2024年米大統領選での復活を目指す共和党では、依然ドナルド・トランプ前大統領(77歳、2017~2021年在任)の支持率が抜きん出ている。しかし、幾つもの訴訟案件を抱えるトランプでは、全米の無党派層の支持は得られないと懸念した米大富豪の政治活動家グループが、大統領選で勝てる候補としてニッキー・ヘイリィ元国連大使(51歳、2017~2018年在任)を資金的支援していくことを公表した。
11月29日付米
『ABCニュース』、
『NBCニュース』、英国
『ザ・ガーディアン』紙、
『BBCニュース』等は一斉に、米大富豪率いる共和党政治活動家グループが、2024年大統領選候補としてニッキー・ヘイリィ元国連大使を資金的に支援していくことを正式表明したと報じている。
2024年米大統領選に対する共和党予備選では、依然ドナルド・トランプ前大統領が60%近い支持を得て他候補を圧倒している。
その中で2位候補は、今年10月のアイオワ州(全米で最初の予備選投票州)における世論調査によると、ニッキー・ヘイリィ元国連大使とロン・デサンティス現フロリダ州知事(45歳、2019年初当選)が16%台で並んでいた。
しかし、ニューハンプシャー州(同2番目の州)の直近2つの調査結果では、ヘイリィ氏が2位となってデサンティス氏に差をつけている。
ヘイリィ氏も11月27日、“全米20州以上で固い支持を取り付けられた”と表明していた。
かかる背景に加えて、トランプ候補は共和党内で支持率が高くても無党派層(約40%)から嫌気されていると懸念されていることから、共和党支持の大口献金グループのひとつが11月28日、ヘイリィ氏を同党予備選候補者とし資金的支援等を行う旨公式に表明した。
米実業家で政治活動家のチャールズ・コーク氏(88歳、2009年活動開始のティーパーティ運動を支援、『フォーブス』誌2023年世界富豪ランキング17位)率いる「アメリカンズ・フォー・プロスペリティ」(繁栄を求める米国人集団、AFP、2004年設立の非営利法人)で、2016年、2020年大統領選では支持候補者を選定していなかったが、2024年選挙でヘイリィ氏を選んだものである。
AFPのエミリー・シーデル代表幹事(2017年就任)は声明で、“ヘイリィ氏が現行の政治体制を変革してくれること”を期待したいと言及した。
更に同氏は、“ヘイリィ氏は、米国が抱える最大の課題に取り組み、良い成果をもたらしてくれると信じる”とした上で、“AFPの草の根運動とデータ収集・解析力を以て彼女を最大限に支援していく”とも強調した。
また、AFP上級顧問のマイケル・パーマー氏は、“ヘイリィ氏の政策はAFPの自由市場イデオロギーと概ね一致しており、同氏によって米国民の生活環境改善に寄与してくれる人物だと信じる”と付言している。
これに対してヘイリィ氏は声明で、“全米の何百万人もの草の根運動活動家を抱えるAFPからの支援を光栄に思う”とし、“AFPは今回の選挙における問題を良く理解して、一緒に戦ってくれようとしている”と表明した。
AFPの具体的支援金額についてはまだ明らかにされていないが、今年6月の財務報告では、コーク氏個人及び彼のNPO法人から供出された各2,500万ドル(約37億5千万円)を含めた計7千万ドル(約105億円)が選挙運動資金に充当されると報じられている。
AFPは今年2月、トランプではジョー・バイデン大統領(81歳、2021年)の再選を阻止できないとして反トランプを訴えていたが、共和党支持層ではトランプの支持率が依然高止まりとなっていることを大いに懸念し、今回の対抗馬支援表明に至ったものとみられる。
なお、シーデル代表幹事は、“我々の持つデータによると、有権者の70%が高齢のバイデン候補(81歳)もトランプ候補(77歳)も支持しておらず、若い世代の登場を望んでいる”とコメントしている。
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中国が、一帯一路経済圏構想(BRI)の下でインフラ建設等にかかる巨大融資を実行することで被仕向け国を“債務の罠” (注後記)に嵌めているという批判が絶えない。そしてこの程、ラオスがスリランカ・ザンビアに続いて債務の罠に嵌ってしまう恐れがあると経済専門家が警告している。
11月8日付
『CNBCニュース』は、ラオスが中国からの巨大債務に押されて債務超過に陥る恐れがあると報じている。
ラオスはこれまで、中国のBRI構想の下、中国から数十億ドル(数千億円)の融資を受けて鉄道・高速道路・水力発電所等のインフラ建設プロジェクトを進めてきたことから、国際通貨基金(IMF、1945年設立)の推定では、中国に対する債務総額が同国の今年の国内総生産(GDP)の122%にも達してしまっているという。
中国は、ラオスにとって2013年以来最大の債権国となっているが、それが更に膨大になっていることを表している。
ラオスは、世界的な食品・燃料価格暴騰に加えて、同国通貨キップの対米ドル最安値更新に遭っており、このままでは債務不履行に陥る可能性がある。
これに対して中国は、2020~2022年に掛けて債務返済繰り延べに応じているが、世界銀行(1946年設立)は“一時的救済”であって、同国の2022年GDPの僅か8%程度にしか及ばないとコメントしている。
更に、全対外債務の37%を負っているラオス国営電力(EDL、2010年設立)が2021年、中国南方電網(CSPG、2002年設立の送電会社)と25ヵ年利権協定を締結し、CSPGにEDL発電の電力の海外輸出権を与えてしまっている。
かかる背景より、多くの経済専門家が、今度はラオスが債務の罠に嵌ってしまう恐れがあると警告している。
● 東京大学公共政策大学院の西澤利郎教授(64歳、2013年就任)
・ラオスは、債務不履行に陥らないためには、債務弁済繰り延べ・金利率削減等、中国と根本的な債務返済交渉が必須。
・例えば、中国の気候変動対策に関わる債務スワップ(発生温室効果ガス等の環境対策上の権利譲渡)等も検討対象。
・中国としても、ラオスが債務不履行状態に陥ることを望んでいないと推測。
● ローウィー研究所(2003年設立の豪州シンクタンク)インド太平洋開発センターのマリーザ・クーレイ上級エコノミスト
・中国がこれまで対ラオスで取ってきた一時的救済策を考えると、今後も余り期待できない。
・スリランカやザンビアに対する中国の債務再編成交渉を見る限り、ラオスに対しても消極的と見ざるを得ない。
・米国がインド太平洋地域での関与度が高まる中、これに対抗する中国にとって、東南アジアにおける中国の立ち位置を好転させるためにラオスとの関係強化は願ってもないことから、ラオスの債務減額等で救いの手を差し伸べることは中国にとっても最善策のはず。
● 世界銀行ラオス事務所のペドロ・マーティンズ上級エコノミスト
・中国のみならず、他の債権国・銀行団等も債務再編交渉をうまくまとめることが肝要。
・支出効率の改善、金融セクターの強化、輸出を促進しながらビジネス環境を活性化することも解決策。
● S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンス(財務データ分析等を行う米金融サービス)の田口晴美首席エコノミスト
・ラオスとしては、過度な免税措置の縮小・徴税システムの改善等税制改革に取り組んで歳入改善の必要がある。
・歳出面では、多額の債務を負っている中国国営企業に対する返済・保証条件等の厳格管理も必要。
(注)債務の罠:借金漬け外交とも呼ばれる、国際援助などの債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国側から有形無形の拘束を受ける状態のこと。友好国間で見られ、債務の代償として合法的に重要な権利を取得する。インドの地政学者ブラーマ・チェラニーによって、中国のBRI構想と関連づけて用いられたのが最初。債務国側では放漫な財政運営や政策投資などのモラル・ハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的な支配下に置くといった問題が惹起されうる。
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