トランプ政権下で米中貿易紛争が激化したが、それに続くコロナ禍によるサプライチェーン混乱と相俟って、米国にとっての最大貿易相手国が中国からメキシコに取って代わられている。
7月25日付
『ブライトバート』オンラインニュースは、米中貿易紛争に続いてコロナ禍による世界サプライチェーンの混乱もあって、米国にとっての最大貿易相手国が中国からメキシコに取って代わられたと報じている。
ダラス米連邦準備銀行のルイス・トーレス上級エコノミストは7月25日、2023年1~4月における米国の最大貿易相手国は中国からメキシコに取って代わられたと発表した。
同氏によると、同期間の米国の輸出入総額は2,630億ドル(約36兆8,200億円)であるが、その大半を占める2,342億ドル(約32兆7,880億円)の加工品においてメキシコ製品が主要となっているという。...
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7月25日付
『ブライトバート』オンラインニュースは、米中貿易紛争に続いてコロナ禍による世界サプライチェーンの混乱もあって、米国にとっての最大貿易相手国が中国からメキシコに取って代わられたと報じている。
ダラス米連邦準備銀行のルイス・トーレス上級エコノミストは7月25日、2023年1~4月における米国の最大貿易相手国は中国からメキシコに取って代わられたと発表した。
同氏によると、同期間の米国の輸出入総額は2,630億ドル(約36兆8,200億円)であるが、その大半を占める2,342億ドル(約32兆7,880億円)の加工品においてメキシコ製品が主要となっているという。
この結果、同期間における対メキシコ貿易比率は15.4%と、2014年にカナダに代わって最大貿易相手国となっていた中国をかわして最大となっている。
カナダも躍進してメキシコに次いで15.2%となり、中国は12%まで下げている。
同氏によると、米中貿易は、中国が2001年に世界貿易機関(WTO、1995年設立)に加盟を認められて以来、爆発的に増えていったという。
しかし、専門家は当初より、中国政府による輸出業者への不当な補助金支援や、中国国内市場に対する海外企業の受け入れ制限について強く非難していた。
実際問題、中国からの対米輸出額が増額するに連れて、特に製造業界では米国企業の業績低迷や、失業者の増加はもとより、平均賃金の目減りが取り沙汰されてきていた。
ところが、トランプ政権下で2018年に米中貿易紛争が勃発したことや、加工品の“ニアショアリング(注1後記)”手当ての考え方が進行したこともあって、メキシコが中国に代わって輸出高を増やしてきていた。
更に、コロナ禍による世界的サプライチェーンの寸断問題も発生し、部品調達や価格高騰に対抗すべく、メキシコに依存する態勢が益々強まっていった。
また、米国の自動車業界が早くからメキシコの低労賃に目を付けて、メキシコに多量の部品を送った上で現地生産した車を米国に輸入するビジネススタイルを成功させてきており、コンピューター生産や電化製品メーカーもメキシコに目を向け始めている。
トーレス氏によれば、特にメキシコで採用されている“マキラドーラ(注2後記)”が有益であるという。
ただ、労賃比較では中国の方が依然メキシコより安い。
何故なら、新疆ウィグル自治区のウィグル族の“強制労働”等によって、自由主義世界では許されない不当労働を採用しているからである。
しかし、トーレス氏は最後に、“かつて貿易政策は、自由主義、より大きな効果、そして安価であることが重要であったが、現在の世界貿易はそれとは違い、経済安全保障、気候変動対策、更にはサプライチェーンの弾力性がより重要視されている”と結んでいる。
なお、『ビジネスインサイダー』オンラインニュースも、“コロナ禍によって米国消費者は、迅速な配送、ニアショアリング、更には太平洋を越えての輸送に頼らずとも北米域内での海上貿易がより魅力的であることに気付かされている”と分析を加えている。
そして、“世界最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマート(1969年設立)などは、仕入れコストが少々割高となっても、「グローバル化」よりも「地域化」の方がより安全だという考えに至っている”とし、また、“消費者も、安価な中国製品の乱入で、多くの企業・工場が閉鎖に追い込まれた現実について思いを巡らしている”とも言及している。
(注1)ニアショアリング:既存の事業拠点から地理的に近い近隣国に事業を移転すること 。
(注2)マキラドーラ:1965年に制定された、製品を輸出する場合、当該製品を製造する際に用いた原材料・部品、機械などを無関税で輸入できる保税加工制度。一般にメキシコの制度を指す場合が多いが、他の中南米諸国でもパラグアイ、ドミニカ共和国、エルサルバドルなどで同様の制度をとっている国がある。
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中国では、直近の生産者物価指数(PPI)が大幅に下落しただけでなく、消費者物価指数(CPI)も弱含みで推移している。そこで、経済アナリストらが、中国経済がデフレーションに陥る恐れがあるとの見方を示し始めている。
7月10日付
『ロイター通信』は、直近のPPIが大幅に下落したばかりか、CPIも弱含みのため、大胆な財政政策が講じられないとデフレーションに陥る恐れがあるとの見方が出ていると報じている。
中国国家統計局(1952年設立)が7月10日、6月のPPI及びCPIをそれぞれ公表した。
それによると、PPIは前年比▼5.4%と、前月の▼4.6%より更に下落し、2015年12月以来最も大幅な落ち込みとなった。
また、昨年10月以降9ヵ月連続の下落となっている。
一方、CPIは前年比横ばいで、前月の+0.2%より鈍化しているが、これは豚肉価格急落が起因している。
食品とエネルギー価格を除いたコアCPIも前年比+0.4%、前月の+0.6%より伸びが鈍化しており、2021年2月以来の弱含みで推移している。
かかる統計値より、コロナ禍後の経済再生が、第一四半期(1~3月期)のみ活発であっただけで、鈍化に転じているとみられ、デフレーションに陥る恐れが出始めている。
英国の国際金融大手バークレイズ(1896年設立)のエコノミストは、“デフレーション環境がより厳しくなり、また成長の勢いが急激に鈍化していることから、中国人民銀行(PBOC、1948年設立の中央銀行)は段階的利下げを行わざるを得なくなっているとみる”と分析している。
野村総合研究所(1965年設立)は、7月のCPIが前年比▼0.5%下落すると予想しており、これは夏季の行楽シーズンでの消費増を見込んだ上でも変わらないとする。
一方、英国の経済リサーチ会社キャピタル・エコノミクス(1999年設立)のエコノミストは、“中国のインフレーション率は年末までに1%程度に上昇すると予想している”としながらも、“これは中国政府の予想水準(約3%)よりかなり低いため、PBOCは一層の金融緩和に踏み切らざるを得ないだろう”と分析している。
更に、“借り入れ需要が低迷し、人民元が下落圧力にさらされていることから、財政政策と通じての支援策が講じられるとみられる”ともコメントしている。
ただ、世界最大の総合不動産サービスの米法人ジョーンズ・ラング・ラサール(1985年設立)ブルース・パン主任エコノミストは、“PPIの下落が加速したのは、不動産や建設セクターの低迷によるものだが、前年比での下落率は下げ止まった可能性が高く、今年後半には徐々に縮小していくとみる”と分析している。
しかし、多くの経済アナリストは、PBOCによる小幅な利下げでは、コロナ禍で大きな負債を抱え込んだ企業や個人にとっては魅力とはならず、大胆な財政政策発動が不可欠だとみている。
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