既報どおり、中国発の新型コロナウィルス集団感染は、中国よりも他国での感染拡大がひどい状況になっている。米国でも、初の死亡者が確認されたことより、中国以外の感染者多数の国-例えば韓国・イタリアからの入国を制限する動きが出ている。一方、混乱が続く日本を慮って、皮肉なことに、中国から防護服やマスクが寄贈される事態となっている。
2月29日付米
『AP通信』:「新型コロナウィルス集団感染深刻化で日々の生活が脅かされ、街は閑散、経済も混乱」
新型コロナウィルス集団感染問題がイラン、イタリア、韓国で深刻化し、また、米国でも初の犠牲者が出るに至り、世界経済に悪影響が出始めている。
アイルランド、エクアドルでも初の感染者が報告され、世界の感染者数は8万5千人、死者も2,900人を超えている。
各国の現状は以下のとおり。
・中国:新たに573人の感染、35人の死亡が確認され、総感染者数は7万9,834人、死者は2,870人となっている。
なお、新型コロナウィルス集団感染問題に伴う経済活動制約によって、2月の製造業工場生産指数(PMI、注後記)が35.7と1月の50から急落し、景気後退を示している。
・日本:安倍晋三首相は、新型コロナウィルス集団感染封じ込めの諸対策を支援するため、2,700億円(25億ドル)の補正予算を決定。今夏の東京オリンピック開催までに、鎮火できるかどうかの正念場を迎えている。
なお、感染拡大が続く北海道では札幌市が3月中旬までの非常事態宣言を出したことに伴い、街は閑散としている。
・米国:ワシントン州シアトル郊外在住の50代の男性が死亡。感染経路は依然不明。これを受けてドナルド・トランプ大統領は、“更に感染拡大の恐れがある”と警鐘。一方、国務省は、イタリア、韓国への往来に関わる注意喚起を強化し、また、イランへの渡航禁止を発表。
・韓国:新たに376人の感染が確認され、都合感染者総数は3,526人となった。ほとんどが南部の大邱(テグ)及びその周辺。
・タイ:外国人旅行者が前年比▼50%に急落(編注;2019年来訪者は3,980万人と世界9位。日本は3,188万人で同11位)。
・イタリア:感染者が1,100人を超え、死者も29人となっている。アジア以外の国では感染拡大が最悪となっており、旅行者のキャンセルが急増し、ジュゼッペ・コンテ首相は景気後退の懸念を表明。
・フランス:パリ教会の大司教が司祭に対して、礼拝者に聖餐のパンを配る際、直接口に入れるのではなく手に乗せるよう指示。
なお、政府は大規模室内競技・イベントの中止を発表。
・イラン:感染者が593人、死者は43人。保健当局は、“数万人”の検査キットを準備中と発表。
・サウジアラビア:外国のイスラム教徒によるメッカ、メディナの聖地巡礼受け入れを一時停止。この結果、数百万人のイスラム教徒が訪れるラマダン(断食月、今年は4月23日~5月23日)の際の受け入れにも影響が出る恐れがある。
・北朝鮮:金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、新型コロナウィルス感染問題は発生したら、“深刻な事態”となるとして、何としても水際で食い止めるよう各部門に指示発令。
なお、エコノミストの多くが、2020年世界経済成長見とおしが当初の+3.0%から+2.4%へと下方修正され、世界金融危機発生後の2009年以来の低成長になるとの予測を立てている。
また、米国経済も、2019年の+2.3%から今年は+1.7%に減速するとみられている。
3月1日付中国『CGTN(中国中央テレビ英語版)』:「中国、日本に防護服等を寄贈」
中国政府は2月29日、新型コロナウィルス感染問題が深刻化している日本に対して、防護服5,000着、マスク10万枚を寄贈することとしたとの声明を発表した。
第1便がそれぞれ2月27日、28日に到着したという。
また、中国の省・市当局、企業、更には個人も、義援金や必要物資を提供しようとしているとも言及した。
更に、同声明では、日本と中国は将来に向けて友好関係を継続・発展していく間柄であり、相互扶助が肝要だとも付言している。
なお、日本における新型コロナウィルス感染者は、クルーズ船“ダイアモンド・プリンセス号”乗船者のうちの705人を含めて、945人に上っている。
(注)PMI(Purchasing Managers’ Index):景気の先行きを示す指標のひとつであり、製造業の購買担当者に生産意欲などをアンケートして指数化したもの。製造業の工場が、どのような生産計画を立て、どのくらいの資材を必要としているかに基づいた指数となる。PMIが50を超えると景気拡大、50未満だと景気後退を示す。PMIは購買担当者だけでなく、原材料メーカーや金融機関、投資家にとっても、景気動向を見極める上で重要な指標となっている。
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米政府は18日、中国の主要国営メディア5社を大使館などと同様に外国機関に分類し、規制を強化すると発表した。事実上、中国共産党の宣伝組織として活動していると認定し、職員名簿の提出や米国内で保有・賃貸する不動産の登録などを義務付ける。
『ロイター通信』や
『AFP通信』などによると、米国務省は18日、中国国営の新華社通信、外国語放送の中国国際電視台(CGTN)、ラジオ部門の中国国際放送局(CRI)、共産党機関紙の人民日報と英字紙チャイナデイリーの5社に、規制強化の方針を伝えた。
国務省は5社の米国拠点に対し、米国内にある各国大使館や総領事館などの外国公館と同様に、米国で活動する全従業員を対象とした職員名簿や雇用・解雇などの状況を開示するとともに、米国内で保有・賃貸する不動産を届け出るよう求めた。職員名簿については、米国籍の職員も対象としている。
5社はまた、米国で新たに不動産の購入や賃借をする場合には、事前に承認を受けなければならない。米国内での中国メディアの報道活動自体については、一切規制が設けられなかったが、これらの措置は中国政府の反発を招きそうだ。
国務省高官らは、規制強化は貿易摩擦などの最近の米中間の緊張とは関係なく、以前から検討されていたと説明した。決定の背景には、中国政府がメディアへの統制を強めていることや、習近平氏が2013年に国家主席に就任して以降、政府のプロパガンダを行うためにメディアを積極的に使う傾向が強まっていることなどがあると指摘している。習体制になってから、報道内容と編集権限の両方に対する統制が強化されているという。
中国は、米国内で英語メディアへの投資を加速しており、現地職員を雇用して頻繁に専門的な記事を書かせているが、微妙な話題を避けるため内容に手を加えることもあり、日常の話題の間に、ウイグル人の人権問題や香港の民主派デモなどに関する中国政府の主張を盛り込むこともあるという。チャイナデイリーの米国での投資額は、2009年前半の50万ドル(約5500万円)から19年後半には500万ドル(約5億5000万円)に膨らんだ。
米政府による海外メディアなどに対する規制については、批判も出ている。ジャーナリストの権利を守り、世界各国の言論弾圧を監視する非営利団体のジャーナリスト保護委員会(CPJ)は、米政府はどの報道機関が宣伝活動を行っているかを決めつけるべきではないと主張し、懸念を表明した。
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