先に報じたとおり、中国は、南シナ海の人工島に戦闘機等の格納庫を建設しているだけでなく、新たな衛星を打ち上げて同海域を宇宙からも監視しようとしている。一方、この動きに対抗するように、ベトナムは、常設仲裁裁判所(PCA)の裁定を追い風に、西沙(パラセル)諸島での轍を踏まないよう、南沙(スプラトリー)諸島のいくつかの島にロケット砲を配備し始めている。そして、中国の動きを警戒している日本は、岸田外相にフィリピンを訪問させ、ドゥテルテ新大統領と会談の上、対中国政策について突っ込んだ協議を推し進めている。
8月11日付米
『ロイター通信米国版』:「フィリピン、“妥協することなく”中国に対してPCA裁定の尊重を求めていくと表明」
「●フィリピンのペルフェクト・ヤサイ外相は8月11日、フィリピン訪問中の岸田文雄外相と会談した際、中国に対して、南シナ海においてもまた東シナ海においても、PCA裁定やその他国際法を尊重するよう強く求めていくと表明。
●日本とフィリピン両国は、同海域の安保上の協力や、日本側の経済支援等について協議。」
同日付フィリピン
『ザ・マニラ・タイムズ』紙(
『AFP通信』記事引用):「日本とフィリピン、中国に国際海洋法尊重を要求していくことで一致」
「●岸田外相は、ロドリゴ・ドゥテルテ新大統領とも会談し、南シナ海問題で、PCA裁定を尊重し、国際法に基づいた平和的解決を中国側に求めていくことで一致。
●一方、フィリピン最高裁判所のアントニオ・カルピオ上級判事は8月11日の講演会で、フィリピン政府に対して、中国を相手取って損害賠償請求を提訴するよう提言。
●同判事は、PCA裁定で中国主張が退けられた以上、中国から被害を受けた漁船やその他諸々の損害について、新たな訴訟を起こすべきと主張。
●同判事は、1986年に米国を相手取って国際司法裁判所(ICJ)に提訴したニカラグアの例を引いて、ICJはニカラグアの訴えを認めており、フィリピンが勝つ可能性が高いとコメント。」
一方、8月12日付ロシア
『スプートニク・インターナショナル』オンラインニュース:「日
本、フィリピンとベトナムとの軍事協力強化を追及」
「●南シナ海における中国と東南アジア諸国との領有権問題が悪化する中、日本政府は2017年度以降、フィリピンとベトナムにおける駐在武官の数を増やし、両国との軍事連携強化を追及。
●今年4月1日現在、日本は合計61名の駐在武官を世界各国及び国際機関に派遣しているが、現在1名ずつのフィリピン、ベトナム駐在武官を、2017年度よりそれぞれ2名に増やすことを決めたと発表。
●なお、今年に限っても日本は、フィリピンに防衛装備品の提供について契約を締結し、また、4月には、ベトナムのカム・ラン湾に2隻の駆逐艦を歴史的派遣。」
また、同日付中国
『環球時報』:「日本はフィリピン軍港に注目と専門家が分析」
「●日本とフィリピンは8月11日、中国に対して領土問題解決のため国際法に準拠するよう要求していくことで一致と発表。
●しかし、中国の軍事専門家は、日本の本当の目的は、フィリピンの軍港に艦船を派遣しやすいよう下地作りをすることだと分析。
●また、日本はフィリピンの防衛力強化に資するため、監視船やP-3C哨戒機を低価格、場合によって無償で提供する意向。
●なお、
『朝日新聞』は、中国の度重なる東シナ海での中国公船等の領海侵入に対して、日本が何度も非難してきたことに抗議するため、中国側が外交部の胡正躍(コン・シャンヨウ)部長補佐の訪日を取り止めることを通告してきたと報道。
●また同紙は、日本政府関係者の話として、今の状況で、9月初めのG20サミット(浙江省杭州市)において、安倍晋三首相と習近平(シー・チンピン)主席との会談の設定は難しいとコメントしたとも報道。」
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既報どおり、7月12日にリリースされた国際仲裁裁判所(PCA)裁定に対して、日米等西側諸国は、当事国に対して同裁定を尊重するよう求めているが、全面敗訴した中国、及びその経済力・軍事力に屈している国が、異論を唱えている。そして中国は、PCA裁定を不受諾と表明するだけでなく、PCAの存在を否定し、また、PCA判事任命の公平性まで持ち出して、徹底的に対抗しようとしている。
7月17日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』:「カンボジア高官、米空母に乗船して南シナ海航行」
「●カンボジアはそもそも中国支持を打ち出している国であるが、米原子力空母“ロナルド・レーガン”のマイケル・ドネリィ艦長の招待に応じて、カンボジア国軍及び内務省の高官10人が7月17日、同空母に乗船して南シナ海を航行。
●同艦長によると、領有権争いの火花が散るスプラトリー(南沙)諸島とパラセル(西沙)諸島のほぼ中間海域を航行したが、多くの船舶が行き交う姿を見せて、航行の自由の大切さを理解してもらう意図と説明。
●カンボジアのプルム・ソカー内務相は、微妙な時期であるが、同海域の平和と安定を維持するため、関係国との連携、相互理解は必要とコメント。
●なお、同内務相は7月14日、領有権争いについてカンボジアは、当事国の対話による平和的解決を望む立場だと表明。」
同日付米
『ロイター通信米国版』:「ベトナム活動家、南シナ海問題で中国を非難したために拘束」
「●中国と領有権問題を抱えるベトナムにとって、PCA裁定は追い風になるはずであるが、ベトナム警察は7月17日、中国がPCA裁定拒否を表明したことを非難して抗議活動をした約20人のベトナム人活動家を拘束。
●目下、ベトナム政府はPCA裁定に関し正式コメントを控えているが、ハノイのフィリピン大使館前で、“中国はPCA裁定を守れ”とか“フィリピン政府は勇敢”等のプラカードを持って抗議行動をしていた活動家を取り締まり。」
7月18日付英
『メール・オンライン』(
『ロイター通信』記事引用):「中国海軍上将、航行の自由と称する監視航行は“惨憺たる結果”をもたらすと警告」
「●中国海軍上将で、党中央軍事委員会の孫建国(スン・ジェングオ)副参謀長は7月16日晩、今後如何なる国であろうと、南シナ海の中国主権内において、軍艦による航行の自由と称する監視航行を行えば、中国は武力による対抗措置を取ると宣言。
●中国は、同海域の航行の自由を支持しているが、(米国を想定して)中国が不受諾のPCA裁定に乗っかって軍艦による監視航行を行うことは不寛容と主張。」
同日付フィリピン
『マニラ・ブルティン』(
『AP通信』記事引用):「中国、南シナ海での軍
事演習実施と発表」
「●中国海事局は7月18日、海南(ハイナン)島南東部海域で7月19~21日の間、軍事演習を行うため、如何なる船舶も同海域の航行を禁止すると発表。」
一方、同日付中国
『チャイナ・デイリィ』(
『新華社通信』記事引用):「臨時の仲裁裁判所
が南シナ海問題を審理」
「●7月12日にリリースされたPCA裁定に対して、中国は不受理を表明し、かつ、反論文を発表しているが、更に以下の問題点を提起。
●臨時の仲裁裁判所
・西側メディアは、PCAの最終判断とか、国連指導の仲裁というがこれらは全て事実無根。
・今回は、南シナ海問題審理のためだけに臨時に開設されたもので、常設に非ず。
・国連憲章によって設立された紛争解決機関は国際司法裁判所(ICJ)だが、PCAとは無関係。
・国連海洋法条約(UNCLOS)に基づいて設立されたのは国際海洋法裁判所(ITLOS)であるが、PCAはこれとも無関係。唯一の関係性は、PCAの判事が当事者から任命されない場合、ITLOS所長が任命するという条項のみ。
●判事選任の不公平さ
・ICJの15人の判事は全大陸を代表して選出され、国連総会及び国連安全保障理事会で承認、また、ITLOSの21人の判事もUNCLOS加盟国によって選出。
・これに対して、PCAの5人の判事は、南シナ海があるアジアから1人も選出されておらず、また、南シナ海の海洋問題や歴史に詳しい人物が皆無。
・更に、当該5人の判事を選出したのは、当時ITLOS所長だった柳井俊二氏だが、日中間には東シナ海の魚釣島(尖閣諸島)で領有権問題があり、かつ、同氏は、日中間の軋轢を高めることになった安全保障関連法を制定し、集団的自衛権を確立させた安倍政権において、首相の私的諮問機関の委員を歴任していることから、同氏がPCA判事を選任することは公平性を欠く。
●異常に高額なPCA審理費用
・専門家筋によれば、この種の仲裁裁定の審理費用は、時間当り600ユーロ(666ドル、約7万円)、1日当り4,800ユーロ(5,330ドル、約56万円)。
・しかし、今回フィリピンは、2,600万ユーロ(2,890万ドル、約30億円)を支払ったと試算。
・更に、フィリピンの
『マニラ・タイムズ』の評論家のリゴベルト・ティグラオ氏は7月15日、フィリピンが今回の仲裁のために雇った弁護士事務所の報酬が3,000万ドル(約32億円)と、フィリピン国家予算の0.1%に相当するとコメント。
・そして同氏は、米国が望むような裁定を獲得したのだから、米国はこの仲裁費用を弁済すべき、とも主張。」
柳井氏は7月14日付『朝日新聞』のインタビューに答えて、「PCA判事は、UNCLOSに基づき公正に選出した」と述べている。しかし、政府プロパガンダの宣伝機関と自他ともに認めている中国国営メディアが、日本のメディア1紙掲載のかかる記事をまともに取り上げるはずもない。従って、中国の無茶苦茶な言い掛かり的発表をきっちり論破し、他国にも中国発言を鵜呑みさせないためにも、日本以外の国際メディアの前でしっかり反論していく必要があるのではなかろうか。
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