ジカ熱よりも致死率の高い黄熱病が流行の兆し(2016/04/14)
近時話題となっているジカ熱。この病気のウイルスはネッタイシマカにより媒介されるが、この蚊が媒介するのはジカ熱だけではない。黄熱病にもネッタイシマカに刺されることにより感染する。黄熱病といえば、野口英世がワクチン開発の途中で死亡したことや、アフリカに渡航する際にはワクチン接種が必要な国もある、ぐらいで身近に感じる機会は少ない。しかし、この病気は予防接種を受ける以外に特効薬がなく、感染するとジカ熱よりも致死率が高い。この黄熱病が昨年末あたりからアフリカのアンゴラから流行し始め、現在周辺に拡大しつつある。専門家の中にはアジアへの拡大を懸念する声も上がっており、今後の拡大の傾向に注目が集まる。各メディアは以下のように報じている。
4月12日付
『ヴォイス・オブ・アメリカ』(米)は世界保健機関(WHO)がコンゴ民主共和国で少なくとも21人が黄熱病により死亡したと発表したことを報じている。コンゴ民主共和国はアンゴラと国境を接する国で、アンゴラの首都、ルアンダでは昨年12月から流行が始まり、1100人の感染が報告され、内168人の死亡が確認されている。この2国間では人の移動が激しく、感染者はさらに増えることが懸念されている。また、コンゴ民主共和国とは直接国境を接していないケニアでも1人の死亡が確認され、その他にもう1人の感染者が確認されている。...
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4月12日付
『ヴォイス・オブ・アメリカ』(米)は世界保健機関(WHO)がコンゴ民主共和国で少なくとも21人が黄熱病により死亡したと発表したことを報じている。コンゴ民主共和国はアンゴラと国境を接する国で、アンゴラの首都、ルアンダでは昨年12月から流行が始まり、1100人の感染が報告され、内168人の死亡が確認されている。この2国間では人の移動が激しく、感染者はさらに増えることが懸念されている。また、コンゴ民主共和国とは直接国境を接していないケニアでも1人の死亡が確認され、その他にもう1人の感染者が確認されている。
同日付
『ザ・ガーディアン』(英)は昨年末にポリオ撲滅を宣言したばかりのアンゴラで、今度は黄熱病が流行と、感染症に悩まされるアンゴラの苦悩を報じる。ポリオは糞便により感染するのに対して黄熱病は前述の通りネッタイシマカにより感染するが、両者ともウイルスにより感染する点で共通し、感染を防ぐためにはワクチンの接種はもちろんだが、病気を蔓延させない環境の整備が不可欠だとする。黄熱病流行国は財政的に厳しい状況が続いており、公衆衛生への支出が削減傾向にあるという。例えば今年のアンゴラの公衆衛生対策費用は前年に比べて33%削減され、ワクチンの購入も困難な状況が続いている。ポリオや黄熱病対策として、子ども1人あたり60ドル(約6500円)の費用が必要との試算もある。
同記事はワクチンの接種は人命を救うだけでなく、経済効果も期待できると指摘する。ワクチンを接種することにより病気の感染率を低く抑えることができ、家庭や国家の医療コストが引き下げられ、他の分野への支出の拡大を促すことができる。さらにはワクチン接種をうけた子どもはより長期にわたり学校に通うことができ、国家の経済発展に貢献するようになるというのである。ワクチンの費用対効果は高いということができよう。
同日付
『ニューズウィーク』(米)は、アンゴラはここ30年で最も大きな黄熱病の流行を経験しているとして、黄熱病の特徴や感染拡大について述べている。まず、黄熱病の症状について。この病気の症状は2段階に分けられる。まず、第1段階では、熱や痛み(特に背中)、寒気、食欲の減退、時に吐き気といった比較的軽微な症状に見舞われる。これらの症状はほとんどが数日中に消えるが、そのうちの15%程度の感染者は感染から24時間以内に第2段階に移行する。第2段階では感染者には黄疸の症状が出、時に内出血も伴う。第2段階に進んだ感染者は、適切な医療措置がとられなければ50%が死に至るという。
黄熱病はアフリカ特有の病気ではなく、ネッタイシマカがいる国ならば起こり得、南アメリカでも現在13か国で感染者が確認されている。WHOによれば、毎年8万4000人から17万人が感染し、6万人の死者が出ている。
今回の流行により、中国でも数人の感染者が確認されており、現時点での関心事として、黄熱病がアジアで流行するかということが挙げられる。これまで黄熱病がアジアで流行したことはない。この疑問について英国ランカスター大学のウイルス学者であるギャザラー氏は「ネッタイシマカはアジアにも生息しており、なぜ黄熱病がアフリカからアジアへ伝播しないのか未だ謎だ」と語る。黄熱病がジカ熱同様、流行するかとの問いに対し同氏は「正確な予測は難しいが、ネッタイシマカが世界各地に棲息することに鑑みれば、大流行は多いにありうる」とする。
特効薬がない以上、ワクチンに関心が集まるのは必至だ。ワクチン1回の接種で30日以内に99%の接種者に免疫ができるという。日本では一部の海外渡航者がワクチンを接種するのみであり、1回の摂取費用は1万2000円ほどだという。ただ、このワクチンもルアンダで、600万人に接種されており、世界的に不足しているという。当面のとりうる対策としては、お決まりの虫よけスプレーや、蚊帳の使用、水のあるところに殺虫剤をセットするといったことが挙げられるという。
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米軍、東欧への軍事配備を強化(2016/03/31)
2014年にロシアがウクライナに侵攻して以来、東欧での緊張が高まっている。背後にはEUへの加盟を希望するウクライナと、何としてもそれを阻止したいロシアとの葛藤があるとも言われている。そんな中「台頭するロシア」を抑えるべく、アメリカが東欧での軍事配備を増強する旨発表した。シリアでの和平交渉が進む中、ロシア側はウクライナ問題にアメリカの影がちらつくことを快く思わないのは必至である。各メディアは以下のように報じている。
3月31日付
『BBC』(英)は今回のアメリカの軍事配備増強の発表はNATO(北大西洋条約機構)が発足した1949年以来初めてのことと報じる。NATOはアメリカを中心としたカナダやヨーロッパ諸国により形成された軍事同盟で、共産主義に対抗することが設立時の目的とされた。
先月の米政府の発表によれば、来年はヨーロッパ対策の軍事費を4倍に増やすということだ。ブリードラブ米欧州軍司令官は、この計画により東欧をはじめヨーロッパ各地で台頭するロシアからNATOの加盟国を効果的に守ることが可能になると語っている。...
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3月31日付
『BBC』(英)は今回のアメリカの軍事配備増強の発表はNATO(北大西洋条約機構)が発足した1949年以来初めてのことと報じる。NATOはアメリカを中心としたカナダやヨーロッパ諸国により形成された軍事同盟で、共産主義に対抗することが設立時の目的とされた。
先月の米政府の発表によれば、来年はヨーロッパ対策の軍事費を4倍に増やすということだ。ブリードラブ米欧州軍司令官は、この計画により東欧をはじめヨーロッパ各地で台頭するロシアからNATOの加盟国を効果的に守ることが可能になると語っている。NATOの加盟国は2014年におきたロシアのクリミア半島侵攻(ウクライナ領、現在はロシアが実効支配している)以降、ロシアがさらに近隣諸国へ侵攻するのではないかと懸念していた。事実、英外相ハモンド氏によれば、ここ数か月ウクライナ情勢は悪化しており、停戦合意も守られていないという。このようなNATO加盟国の懸念に対しロシアの国防副大臣であるアントノフ氏は「事実無根」と語る。
今回の東欧での軍事配備拡充は、オバマ大統領の後を見据えてのものと指摘する専門家もいる。共和党のトランプ氏は膨らみ続けるアメリカの軍事費に対して批判的な態度を明らかにしている。
3月30日付
『ヴォイス・オブ・アメリカ』(米)によると、在ヨーロッパのアメリカ軍には約6万2000人の人員が動員され、内2万5000人が兵士であるという。現在アメリカ軍はベルギー、オランダ、ドイツを中心に駐在しており、今回の増強計画により兵士は2万9200人に増員されることになる。在ヨーロッパのアメリカ軍はいくつかの部隊を構成し、9か月ごとに赴任地をローテーションする仕組みをとっており、今後はエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアでの軍事演習を行う予定だとされる。
同日付
『ウォールストリート・ジャーナル』(米)は米国防副長官であるワーク氏のコメントを載せている。「今回の米軍の軍事配備増強により、最新の軍事設備が配置される。NATO加盟国のロシアに対する不安は鎮められるはずだ」。また、ホッジス米欧州軍司令官は今後はヨーロッパ諸国での共同軍事演習の機会を増やすことにより、「有事の際には協力体制をとることができ、ロシアに対する有効な抑止力になりうる」と語る。
今回の軍事配備増強は34億ドル(約3821億円)の予算を伴い、来年の2月から開始される予定である。ただ、今回の計画にはロシア側から、1997年NATO・ロシア合意に違反するとの主張もなされている。これによれば、ロシアとヨーロッパの境界には大規模で永続的な軍事配備を行わない旨の合意がなされている。この文言の定義は明らかになってはいないが、軍隊の規模は合意の解釈により適切に調整されることになると考えられる。境界付近での永続的な軍事配備ができない場合、いつでも軍隊が集結できるよう、軍事演習が不可欠になってくるだろう。
今回は軍事配備が増強されたものの、オバマ大統領の後任者の方針により、軍事配備の規模や軍事演習の頻度は変化すると考えられる。方針如何によってはヨーロッパが混乱に陥ることも十分にあり得る話だといえよう。
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