先週報じたとおり、米海軍はついに10月27日朝、ミサイル駆逐艦“ラッセン”を南シナ海に派遣し、中国が一方的に埋め立てて築いた人工島の12海里(約22キロメーター)以内を監視航行させた。中国海軍はすぐさま米艦を監視、追尾し、警告する対抗措置を取っている。米政府は、今後も航行の自由を行動で示すとしていることから、挑発された中国軍との偶発的衝突のおそれもあり、緊張が高まっている。そうした中、中国と領有権で揉めている国のひとつであるフィリピンによって、2013年1月にハーグ(オランダ)の常設仲裁裁判所に提起されていた訴状に関し、この程、同仲裁が実質的な審理に入ると発表したことについて、各国メディアが一斉に報じている。
10月31日付
『NBCニュース』(米国、
『AP通信』記事引用)は、「領有権問題で中国への圧力増す」と題して、「南シナ海で中国が一方的に領有権を主張している問題で、中国への圧力が直近で増している。ひとつは、今週初めに米海軍が、中国が築いた人工島近海を監視航行したことであり、もうひとつは、国際仲裁裁判所が10月29日、中国側の反対にも拘らず、フィリピンから、国際海洋法条約(注後記)に基づいて提起されていた領有権問題について、審議に入ると決定したことである。しかし、南シナ海は、エネルギーや魚介類などの海洋資源が豊富であるばかりか、国際貿易の海上輸送上の要所であるため、中国としては、国際社会の評判を犠牲にしても、同海域の領有権問題で譲歩するつもりはないとみられる。」と報じた。
10月30日付
『ロイター通信』(カナダ)は、「欧州連合(EU)、南シナ海での米国の監視航行を支持」と題して、「EUはかねてより、中国が南シナ海のほとんどを自国の主権範囲内と主張し、一方的に人工島を建設していることを非難していた。そして、米国が航行の自由を示すための監視航行を実施したことについて、領有権で揉めているアジアの国々にとって歓迎されようと表明した。ただ、EUとしては、景気低迷の刺激剤として、中国からの投資を呼び込みたいと考えており、また、米国の意に反して、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加することを決定しており、複雑な立場にある。」と伝えた。
10月31日付
『フィリピン・タイムズ』紙(
『ボイス・オブ・アメリカ』記事引用)は、「フィリピン、国際仲裁裁判所の裁定に期待」と題して、「国際仲裁裁判所は、2013年1月にフィリピンが提起した15件の訴状のうち、7件について審議に入るとした。フィリピン外務省のチャールズ・ホセ報道官は、中国が一方的に岩礁や海域を違法占拠し、フィリピンの権利を侵害しているとの訴えが、同仲裁によって認められると期待していると述べた。」と報じた。
また、同日付
『アジア・ワン』オンラインニュース(シンガポール)は、「国際法専門家、仲裁裁判所はフィリピンの訴えを支持とみる」と題して、フィリピン大学国際海洋法学部のジェイ・バトンバカル准教授のコメントを引用して、「今回同仲裁が、フィリピン側提訴の訴状のうち7件を審議すると決定したのは、中国がこれまで、領有権の範囲内の問題について仲裁裁判所に審理、裁定する権限はないと言い張ったり、中国が仲裁手続きに参加しないと圧力を掛け過ぎたことが影響していると思われる。ただ、中国が独自に掲げる“9段線”(編注;中国が南シナ海で領有権を主張する根拠)の違法性などについては、同仲裁はかなり慎重に審理するものとみられる。」と伝えた。
一方、
『チャイナ・デイリィ』紙は、「中国外交部、国際仲裁裁判所の審理は無効と主張」と題して、「劉(リウ)外交部副部長(副大臣に相当)は10月30日、国際仲裁裁判所に中国の主権範囲内の問題について審理する権限はなく、今回の同仲裁の審理入り決定は無効である。南シナ海における中国の領有権(9段線)は歴史的に有効で、中国が批准している国際海洋法条約上も問題はない、と表明した。また、フィリピンの仲裁提起は、法の陰に隠れた政治的謀略であると非難した。」と報じた。
(注)国際海洋法条約:海洋法に関する包括的、一般的な秩序の確立を目指して、1994年11月に発効した条約。中国、フィリピンなどを含めた165ヵ国・地域が批准している。
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