベルギー)。
(注2)B-1爆撃機:ロックウェル社(現ボーイング社)が開発した、超音速戦略爆撃機。1986年運用開始で、米空軍は現在66機を保有し、2036年まで運用予定。1機当り約2億8千万ドル(約294億円)。
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既報どおり、ロシアでは目下、野党勢力代表の即時釈放を求めるデモが続き、当局側の容赦ない取り締まりに西側諸国から非難の声が上がっている。そうした中、欧州連合(EU)外相がロシアをたしなめるために訪ロしたはずが、ロシア側からうまく利用されてしまい、結果的に無駄な訪ロだったと、同外相がEU加盟国から集中砲火を浴びている。
2月7日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』:「EUトップ外交官、ロシアの宣伝に利用されて逆に非難の集中砲火」
EU外相の任にあるジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(73歳、元スペイン外相)は、EU加盟国から訪ロを中止するよう求められたのに、これを無視して3日間にわたりロシア滞在した結果、非難の集中砲火を浴びている。
同外相への非難は、ベルギー元首相のヒー・フェルホフスタット氏(67歳)を初めとした西側諸国外交官らから上がっているもので、彼らが懸念していたとおり、同外相とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相(70歳)との2月5日の共同記者会見で最悪の事態が露呈している。
すなわち、ロシア当局は、この記者会見の直前、ドイツ・ポーランド・スウェーデンの駐ロ外交官を追放すると発表した。
ロシア側はこれらの外交官が、野党勢力アレクセイ・ナワルニー代表(44歳)の即時釈放を求める1月23日の違法デモに参加していたことを理由として挙げたが、正にボレロ外相に恥をかかせるのに丁度よいタイミングであった。
同外相は、EUトップ外交官として4年振りとなる訪ロを企画し実行した訳であるが、逆に非難される結果となってしまっている。
ドイツ国営放送局『ドイチェ・ベレ』(1953年設立)のクリスチャン・トリッペ東欧放送局長は2月6日、“結局、ボレル外相はラブロフ外相の罠に嵌った、言わば哀れな学生といった体たらくだ”と酷評した。
同局長は、“何故なら、ラブロフ外相はいつも交渉相手に一切妥協しないことで悪名高いが、今回はボレル外相の政治家としての尊厳まで奪ってしまったから”だと付言した。
同外相は共同記者会見前まで、ラブロフ外相に対して、ナワルニー氏の拘束はEU・ロシア間の関係上“最悪の事態”だとして、同氏の釈放を繰り返し述べていた。
しかし、同外相が、EU加盟国の中には対ロ制裁を追加するよう求めている国はないと伝えたことから、同外相の要求事項はそっくり削ぎ落されてしまった。
もちろん西側諸国からは、同外相による対ロ制裁に関するメッセージは全くの誤りだと指摘されている。
実はボレル外相の訪ロが決まった際、EU内では意見が分かれていた。
バルト三国、ポーランド、ルーマニアなどは、対ロ制裁賦課を要求していて、同外相の訪ロはロシア側を勘違いさせるとして反対していた。
一方、ドイツやフランスは、EUによる人権擁護の立場を直接ロシア側に訴えるのに、同外相訪ロは良い機会だと主張した。
そして、1月25日のEU加盟国外相会議においては、ナワルニー氏拘束に関しての対ロ追加制裁については、暫く保留することが投票で決められた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW、注1後記)EU人権擁護部門のフィリッペ・ダム代表は2月3日、“ボレル外相は、ナワルニー氏拘束や、民衆のデモを闇雲に取り締まるロシア側政策に対して、明確に抗議すべきである”と述べていた。
しかし、ボレル外相は、ラブロフ外相が暴言を吐いたときに黙っていたことで、更に非難を浴びることになってしまった。
すなわち、ラブロフ外相は、あろうことかEUを“信頼できないパートナー”と呼んだばかりか、ドイツ、フランス、スウェーデンの研究所及び化学兵器禁止機関(OPCW、注2後記)が確認した、ナワルニー氏は旧ソ連が開発した神経剤を盛られたとの結論を真っ向から否定していたからである。
そして最後に、ボレル外相は、ロシア側が突如決定したEU3ヵ国の駐ロ外交官の追放について全く抵抗しなかったことからも、猛烈に非難されることになっている。
なお、EUから脱退している英国の元外交官デビッド・クラーク氏(81歳)も、“EUは「戦略的自立」を如何に達成するか協議しているが、その前にまず「戦略的に成熟」することが肝要”だとした上で、“ともかく、EUは対ロシア交渉、特にウラジーミル・プーチン大統領(68歳)との交渉事では絶望的に弱腰だ”と批評した。
一方、EU高官は、2月22日に加盟国外相が一堂に会し、ロシアに対する“追加政策”について協議する予定である、と発表している。
2月6日付ロシア『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュース:「EUのジョセップ・ボレル外相、EU・ロシア関係は“完璧に程遠い”と表明」
訪ロ中のボレル外相は2月6日、EUとロシアの関係は“完璧には程遠い”としたが、一方で、外交ルートは引き続きオープンとしておく必要があると表明した。
更に同外相は、EUはロシアにおける人権問題を憂慮しており、ナワルニー氏の即時釈放を求めるとも述べた。
また同外相は、ロシア当局による、EU3ヵ国の駐ロ外交官の追放についても抗議すると表明した。
なお、同外相は、2月4日~6日の滞在の間、EU・ロシア間関係に関し、広範囲にわたってロシア側と協議したが、その訪ロの成果について、2月22日に予定されているEU加盟国外相会議で報告するとも語った。
(注1)HRW:1978年設立の、米国に基盤を持つ国際的な人権NGOでニューヨーク市に本部を置く。世界各地の人権侵害と弾圧を止め、世界中すべての人々の人権を守ることを目的に、世界90ヵ国で人権状況をモニターしている団体である。
(注2)OPCW:1993年署名、1997年発効の化学兵器禁止条約に基づき、1997年に設立された国際機関。化学兵器の禁止と拡散防止のための世界的な活動を目的とする。本部はハーグ(オランダ)。
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