北朝鮮はこの程、禁煙法を制定した。金正恩(キム・ジョンウン)委員長がヘビースモーカーであることは有名な話であるが、その委員長をして今更ながらの同法制定は、新型コロナウィルス(COVID-19)感染症によって特に呼吸器系に既往症のある患者が重篤に陥りやすいとの欧米諸国の症例に恐れをなしたものとみられる。ただ、同法制定によって同委員長も禁煙するかまでは不詳である。
11月5日付米
『ブライトバート』オンラインニュース:「依然COVID-19感染者ゼロと嘯く北朝鮮が禁煙法制定」
北朝鮮国営メディアの『労働新聞』(1945年創刊の日刊紙)は11月5日、北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)が11月4日、全会一致で禁煙法を制定したと報じた。
同紙によると、政治・思想教育の施設、劇場、映画館、学校等の公共施設内、及び公共交通機関での喫煙が禁止され、違反した場合の罰則も定められたという。
名ばかりの最高人民会議が今回の禁煙法を制定したことに関し、ヘビースモーカーの独裁者、金正恩委員長の状況に関心が寄せられる。
すなわち、同委員長は国営メディア報道で、視察等の合間にしばしば喫煙を繰り返す姿が映し出されている。
一方、北朝鮮と国境を接する中国では今年初め、呼吸器系疾患であるCOVID-19発症が確認され、瞬く間に感染が拡大したことから、同委員長は国連制裁下の頼みの綱である中国と交易を遮断してでも感染流入を抑えるべく努めた。
ただ、同じく国境を接するロシアにおいても、感染が急拡大したこともあって、北朝鮮への感染が果たして防げたのか疑問が残る。
そうした中での突然の禁煙法制定のニュースであるが、韓国の『聯合(ヨナップ)ニュース』(1980年設立)は、自由主義圏と違い、北朝鮮の法制定は原案策定、議論、議員による投票という方法は取らず、突然提案されて全会一致で決められると解説した。
更に同メディアは、金委員長がヘビースモーカーということだけでなく、全成人男性の実に44%が喫煙者だとし、また、北朝鮮の慣習から女性の喫煙は不適切とされていると報じている。
そして、法制定当日の11月4日、北朝鮮政府機関のウェブサイト上に喫煙による疾患を訴え、かつ喫煙習慣を止める方法まで掲載されたという。
COVID-19患者に喫煙がどう影響を及ぼすか、世界における研究の結論はまだ出ていないが、長い間の研究により、喫煙によって重い肺疾患となったり、呼吸器系に悪影響を及ぼすことが確認されている。
そこで今年3月、金委員長は突然、同国最大の医療施設となる平壌総合病院を、同国建国75周年(2020年10月10日)までに建設すると発表した。
その際同委員長は、“首都平壌においても、残念ながら北朝鮮の健康医療施設は不十分かつ近代的でもない”と自覚し、“人民の健康促進のために、建国75周年記念事業として同病院を立ち上げることとした”と述べている。
また先月も、同委員長は、基準を満たさない防護用マスクの違法生産を取り締まるキャンペーンを打ち出し、更に、行政府からも、中国からの雲や砂塵とともにCOVID-19ウィルスが飛翔してくる恐れがあるので注意するように、との奇妙な警告が発信されている。
在韓米軍のロバート・アブラム司令官(59歳)は9月の記者会見で、北朝鮮がCOVID-19対応に非常に苦慮していることが窺える、とコメントした。
同司令官は、“COVID-19蔓延もあって、北朝鮮に対する国連制裁は威力を増していると考えられる”とし、“金委員長は今年1月末、国連制裁下の拠り所としている中国との国境を閉鎖したことから、北朝鮮の経済情勢は益々深刻化しているはずだ”と言及している。
更に同司令官は、“北朝鮮軍は兵士に対して射殺命令を出していて、これは正にCOVID-19感染流入を防ぐための形振り構わぬ方策だ”とも付け加えた。
ただ、北朝鮮から世界保健機関(WHO)に今週出された直近の報告でも、10月29日現在、同国にCOVID-19感染者は発生していないとされている。
しかし、韓国の『朝鮮日報』紙(1920年創刊)は11月4日、“北朝鮮では5,368人にも上るCOVID-19陽性者がおり、そのうち8人は外国人だと言われる”とし、“詳細な数字を含むことから、WHO関係者から寄せられた情報だ”と報じている。
一方、北朝鮮国営の『朝鮮中央通信』(1946年設立)は、“中央感染症防護委員会は感染防止のために、陸上、上空及び海上において徹底的な封鎖措置を講じ、感染症流入を防いでいる”とし、“同委員会の対策は更に強化され、国民一人一人に徹底されている”と自賛する報道を流している。
11月6日付韓国『ハンギョレ』紙(1988年創刊の左派系紙、韓国語で一つの民族の意):「北朝鮮で新たに制定の禁煙法はヘビースモーカーの金正恩にどう影響?」
11月5日付の北朝鮮『労働新聞』はその一面で、“11月4日に最高人民会議で制定された禁煙法によって、公共交通機関や公共施設内での喫煙が禁止される”とし、“違反者には罰則が適用される”と報じた。
ただ、多くの人が今後注視するとみられるのは、『労働新聞』や『朝鮮中央テレビ』(1953年設立)などでヘビースモーカー振りがしばしば報じられている金委員長に対して、同新法はどのように適用されるのか、という点である。
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5月28日の全人代で、同法案を制定することが決定されたのを受け、6月4日の
『労働新聞』は3日に労働党中央委員会国際部の談話を掲載したが、そこではポンペオ国務長官が、香港問題や台湾問題、人権問題および貿易問題で、上から目線で中国を非難している、と批判していた。
さらに7日付『労働新聞』では、「いかなる人も主権国家の自主権を侵すことはできない」との題名で、香港は中国の不可分の領土であり、香港問題の決定権は中国にあると報じている。
さらに20日の『労働新聞』は「朝中の社会主義の道を堅持する」との文章を掲載し、長期にわたって朝中の党と国家が相互に支持しあい緊密な協力関係を築いていることをうたい、中国が国家の安全のための法律と執行メカニズムを制定することは、「一国二制度」の原則を守るために正当なものであり、北朝鮮は全力でこれを支持するとしている。最後に、「朝中の友好関係はいつまでも強固に発展し、両国の社会主義建設は不断に前進していく」と結ばれている。
米国をはじめとして、G7外相会議でも「香港国家安全法」に対して批判がでるなか、『労働新聞』を借りて中国の正当性を主張していることになる。香港は7月1日に中国に返還されてから23年目を迎える。「香港の高度な自治を50年間不変とする」との約束は反故になってしまう。
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